異常気象だ。
スコールは憮然と呟いた。
空はどんよりとした灰色の重い雲に覆われ、見上げて鬱になりそうだと溜息を落とした。
「スコールさーん?おーい。」
横でひらひらと手を振るリノアに、なんでもないと首を横に振る。
スコールはリノアには素直だ。それは彼の補佐官でもあるサイファーが日ごろ恨み言のように呟く言葉で、スコールにもその自覚があったし当然リノアにもスコールに愛されている自覚はあった。
だからスコールのある意味でそっけない返答にも、リノアはふーんと呟いただけだった。歩きながらリノアは腕を後ろに組んで、スコールと同じように空を見上げる。
穏やかな天候で知られるリゾート地のバラムしては珍しく、今年は異常に寒かった。去年の暮には何度か雪が降ったし今は三月に入っているはずなのに、気温はいまいち伸びない。寒さは平気というスコールとトラビア出身のセルフィ以外の仲間達は春の訪れを願うばかりだ。

突然リノアがあ、と小さく叫んでスコールの腕を取って店のショーウィンドウに駆け寄った。
洋服店には春をイメージしているのか、淡い色合いの服がディスプレイされている。
じっと見ているリノアに入るか?とスコールが言った。
スコールとスコールの抱えている荷物(リノアの購入したものだ)とショーウィンドウを比べるように見て、リノアは首を横に振った。スコールが不思議そうに首を傾げる。
「リノア?」
「スコール、私の買い物にばっかりつき合って退屈じゃない?」
伺うように言ったリノアに、ああとスコールは今更気付いたように息を吐いた。
リノアから見てスコールは他人に合わせるのがとても苦手で、さらに彼の普段の生活を考えると他人に割いているはずの時間の余裕は少ないはずだ。
「退屈じゃない。」
意外な言葉にリノアは一瞬瞠目した。それを楽しげにスコールがくすくすと笑う。それにもう一度大仰に驚いて見せて、リノアはどうしてとスコールを振り向いた。
「リノアが楽しそうだから。」
「………」
「リノアが楽しいなら、俺も楽しい。」

悔しいわとリノアが小さく呟いた。風に紛れるような音を聞き取ってスコールが首を傾げる。
「私、きっとスコールには勝てないわ。」
かしその顔は笑みにあやどられていたのだけれど。