ごくたまに、戦場の夢を見る。鼻腔の奥或いは脳に染み付いた戦場のにおいが何かをきっかけに喚起されるのだろう。
煙る世界
カードキーをスライドし、自室の扉を開けると紫煙が体に纏わりついてきた。スコールはあまり煙草を吸わない。ガーデン内では基本的に生徒の喫煙は禁止されているし、なにより体が資本であるSeeDが自らそれを損なうような愚行を犯すべきではないだろうといつか言っていた。指揮官、などという立場に立たされて入ればそれはなおさらだ、とも。
だがどうやらそれは建前、のほうだったらしい。煙る部屋に眉をひそめてサイファーは眉をしかめてベッド(当然ながらサイファーのものだが)に腰掛けている男を見下ろした。
「珍しいな」
サイファーの部屋で我が物顔で煙草を吸っているのはスコールだ。ファーのついたコートはソファにかけられ、足元にはライオンハートが乱雑に置かれている。血糊は付いていなかったが、たしか今日のスコールの任務は新人を数人伴ったモンスター狩りだったはずだ。一度代理で書類を捌いていたサイファーのいる司令室へと顔を出したスコールの報告を思い出してそれで、と思わず頷く。
確実なのは明日の朝、ガーデンでは学園長から静かに追悼式の告知がなされること。ガーデンにはひとつ石碑がある。
「お前、どうやって入った?」
「司令室にはマスターキーがある。知らないのか?」
「…いつの間に持ってたんだ、って聞いてんだよ」
文句があれば出て行くが、とスコールが言えばサイファーは肩をすくめてスコールが吸っているのと同じ銘柄の煙草を銜えた。
「二人も吸ったら匂いが抜けない」
「じゃあ明日のサボるか?」
「司令官と補佐が?」
面白そうに笑ったスコールにサイファーは肩をすくめて、それが嫌なら朝から訓練施設にこもりゃいいだろとサイファーは言う。で、汗のついでに流しゃいいと言えばスコールは愉快そうに笑った。今更になって、こうして二人で学生のようなことばかりしている。あの頃に出来なかったことを一つ一つ拾い上げるように。
煙を吸い込んでスコールは戦場におけるSeeDの生還率について考える。それにあの戦場の雰囲気も。あの場所では生と死は限りなく近いところにある。SeeDとなる学生の多くは戦争孤児だった。戦争で親を失い、その上戦場で命まで奪い取られる。
「…時々、俺は自分が何をやっているのかがわからなくなる」
スコールの言葉にサイファーは静かに紫煙を吐き出した。時間を操る魔女の討伐、というSeeD本来の目的は達せられた。それでも世界はSeeDを求め、そうしてスコールたちは戦っている。強くなることと背負うものが増えることは同意義なのか、スコールの問いにサイファーは答えない。ただの感傷なんだろう、スコールは淡々と言って苦笑する。
「明日の追悼式には出席する。今日は疲れたから、明日の早朝、訓練に付き合ってくれ」
煙草を消火してスコールはベッドにもぐりこむ。紫煙を吐き出したサイファーの態度には承諾と受け取ってタンクトップのまま胸元にあるグリーヴァを思う。この獅子のようにしがらみをすべて捨て去り、ひたすら孤高であることはもうスコールには不可能だ。
「…いい夢を」
冗談としか思えような言葉を言うサイファーに微笑んでスコールは目を閉じた。
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