晴れのち雨っ!! / ヘタリア (アーサー×菊+王)
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ピンポーン ピンポーン
昔ながらの立派な日本家屋。その玄関に俺―アーサー・カークランド―は立っていた。
俺がここに来た目的は言わずもがな、家主であり、こ、恋人でもある本田菊に会いにだ。
(あっ!べ、別に恋しくなったから会いに来たわけじゃないからなッ!!偶々、こっちに来る用事があったから寄っただけなんだからなッ!!)
なんて誰も聞いていないのに心の中で叫びつつ菊が出迎えてくれるのを待つ。
しかし、暫く待っても一向に菊が出てくる気配がない。
普段の彼ならば、客人をあまり待たせるのは良くないと考えるからかチャイムが聞こえると直ぐに、少し小走りで玄関まで出迎えに来る。毎回その行動を目にする度に、まるで一秒でも早く俺に会いたいのか、何て考えてしまい顔がにやけて仕方がな(ry
・・・ゴホンッ。そんな事はさて置き。
「おかしいな。出かけてんのか?・・・やっぱり先に連絡しておいた方がよかったか・・・・」
そうブツブツと呟きながら、留守なら仕方がない、出直すか。と踵を返そうとした。
が、ふと思い立って引き戸に手を掛ける。そしてそのまま横へスライドさせると・・・
ガラララ・・
(あ、開いちまった・・・)
戸は何の抵抗もなく溝の上を滑った。
まさか開いているとは思わなかった為、引き戸に手を掛けたままの体勢で呆然と固まる俺。
だが直ぐに正気に戻り、そっと中の様子を伺う。
もしかしたら鍵を掛け忘れて出かけたのかもしれない。もしくは空き巣に入られたか。
しかし俺の考えは取り越し苦労だったようで、微かだが人の話し声の様なものが聞こえた。
(何だ。居るんじゃないか・・・出かけてんじゃなくて、チャイムの音が聞こえなかっただけか)
そうと分かれば勝手知ったる恋人の家。掃除の行き届いた玄関に靴を脱ぎ、家に上がりこむ。・・・“紳士”という単語がちらりと頭を過ぎったがここは敢えて無視だ。居ると分かっているのに、この侭すごすごと帰ってたまるか。ただでさえお互い忙しくて中々会えないのに。
* *
記憶を頼りに廊下を進んでいくと、微かだった話し声が段々大きくなってきた。同時にその声が1人のものじゃないことにも気付く。
(他に誰か来てんのか?)
自分の他に客人が居るという至極常識的な事が、この時の俺の頭には全くと言っていいほど無かった。
――そうだよな、菊には俺以外にも友達沢山居るもんな・・・・グスッ。
少し凹みながらも話し声の聞こえる方へ行くと、どうやら居間に居るようだった。
「・・・・・・って・・・・・・・・っ!!!」
「・・・・・じゃな・・・・・」
しかも何やら言い争っている様な雰囲気だ。居間の戸はピッタリと閉じられているから会話の内容まではハッキリと聞き取れないないが、声の感じからすると居間に居るのは2人。一方は菊で間違いないのだが、もう一方は・・・ある意味で一番会いたくない奴のような気がする。
それでも此処で立ち往生している訳にも行かないので、思い切って戸を開けた。
しかしそこで目にした光景に、俺は完全に思考回路が停止してしまった。
部屋の中に居たのは俺の予想通り、菊と王耀だった。
俺が戸を開けたのにも気付かず、お互い正面切って言い争っている。だが、争いの内容なんて俺の耳には入ってこない。眼中にも無い。
俺はただ、とある一点に釘付けだった。
俺の視線の先――鮮やかな赤のチャイナ服を着た菊の姿にッ!!
普段は、控えめな色合いの、殆ど露出の少ない服ー例えば和服(あれはあれで良い!)ーを着ている菊ばかり見ている身としては、ノースリ、膝丈チャイナ服姿は刺激が強すぎるんだ。
(あぁ、殆ど日に焼けていない所為で、日本人にしては白い腕と生足が目に眩しいっっ!!!)
