めぐるひと / 前田軍
written by 榊枷欄
白いご飯からは暖かい湯気と匂いが立ち上って、まつの肌は同じに白くて。
しかし利家は受け取った茶碗を落としそうになった。
「犬千代さま。明日の戦、まつはおとも出来ません。」
「そ、そうかぁ…」
肩を落として沢庵をぽりぽりかじる利家。寂しそうな顔をしながらも食欲は衰えず、おかわりと言って腕を突き出しまつに茶碗を渡す。
「明日は晩御飯もおにぎりも作れませんの。」
ですのでくれぐれもお気をつけくださいね、まつの言葉に利家は泣き顔になる。
それでも飯は美味かった。
「大将〜、敵軍来てますよー!!」
配下達の言葉に耳も傾けず一人どんよりとうつむいた利家。生気のない顔で半笑いしながらため息をついている。
挙句しゃがみこんで地面にのの字を書き始めた。
大将がこんな様子では戦にならない。配下も必死になり始めた。
「利家殿〜!槍の又左がそんなでどうするんですか」
「ほら、早くやっつけてまつ殿の飯を食いましょう!」
一番効果の見込める言葉を吐いた者が居た。だがその言葉に利家は
「まづーー!うわぁぁぁ!!」
泣き出した。まるで赤子のように手足をばたつかせている。
「馬鹿者!今日まつ殿はご不在だぞ、」
仮にも大将・槍の又左衛門。顔なし凡武将たちには宥め賺すことも一撃喰らわせてお説教することも出来ないのだ。
「ううぅ…まつの飯が食いてぇ」
などと口走る駄々っ子だとしても。
「どうするんだよ…敵も来てるし」
「どうするったって…まさかまつ殿が居ないとここまで大変だとはなぁ」
もうこのまま勝手に戦し始めようか、しかしそれでは戦力差が辛いなぁ、などと困り果てる配下達。
そこへ
「なにやってんだい、あんたたち。」
風のように援軍がやって来た。
深夜。まつは濃姫の泊まっていけと言う誘いを丁寧に断り、自宅へ帰った。
いつもの利家なら眠っている時間のはずなのに、部屋に明かりが灯っていることを不審に思いながら襖を開ける。
その途端
「まつ、これ!」
赤い目をした利家が腕を突き出してきた。握り締められた手には小さい花と、大量の緑の草。
「まあ、私にくださるんですの?」
萎れかけたそれを受け取り、まつは座布団の上に座る。
利家はまつの向かい側に胡坐をかいて身を乗り出しながら尋ねた。
「まつ、朝飯はまだか?」
こんなのさっさとおわらせてまつねえちゃんにはなでもおくってやんなよな!
花を贈る人々*前田軍
まつ姉ちゃんは濃姫様にお呼ばれしてました。