春の日差し / ヘタリア (枢軸組)
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麗らかな春の光が燦々と降り注いでいたある日。
「決めた!」
ヨーロッパの一角で、一人の青年が立ち上がった。
その日、ルートヴィッヒは相も変わらず早朝から仕事に追われていた。
景気対策、周辺諸国との調整、連日の会議・・・。更にそれらが終われば上司のご機嫌取り。やる事は湯水のように溢れてくる。
「…はぁ、ちょっと休憩するか」
書類整理が一段落したので、疲れた目を休める目的も兼ねコーヒーでも飲もうと席を立った。すると
バンッ
「ルート、ルート〜」
「Σうおっ」
いきなりタックルを食らわされた。
その聞き覚えの有りすぎる声と行動にルートヴィッヒの額に青筋が浮かび上がる。
「フェ〜リ〜シア〜ノ〜〜ッ!!!
いきなり飛び付くなと何度言ったら分かるんだ!!!」
「うっひゃぁーー。ごめんなさい、ごめんなさいいいーーー!!もうしない!もうしないから、打つのだけは勘弁してええぇぇぇーーー!!」
ルートヴィッヒご自慢の筋肉でフェリシアーノを締め上げると、彼は手足をバタバタと動かし必死になって懇願しだした。
――しばらくお待ち下さい――・
「―――で、いきなりやって来て何の用だ?」
あれから散々フェリシアーノに説教したルートヴィッヒは、漸く満足したのか此処へ来た目的を尋ねた。
それまでショボンとしていたフェリシアーノはさっきまでが嘘の様に、それに喜々として答える。
「ヴェ!あのね、あのね、ルート、これから俺と出かけよう!!」
「はぁ?!今からか?・・悪いが俺はまだ仕事が残ってるから・・」
「えーー、そんなの後からでいいじゃん!!ね、行こうよ?」
「ダメだ!唯でさえ仕事が山積みなんだ。お前に構っている暇はないっ!!」
ここまで強く言われると、普段のフェリシアーノなら諦めるところだが、今回はそうはいかない。
ルートヴィッヒの上着を掴む。
「一日!たった一日だけでいいからああぁぁ!」
「む・・・そんなに大事な用事なのか?」
思った以上にフェリシアーノが食い下がってきた為、ルートヴィッヒは少し逡巡する。
それを見たフェリシアーノは、更に畳み掛けた。
「そ、そう!すっごく、すっごく、すっごーーく大事な事なんだ!!それに今じゃないと出来ないことなんだよ!」
「ハァ・・わかった分かった。お前がそこまで言うのなら行ってやる」
「本当っ!!ルート大好き!!」
「Σうおっ!!だから!急に飛びつくなと・・・」
「早く行こう!!」
「おい・・」
そんな言い合いをしながら、2人は部屋を飛び出していった。
* * * * * * * * * * *
「ふう、まだ半分ですか。今日中に終わるのか微妙になってきましたね」
菊は一旦筆を止め、凝り固まった筋肉を解すように肩を回した。
バキゴキと嫌な音を立てる肩。
「あー、事務仕事は老体にはきついですねー。・・・そういえばそろそろ原稿のほうにも取り掛からないと・・」
ピンポーン
取り留めなく思考を巡らせていると、来客を知らせるチャイムが鳴った。
仕方なく重い腰を上げ、出迎えるために玄関に向かう。
「(今日は来客の予定はなかったはずでずが・・) はいはい、どちら様ですか?」
ガラララっと戸を開ける。
すると大きなものが身体にぶつかって来た。
「菊ーーぅ!!久しぶりーーー!!!」
「!?ふぇ、フェリシアーノくん!!??」
ぶつかって来た大きなものの正体は、昔からの顔なじみであるフェリシアーノだった。そのままガバッと抱きしめられる。
正直、苦しいです・・・
「ハグ、ハグ〜〜〜」
「・・・ちょ、フェリ・・・く・・ん!!・・・も、やめっ・・」
「いい加減にしないかーーーーっっっ!!!!!」
そろそろ窒息しそうになった時、大きな怒鳴り声と共に、フェリシアーノの身体が菊から離れた。――否、離された。
ごほ、ごほっ、と咳き込みながら菊が正面を見上げると、そこにはフェリシアーノの首根っこを掴んでぶら下げたルートヴィッヒの姿が。
「お、お久しぶりです、ルートヴィッヒさん。助かりました」
「ん?ああ、久しぶりだな。本田」
そう言った後、ルートヴィッヒはフェリシアーノに向き直り説教を始める。あの体勢のまま。
本来ならば菊はルートヴィッヒが説教し終えるまで待つが、今は場所が悪い。何せ自分の家の玄関先である。
(ご近所さんからの目が!!・・・このままにしておく訳にはまいりません!)
