たった今俺に告白してきた男は、俺がかなりの葛藤の末にそれを了解したと言うのに、嬉しそうな顔を一瞬で消した。
何だその反応は、と訝る俺に、その男は確認を求めてくる。
「つまり…僕とお付き合いしてくださる、ということで、よろしいんでしょうね」
「そう……なる、だろうな」
お付き合い、という言葉が無性に恥かしくて目をそらしながら言うと、そいつはほっとしたように笑っておいて、それから、妙なことを言い出した。
「では……すみません、ひとつだけ、お願いがあるんです」
「お願い?」
なんだ?
付き合っていることは誰にも言うなとか、付き合っていても機関についてなんかは秘密にするがそれは許せとかそういうことか?
それくらいなら俺も想定の範囲内だが……。
「いえ、そうではないんです。勿論それもお願いしたいことではあるんですが…それ以上に、絶対に、聞いていただきたい頼みがあるんです。これを聞いていただけないと……僕は、あなたと付き合える自信がないんです」
「そりゃまた重大なもんだな」
呆れながら俺は先を促す。
古泉は迷うようにしばらく視線をさ迷わせていたが、やがてそのいくらか色素の薄い瞳を俺を映すと、
「――お別れする時は、嘘でもいいから、嫌いになったんだと言ってください。お願いします」
「……は?」
唖然とする俺に、古泉は困ったように、あるいは自嘲するように、歪んだ笑みを見せた。
「奇矯な願い事だと言うことは自分でも重々承知しています。でも、僕は……それをどうしても聞いていただきたいんです」
「つってもな……」
俺はたった今告白されたところであり、しかもそれを恥ずかしながら、喜んで受け入れたところだ。
それなのに、なんだその質問は。
まるで俺が心変わりすると分かっているかのようで腹立たしい。
言っておくが、俺は流されたわけでもお前の迫力に気圧されたわけでもないんだぞ。
そこんとこ、分かってるんだろうな?
「そう言っていただけるのは大変に嬉しいことです。でも……心は、変わってしまうこともありますよ」
そう言って古泉は俺から目をそらし、何か悲しいことでも思い出すような目つきをした。
薄幸そうなところのある古泉に、そんな仕草は非常によく似合うのだが、俺としてみれば面白くないことこの上ない。
古泉にそんな表情をさせるだけのことが、過去にあったということに他ならないんだからな。
だから俺は、怒りと羞恥の両方に頬を赤く染め、声を震わせながらも言ってやった。
「そんな約束、してやるもんか」
「では…」
「だからって付き合わんというのも却下だ。どうしてもって言うなら、俺から告白しなおしてやる」
「…え……」
驚きに目を見開く古泉に、俺は羞恥心をかなぐり捨てるような心持ちになりながら、抱きついた。
「あ、あの…っ」
戸惑いの声をいっそ心地好く聞きながら、その体を抱き締める。
緊張にか震えているのが分かって、ざまぁみろと思った。
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