「イギリスさん」
呼びかけられるのと同時にフラッシュがたかれた。目を瞬かせていると小型のデジタルカメラのディスプレイを覗き込んでいた日本がすみません、と小さく笑う。
「いきなり何だよ」
「いえ、イギリスさんのお姿があまりにも様になっていましたから、つい」
驚かせてしまいましたか、微笑む日本は今日はスーツを着ている。いつの間に構えていたのか気付けなかったが、小型のカメラをいじりながら日本は腕時計を見下ろして、ああでもまだ時間がありますね、と呟いた。確かに会議がはじまるまではかなり時間がある上に、どうせ遅刻してくるやつらが数人いる。それなのに決して時間を破らないというのが日本らしい。
「まあ、ゆっくり紅茶でも飲んでろ」
あいつらもそのうち来るだろ、そういって肩をすくめれば日本がカメラを取り上げてシャッターを押す。今度はフラッシュが光らなかったのは日本が設定を変えたからだろう。そんなことより。
「…さっきから、なんで俺を撮ってるんだ」
「ですから、イギリスさんの、」
言いかけた日本の言葉を手で制し、憶えた頭痛に眉間を指で押さえる。日本が首を傾げてご不快でしたか?と聞いてくるのでとりあえずいや、と答えればほっとしたように日本は笑う。
「…俺を撮って楽しいのか?」
「ええ、とても」
このデジカメ、動画も撮れるんですよと楽しそうに笑って珍しく素直に頷いた日本に微妙な表情でそうかと呟いたイギリスは、日本の手の中にある小さなデジタルカメラを見る。小型でもやたら高機能な辺り間違いなく日本製だろう。見てもいいか、と聞けばどうぞと渡される。ディスプレイに写っているのはイギリスや、日本が飼っている犬、それに何故かたたみに寝転がっているギリシャやゲームに熱中しているアメリカだった。あとは風景が数枚、どれもイギリスには見知った景色だ。
「普通写真っていうのは、お前が被写体になるものなんじゃないのか」
自国の観光地の写真を見ながらイギリスが問えば、日本はまあそうなんでしょうが、と微笑む。そうですねえ、と呟いて日本はイギリスの持っているカメラに手を伸ばし、一枚の写真を指差した。
アメリカだ。相変わらずラフな格好で、ゲームのコントローラーを握り締め、大口を広げて手を振っている。状況と口の形から大体何を言っているか想像できてしまい思わず眉を顰める。おまけに『にほーん!』と叫ぶアメリカの声までが聞こえてくるようだった。
日本はイギリスの憮然とした表情をみてふふ、と笑う。
「カメラを買ったのは特に理由があったわけではないのですが、折角ですから私が見ている世界を撮ろうと思ったんです」
ですから私は写らないんです、と満足げに笑う日本の世界から切り取られた一枚一枚がイギリスの手の中にある。近いうちに現像してアルバムに収めるのだと日本は言う。
わたし用ですから、皆さんにお配りする予定はないんですが、お気に召されたものでもありますか、と首を傾げる日本にいや、と首を振った。写真を終了させ、カメラの設定をオートに戻す。そこでふと思いついた。
「代わりに俺も頼みがあるんだが」
「何でしょう」
「そこのジャム、取ってくれないか」
薔薇の花びらで作ったジャムの小瓶を示せば、日本はええどうぞと手を伸ばしこちらに手渡してくる。その日本が気付くよりも素早く、シャッター
「…イギリスさん?」
「訂正、その写真はほしいから後で焼き増しして寄越せ」
驚いた日本の顔を記録したカメラに笑えば日本はジャムをテーブルに置く。何か言われる前にたたみ込んでしまおう、イギリスは笑って消すなよとカメラを日本に返して楽しみにしてる、と微笑んだ。
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