「あ、あのっ!」
「む、何だ?本田」
思い切って声を掛けると、直ぐにルートヴィッヒは反応してくれた。
その事に少し安堵しながら、話を続ける。
「お取り込み中のところ申し訳ないんですが、本日はどういったご用件でしょうか?」
「あ、そうだったな。実は・・・」
「ヴェ〜、菊!これから俺たちと出かけよう!!」
ルートヴィッヒの話を遮って、今だ宙吊りにされたままのフェリシアーノが答える。
話を遮られてルートヴィッヒはムッと顔を顰めたが、異論はないらしい。
反対に菊は困惑した表情を示した。
「い、今からですか!?・・・真に申し上げ難いんですが、私にはまだやらなければならない事が・・・」
「いいから、いいから!ほら、行こう!!」
「あ、ちょ・・・っ!!」
「諦めろ、本田」
フェリシアーノに手を掴まれ、そのままグイグイと引っ張られる。更に止めとばかりにルートヴィッヒにそんな事を言われては、もはや成り行きに任せるしかない。
はあ、と溜息を吐きながら菊は2人に付いて行った。
(せめて玄関の鍵くらいは掛けさせて下さい)
* * * * * * * * * * *
そんなこんなでフェリシアーノを先頭に進んでいく3人。
流石に行き先も知らされぬままではどうか、と考えた菊がルートヴィッヒに尋ねるが、知らないとばかりに首を横に振られる。
では、フェリシアーノはと言えば、
「ヴェ〜〜、着いてからのお楽しみだよ!」
と言ってはぐらかされた。ルートヴィッヒ曰くずっとこんな調子だったらしい。
様々な交通機関を用いて移動していく内に、景色は、人工的な色合いから徐々に自然的な色合いへと変化してきた。どうやら郊外へ向かっているらしい。
そして菊の家を出てから、優に3時間以上は時が進んで漸く・・・
「着いたあぁーーーー!!!」
フェリシアーノの足が止まった。どうやらここが目的地らしい。
「「・・・此処がか(ですか)?」」
2人が疑問に思うのも無理はない。
3人が今立っている場所は、小高い丘の上だった。
辺りは一面緑の若草で覆われ、所々に覗くピンクや白色の野花が彩を添えている。吹き抜ける風はそよそよと優しい。
ふと耳をすませば傍の木々からは可愛らしい小鳥の囀りが聞こえてきた。
実に長閑だ。
菊とルートヴィッヒが半ば呆然と立ち竦んでいると、フェリシアーノが何やら肩に下げていたカバンをごそごそしている。
そして徐に取り出したのは――
「・・・・シート・・ですか?」
「ああ、シートだな」
フェリシアーノのカバンの中から出てきたのは、なんて事はない、何処にでもありそうなブルーのレジャーシートだった。
フェリシアーノは喜々として其れを地面に敷き始める。中々に大きい。
何となく嫌な予感を感じながら、「これから如何するんだ(ですか)?」と問えば、自信満々な答えが返ったきた。
「決まってるじゃん!シエスタだよ〜〜」
菊とルートヴィッヒ、2人の中で何かが切れた。
「フェリシアーノッ!!!!」
「フェリシアーノくんっ!!!」
「う、ヴェッ!??」
フェリシアーノに掴みかかるルートヴィッヒと菊。2人の剣幕に戦くフェリシアーノ。
突然の大声に驚いてバサバサと飛び立つ小鳥たち。
「そんな理由で私たちを連れ出したのですか?!!」
「凄く大事なことだと言ってたろう!!」
「・・・や、だかr」
フェリシアーノは何とか口を挟もうとしたが2人の勢いは止まらない。
「それに、態々此処まで来なくてもシエスタなんて家でも出来るでしょう!!!」
「むしろ1人でやってくれ!!俺たちを巻き込むな!!」
「ルートさんの言うとおりですよ。私は今、そんな暇は無いんですから!!」
