あなたなしの世界
なにもない世界
道程
続くのは青空で、わたしは止まったまま。
進む世界に、取り残されたわたし。
この空に果てがあるのなら、きっとあなたは、そこにいる。
セーラー服が、揺れてた。わたしが笑ってた。あなたがここにいた。鮮やかな世界。雨に濡れながら走った道も、もうわたしには歩けない。
あなたなしの世界。
わたしだけの世界。
終わりを迎えた世界。
ふと、あなたの歌が聴こえた気がした。
優しい歌声が響く、帰り道の公園。子供の笑い声。犬の散歩をしている人も、わたしとあなたも、笑ってた。輝く世界。もうけして見ることはできない世界。
あたたかい人ごみ。咲き誇る桜の花。並べられた机。花瓶の置かれた机。真っ黒な服。線香のにおい。小さな泣き声。
それが一体なんだっていうの?
あなたはもういない。それだけのことじゃない。
もう会えない触れられない喋れない歌えない届かない届かない届かない届かない。それだけのことじゃない。なんだっていうの? 誰かわたしにあなたを返してよ。ねえ神様お願い。返してよ。またいつものように彼の傍にいさせてください。そっと寄り添うように、彼の腕の中にわたしを、わたしを。
あなたなしの世界にいったいなにがあるの?
なにもないじゃない。
あなたなしの世界なんて。なにも。なにもないだけじゃない。
そっと手すりに手をかけても、ひんやりとした感触はなかった。
青空は続く。わたしを残して。
あなたは逝った。わたしを、残して。
「だいじょうぶ」
空がどこまでも続くなら、空なんてない場所に行くよ。そしてあなたを大きな声で呼ぶから。そしたら。
そしたら。
「さよなら。なにもない世界。」
そしたら。
通り過ぎた空。重力に捻じ伏せられる重いからだ。揺れるセーラー服。
そしたら。
「よくここまで来たね」って、いつもみたいに、笑って。
end.
040524
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