呆然と立ちすくんだまま菊の姿に見惚れていると、漸く菊と王が俺に気付く。
「アヘン野郎っっ!!」
「あああ、アーサーさんっっっ!!!」
驚きにフリーズする2人。暫く何とも言えない空気が俺たちの間をすり抜けて行った。
・・・が、やはり年の功。逸早く正気に返った王が、
「何故お前が此処に居るアヘンッ!!」
と俺に突っ掛かってきた。だがそれを綺麗にスルーして、俺は少し覚束ない足取りで菊の元へ行く。菊はまだ信じられないとばかりに唖然とした表情でこっちを見ていた。
「菊・・・・・」
「〜〜〜〜っアーサーさッ!」
菊の前まで行くと、ギュッとその身体を抱きしめた。ビクッと菊の身体が強張る。
後ろで王の奴が何やら喚いているがそんなの無視だ。
正面からすっぽりと抱きしめた体勢のまま、唇を菊の耳元へ寄せる。
「可愛い」
囁くようにそう告げれば、菊の耳がカアアァっと赤く染まっていく。
それに気分を良くした俺は更に言葉を続けた。
「凄くよく似合ってるぞ、その服」
「・・・あ、あのっ、アーサーさっ!」
「赤ってのも案外似合うんだな」
「〜〜っ!いき・・なりっ・・」
「ますます惚れそうだ」
そう言いながら、菊の背中に回した片手で背骨をなぞる。上から下へと服の触り心地の好さを堪能しながら。
その動作にも菊は過剰に反応し、身体を震えさせた。
それでも俺の手は止まらない。腰までくると、支える様に腕を腰に回し、より一層密着するように引き寄せた。
「・・・ちょっ・・この、体勢はっ!」
「なんでだ?せっかく久しぶりに会ったんだぞ。――もっと菊に触れていたい」
今更ながら離れようともがき始めた菊を、更に腕に力を入れることによって封じる。
そして今度は、菊の唇へと標的を変えた。
「・・・菊」
「・・これ以上は・・も、ぅ・・」
お互いの唇があと少しで触れる――その時
「いい加減、我を無視すんなあるーーーーー!!!!」
そんな言葉と共に、放置されてキレた王の一撃が俺の後頭部にヒット。
流石に耐えられる訳も無く、そのまま俺は崩れ落ちる。
ダメだ、立ち上がれない・・
「ふぅー。さ、菊。先も言ったあるが、これから出かけるあるよ」
一仕事終えたような非常に満足気な様子で、王は言いやがる。
俺は聞いてないぞ。
「え!?本当に行くんですか!」
「当たり前ある。何の為に我がお前にチャイナ服を着せたと思ってるあるか」
「・・・・・・一緒に食事をするためです」
(そうなのか!?
ってか何で俺とは滅多に行かないのに、王の奴とは行くんだ!!)
言いたいことは山ほどあるが、俺はまだ王の攻撃のダメージから立ち直れないでいた。
「分かってるじゃねえあるか。・・あの店は、中国服じゃないと入れないあるよ」
「だからって!何も女性用じゃなくてもいいじゃないですか!」
「お前に合うのが丁度それしかなかったある。いい加減諦めて行くあるよ!!」
王はズカズカと菊の元へ行くと、腕を掴みそのまま引っ張る。
「あっ、でも、アーサーさんが・・・」
「そんな奴ここに放って置けばいいある!・・早くしないと予約の時間に遅れちまうあるよ!!」
「もっ・・そんなに引っ張らないで・・・・・・・・・ぽちくん!アーサーさんのお世話を頼みます!」
そんな遣り取りをしながら2人は出て行ってしまった。
後に残されたのは、無様に倒れ伏した俺と、菊に頼まれて様子を見に来たぽちのみだった。
ばかぁ!!!
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written by 咲菜
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