「俺だってそうだ。今日提出予定の書類があったんだ!それをお前が・・・・・(以下略)・・・・・今日しか出来ないなんていうからついて来てやったのに!!」
「私もですよ!早く終わらせないと原稿に取り掛かれません!!今回は・・・・(更に以下略)・・・・・貴重な時間をどうしてくれるんですか!??」
「そうだ、どう責任を取るつもりだフェリシアーノ!??」
「フェリシアーノくん!!?」
2人に凄まれ、半泣きになりながらも言葉を紡ぐ。
「うわぁぁん!!ごめんなさい、ごめんなさいいいぃぃっ!!!!2人が忙しいのは分かてたんだようぅぅ」
「「じゃあ何故っ!?」」
「だって、だって、2人とも最近ゆっくりしてないじゃんーーっ!こうやって会うのだって一年振りなんだよ。
仕事が大事なのは分かるけど、もっと休まないと、その内身体壊して倒れちゃうよーーー!!・・・俺そんな2人は見たくないから、こうなるだろうなって思っても、どうしても連れて来たかったんだ。無理いってごめんよぅうぅうぅ」
「フェリシアーノ・・・」
「フェリシアーノくん・・・」
この強引な行動が、自分たちの体調を気遣ってくれたことだと気付いたルートヴィッヒと菊は、申し訳ない気持ちになる。
そこで、せめてもの償いとしてまだメソメソと泣いているフェリシアーノの頬に2人で触れる。
「ごめんなさい、フェリシアーノくん」
「ヴェ!?菊?」
「すまなかった、フェリシアーノ」
「ルートまで・・」
頭を下げる、ルートヴィッヒと菊。2人がそこまでするとは思いもよらなかったフェリシアーノは吃驚して涙が引っ込んだ。
「私たちの事を想って遣ってくれた事だったんですね。それなのに責めてしまって・・本当に申し訳ありませんっ!」
「俺も、散々言って悪かった。お前なりに色々考えての行動だったのにな・・本当にすまんっ!!」
「も、もういいよ!2人とも顔を上げてよ!こんなことを遣りに来た訳じゃないんだからさっ」
それでも中々顔を上げない2人にどうしよう、と悩んだフェリシアーノだったが、不意に良い事を思いついた。
ちょっと後ろに下がって、助走をつける。そして――
「えいっ!!!」
「Σうおっ!!」
「Σぅわっ!!」
思いっきり菊とルートヴィッヒの身体に体当たりする。すると不意打ちを受けた形になった2人は、勢いを殺しきれずそのまま後ろへ倒れこんだ。しかし流石は2人といった所か、受身はバッチリである。
それ程ダメージを受けず、3人は運よく敷いてあったブルーシートの上に寝転がる。
「フェリシアーノっ!!いきなりは止めろと何度も・・」
「まあまあ、ルート。それよりホラッ!空が綺麗だよ!!」
その声に促されて、ルートヴィッヒと菊は顔を上げる。
蒼穹と呼ぶには少し淡い色の空が視界いっぱいに広がる。そこに時折ふわふわとした綿雲が風に流されて、少しずつ形を変えながら流されていっている。
(ああ、なんだか・・・)
「「久しぶりだな(ですね)」」
菊とルートヴィッヒ。同時に呟いた言葉が見事に重なり、お互いに向き合う。その様子にフェリシアーノはくすくすと笑う。
暫く目と目を交し合った2人だったが、何か通じ合ったのか、フッと表情を綻ばせる。
「偶にはこういうのもいいな」
「ですね」
「じゃあ、皆でシエスタしよう〜〜〜」
ポカポカとした陽気の元、3人仲良く川の字になって眠るのだった。
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written by 咲菜
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