2005/04/26 (Tue) ♪人物紹介 ♪ランキング



あたし一生忘れないよ、この日のこと。




2005年4月25日、月曜日のこと。






「こんにちはー^^*」




「あー菜月ちゃん!こんにちは^^」






ドアを開ければほら、


やっぱりそこにはいつも通りの光景があって、


いつも通りに、事務のお仕事をする坂本さんがいて。








ただ いつもと違うこと、ひとつだけ。







そこに、山本先生の姿は なかった。







ぎゅう、と一瞬だけ 胸が詰まるおもいがした









「ねー坂本さん」




「うん?」




「えと…今日、山本先生 もう来てる?」




「あぁ、ちょうど今コンビニ行ってるよー。
 多分、もうすぐ帰ってくる頃だと思うけどね」









その言葉を聞いて、




ある事を思いついたあたしはドアの裏側に隠れた








「え、なに?笑」




「ふふふ」




「え、なに?笑
 あ、”わぁ!”って?」





「そう!
 一回くらい、先生のことおどかしてやろーと思って!笑」







正直言うと、




「離れ離れになる」なんて実感、全くなかった






だからこんなふうに、




平気な顔して 笑っていられたのかもしれない







「じゃあ、来たら合図してね!笑」




「はいはい 笑」







待っている間中、はやくあいたくてしかたなかった






はやく、はやく、びっくりする顔が、みたくて。




いつもみたいに、笑って欲しくて。















「…坂本さん、来たぁ?」







「まだまだ… 笑」







あの人はどんなかおをするのかなぁ








そしてあたしは、







あなたに会ったら、やっぱり泣いちゃうのかなぁ






だけど、あたしは 最後まで絶対泣かないって決めた






最初から最後まで、






先生の記憶の中のあたしが、笑顔であるように







だから 意地でも、泣いてなんかやらないんだ







そんなふうに考えていると、







「…あ、菜月ちゃん、来たよ!」








どきん、と胸が高鳴った





数秒後に、キイ、と静かにドアが開く








「…わっ!!!」









タイミング、ばっちりだね 先生







「わ!!!! …え、なに!!笑」









突然の出来事に、予想通り驚く先生。







少しだけ後ろに後ずさったりして、かわいいなぁ









そういうとこも、すごくすきだったな










ほんの小さな仕草のひとつひとつに胸が痛んだ










「えへへ、先生いまびっくりした!?笑」









「…してない!笑」







「うそだ、今絶対びっくりしてたもん!笑
だってほら、ちょっと後ずさっちゃったりしてさぁ!笑」









「え?いや、してないしてない!
 …もー、変わらないね、君は。笑」









あなたの その 笑顔、久しぶりにみたなぁ








だけどもう、見れるのも今日で最後なんだね









本当に本当に、あえない距離に、行っちゃうんだね 先生









「そうだ、先生にお手紙あるの!」






ふいに溢れ出しそうになった淋しさをこらえて、








一生懸命、いつも通りの明るい声を出した









ほんの少しだけ、その声が震えていたこと







誰にも、気づかれていなければいいな とおもった


















ゆっくり、取り出したのは、1通の手紙









だいすき だった、あのひとに贈る手紙







でもね もう、すき、だなんて一言もかいてないよ







書いたのは、数え切れない程の感謝の気持ちと






淋しくなります、と、一言、それだけ









とっても短くて、とっても切ないラブレター















「お、ありがとう。読んでい?」













「今!?今は、ずうぇぇぇったい(※絶対)、だめ!笑」









「え、なにその反応…。笑
 でも、わざわざほんとありがと!めっちゃ嬉しいよ」








「いえいえ!今までほんとにありがとうございました!」




「こちらこそ!菜月ちゃんにはいっぱいお世話になりました」





あなたのわらったかお、すきだなあ やっぱり、今も





すごくすごく、すきだなあ






胸が、苦しかった  なんだかひりひりするよ






「…なんか今日、元気なくない?何かあった?」






最後まで心配かけさせちゃってごめんね





どうしようもない女で、ごめんね 先生







あえなくなっても、離れ離れになっても、忘れないよ






生きてきた時間の長さは 少しだけ違うけれども

ただ出会えたことに ただ愛したことに
想い合えなくても 忘れない

        (♪LOVE〜Destiny〜/浜崎あゆみ)









