紅葉と戯れと約束と / 小十郎×政宗
 
written by 青桐



風が冷たいと感じるようになった。一風ごとに冬が近づいてくるのが解る。
もしかしたら近々雪を見られるかもしれない…
奥州の冬は厳しい・・
心なしか山々を駆ける獣達に焦りを感じる。近づいてくる冬のために
皆が冬の長い長い眠りにつく…そして山々が静かに雪化粧を楽しむだろう
そしてはらはらと舞う落ち葉を政宗はつかんだ
簡単なようで意外と難しい先程から3回挑戦してようやく1枚掴めた
紅葉したキレイな葉、政宗は嬉しそうに振り返る
そして得意そうに振り返った先の大きな老木の下にいる男に見せる
「Yaha!見ろ小十郎掴めたぜ」
「お見事です政宗様」
小十郎と呼ばれた男は政宗に近づきながら優しく微笑む
幼い頃から変わらないこの遊び
小十郎がすっと手を伸ばして1度で可愛らしい小さな紅葉を掴んで政宗に差し出すのも恒例
「どうぞ」
幼い頃から変わらない悔しそうな政宗の顔が嬉しくて
幼い頃から変わらない木の葉を受け取る政宗のはにかんだ顔が愛しくて
主従、仕来りそんな面倒くさいことを取り払えるひと時
「チッ…今年も負けか」
「昨年は5度目で取れました来年は小十郎の負けかもしれませぬ」
大切な人とゆっくりと時間を共にできる時代でない事は解かっている
それでも願わずにはいられない
「今年で紅葉何枚目だ?」
「かれこれの枚数かと」
「小十郎…来年覚えとけよ」
明日生きていられるか解からない時代に
守れるかどうか解からない約束をしたくなる
「来年もここへ参りましょう政宗様」
「当たり前だ負けっぱなしは癪だprovoking!ha!」



いつの頃からか恒例となっていた遊び
それは遠いようで昨日のことのような鮮明な記憶
あれから政宗の手に何枚の紅葉が贈られただろう
あれから小十郎の手から何枚の紅葉を贈ったのだろう
政宗が秘かに一枚一枚大切に押し花にして小さな蒔絵の箱に入れていることを小十郎は嬉しそうに見ていた



時が経つにつれ
乾燥して色褪せてゆく紅葉の葉
時が経つにつれ
色鮮やかになってゆく想い出
時が経つにつれ
深く確かなものになってゆく恋



その恋が愛に変わる頃
紅葉の葉は箱から溢れるほどになっていた
二人の想い出と愛情のように
それからまた幾月かの時が流れ
春が来て
夏が過ぎ
紅葉とした山は秋の訪れを告げていた
紅葉の季節






「〜♪」
土間からよい香りが漂ってくる
その香りは幸せそうな口笛の音を乗せて格子の間をすり抜けて
馬の準備を終えた小十郎の耳に届く
思わず口元が緩む
「政宗様馬の準備が整いました」
「OK!こっちもあと少しで…っと…お前の好きな卵焼きの完成だ」
「政宗様の料理はどれも美味しゅうございます」
「…/// 少し待ってろ白和えもつけてやる」
「こちらの弁当はもう包んでもよろしいですか?」
「ああそれはお握りだから適当でいいぜ」
「お握り…」
「小十郎の好きな具ばっかだ…おかかに昆布に梅」
「!…ありがたき幸せ」
「ほら小十郎これ味見しろ」
「はい、では小皿を…」
「silly!皿を汚すな!あーんしろあ〜ん!」
「!!////」
「美味いか?」
「とても・・・///」
仏頂面の小十郎が人前では絶対見せない笑みを政宗に向ける
政宗は白胡麻をすりながら嬉しそうに笑う
背中越しに、これまた嬉しそうな小十郎が目に見えるようで
温かな空気が二人を包む
「今年こそお前に紅葉をくれてやるよ小十郎」
「楽しみにしております政宗様」
意気込む政宗に、にっこりと笑う小十郎は幸せとしか言いようがない笑顔だ
そんな小十郎を誰よりも政宗は好きだと思う

二人
この瞬間この一瞬が大切で・・・つかの間の平穏だから
澄み切った高い空
またこの季節を二人で迎えることができた喜び
愛馬の目にも美しい紅葉が映っているだろうか
紅い紅葉
変わらない
遊び
明日の見えない二人
祈りのような儚い願い
また来年
約束




fin