「帰り道実況中継」on the way home 学校から傘をさして歩いて帰ってくる道々では自分の見ているものをひとつひ とつ実況していました。 ・・・前から人がやってきます。この位の雨なんてへっちゃらよ、と傘もささ ずに誇らしげです。薄いゴム底の靴で歩いていると道の凸凹をとてもよく感じ られます。工事中のこの歩道はタイル張りから突然砂利道に変わり、時に鉄板 だったりゴムシートだったりします。この道では車道と歩道の区別はあいまい です。人が歩いているときだけ、歩道になります。 ・・・町の灯かりからどんどん遠ざかってゆきます。どんどん山に誘われてゆ きます。ぽつぽつと点る街灯は光る鳥達です。今は電信柱に停っているけれど、 僕がいってしまうとすぐに飛び立ってしまうでしょう。 ・・・右手の小学校が光に包まれています。雨のソフトボール大会です。ボー ルの音と同時に「サードッ!」の声が響きます。三塁守はうまく捕球すること が出来たでしょうか。左手には草むらです。暗やみに隠れて僕の目を逃れよう としているけれど、その匂いですっかり秋になっていることはお見通しです。 赤い点滅信号を右に折れると最後の上り坂です。あとちょっとで到着です。な んだか手紙が待っているような気がして、ラストスパートをかけたくなります。 ここが上り坂でなかったら走り出しているかもしれません。しかし、ここで気 を抜いてはいけません。後ろから追ってくる光に踏み潰されないように慎重に 道の脇を歩いてゆきます。弓なりになった道が直線にかわるとアパートの灯か りが見えます。よくここで走り出さないものだといつも想うところです。なん だかわくわくしてきます。・・・ [97.11.03]