時計を見ると、もう5時半だった





先生は確か、6時から授業が入ってる





一緒にいられる時間も、あと残りすこしだけ、だね







「…先生?」








「ん?」










「あたし、そろそろ帰りますね^^*」











もうこれ以上、ここには いられない






なんだかすごく、そうおもったの







どうしてだろうね 瞳の奥に にじんだもの





どうしても 今日だけは、こらえきれそうになかったからかな




「…ん、そっか。じゃあ、いつものとこまでおくってくよ」






「…うん」









2人で肩を並べて、3度目の あの道を歩いた







いつもよりも、ずっとゆっくり、歩いた









これも、最後なんだね 先生





もう、隣を歩くこと できなくなるんだね 先生





ねえ、いつも先生が隣にいてくれた日は




世界中のどんな女の子よりも、あたしはしあわせだったよ





色んな気持ち、本当にありがとうね、先生





だいすきだよ きっとずっと、一生







そのはにかんだ笑顔も、無邪気な笑い声も




可愛いネクタイ姿も すこし疲れたかおだって




ぽん、と軽く頭をこづく手のあたたかさも、




大きな背中も 優しさも すこし汚い、あの字も




あれもこれも、ぜんぶぜんぶ、愛しかった




あえなくなっても、ずっと だいすきだよ






「…淋しくなるなあ、菜月ちゃんにもあえなく、なるんだね…」







本当に小さな声で、先生がぽつりとつぶやいた






そんなの、あたしだって




だけど、だけど、絶対に言わないよ そんなこと





言えば、余計かなしくなるだけだって 知ってる




涙がとまらなくなること、知ってるよ





「…先生、最後にいっこだけ、お願い聞いてもらえますか?」







なにを改まっちゃって、と照れ笑いする、そのかお
すきだなあ、本当にどうしようもなく、愛しい。


照れながらも、なんでも聞きますよと、
その優しさも、本当はずっと 手放したくなかった





「あのね、えーと… 最後に、握手してください!」






もうだめだ、やっぱり。


声も足も手も全部、今までにないくらい、震えていた。






ぎゅ、と強く握手をした。つよく、つよく。






きゅん、と胸が切なくなって、どうしようもないくらい、苦しくて。





できればこの手を、一生離さずにいたいと、






本気でそう、思ったんだ






「…高校、楽しい?」







あたしが泣いてしまいそうなこと、気づいたのだろうか





先生は、何もなかったかのように、笑った





あなたは、やっぱり 最後まで優しいんだね






「うん!すっごい楽しい^^* 友達いっぱいできたよ!」







「そっかー!うん、よかったよかった^^」






「ちゃんと勉強も頑張ってますよ!笑」





「おぉ、エライじゃん!社会どう?笑」







「…全然わかんない。笑」






「…だめじゃん!笑」






「先生に教えてもらおうと思ったのにー。笑」





「あぁー…別にいいよ?おれは。笑」






「ほんと?? じゃあ、約束ね?笑」






「うん。笑」






「でも名古屋まで行けないよー!笑」





「おれが、こっちに来るよ。笑」






「彼女さんに怒られちゃうよ?笑」






「大丈夫だよ、菜月ちゃんはおれの可愛い妹だもん^^
 …て!何!だからいないってば!笑」








笑いながら、涙がこぼれそうになった





かなしいんでも、淋しいんでもなくて




嬉しかったの、すごく





妹にしてもらえたことと、それともうひとつ






先生はやっぱり変わらないなあ、って、そうおもったから






ねえ、いつまでも そのままの先生でいてね




変わらないままで、ずっと笑っててね 先生






「…ここ、だね」






いつもの交差点に、着いてしまった






あたしは右に曲がる、先生は、塾に戻る




ばいばいだね、本当に、これで







「先生、最後までおくってくれてありがとう」








「や、全然いいよ!おれが好きでやってるだけだしね」






「…彼女さんと、しあわせになってください」





「…ありがとう。でもいないから。笑」






「絶対絶対、いまの彼女さんと、結婚してね」





「…ねえ、人の話聞いてる?笑」




「結婚式に、あたしのこと呼ばないと怒るからね」




「笑」





「先生の結婚式、楽しみだよ!笑」





「…菜月ちゃんがお嫁に来てくれたらいいんだけどね。笑」





あなたが笑うたび 切なさに、押しつぶされそうになるよ






あのね、先生 あたしはね







もう、あなたのお嫁さんになりたいなんて 願ってないの





あなた以上にすきになれた人の、お嫁さんになりたいの






「…えー!いやだよ、先生なんか!!笑」





「ひど!そこまで嫌がらないでよ!笑」





「…もし、もしね、あたしが あと10年早く生まれてたら、
 先生のお嫁さんになってもよかった」





「…そうだね、あと10年早かったら、
 おれは本気で菜月ちゃんにプロポーズしてるかもしれない。笑」






「あと10年、早かったら、ね」







もやもやしてたこころのなかが、やっと晴れた気がした




やっと、諦めがついたのかもしれないな、とおもった




10年は、思ってたよりも大きいね 先生




だけど、それでも先生をすきになったこと





10年のときを越えて、ただ 想えたこと






こころから良かったなって、おもえるよ






「じゃあ、あたし 帰りますね!」





今のあたしにできる、精一杯の笑顔を先生に向けた





「おう!今まで本当、ありがとうな」






「こちらこそ^^* 社会、頑張りますね!笑」





「うん、たまにこっち遊びに来るから、会えるといいね」







「結婚式で会いましょう^^* じゃあ、さよーなら!」






最後まで、笑顔で手を振った




先生は、いつも通りに手を振りかえしてくれた










家に着くまで、後ろは 振り向かずに 歩いた








やっと、ケリつけること、できたよ








先生よりも もっともっと、すきになれる人みつけるんだ








絶対忘れたりしないよ あなたの声 めーいっぱいの楽しさ
大きく開いた穴の埋め方解んなくてもなんとかやってみるよ
                (♪おやすみなさい/aiko)






いつまでもいつまでもあなたを 忘れずにいようと決めた
そしてあたしの事も忘れないでいてね
我が儘だろうと お願いだから
                (♪星物語/aiko)



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