「カタチあるものはいつか...」memento この世にカタチとなって生まれてきたものたちは いつかそのカタチを辞めてしまう カタチを換えてしまう もともとカタチなどないものたちだったからもとに戻るだけのはなし 今ここでカタチを持たないものが文字というカタチに換った その瞬間から次の変換が始まっている カタチのないものに戻って記憶される準備が始まっている 記憶はカタチをカタチのまま取り込むことではなくて カタチのないものたちを受け留めることではなかろうか 風を受け留めるように 記憶された文字たちは必要に応じてうたや絵になることができる ただしカタチは表現できても完全にカタチとして再現することはできない 風を再現できないように もともとカタチがないものがなんでカタチになる必要があったんだろう なぜ生まれたんだろう 死ぬのがわかっていながら それは記憶してもらうためなんじゃなかろうか 春の記憶がなかったら こんなに待ちわびはしなかっただろう 流れ星の記憶がなかったら こんなに探しはしないだろう その人の記憶がなかったら こんなに悲しい夜はなかった 朝の記憶がなかったら この夜の寂しさにつぶされてしまいそうだ 誰か一人でもいい わたしを記憶して欲しい 安心してゆけるように [96.04.21]