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0-4 prologue

「あったああー!」

IDカードを探して1時間。
やっと見つけたそれを、私は思わず空に掲げてしまった。
結局カードはカイムさんの指さした机とはぜんぜん違う所に落っこちていた。
そのことに対して文句を言うと、カイムさんは飄々と「あー、そうだった?」なんて言ってのけた。
この人はひょっとしたらかなりいい加減な人なのかもしれない。

部屋の中は私がIDカードを探すために漁った部分だけが、綺麗に何もなくなっていた。
それを見たカイムさんは楽しそうに「この調子でこの部屋全部片付けてくれよ」と、私の頭をポンポンと軽くたたいて言った。
「い、嫌ですよ!このスペースだけでだいぶHP消費したんですからね」
カイムさんの手を払いのけて、きっと睨む。
「あはは、じゃあ今日はもう帰れ。ちゃんとした仕事の説明は明日にしてやる」
カイムさんは笑いながら新しいタバコに火をつけ、椅子に深く腰掛ける。

「え、いいんですか?」
「あー、まあいきなりここの仕事言っても理解出来ないだろうしな」

ふっと声のトーンが低くなる。
カイムさんは椅子を回転させて、私から背を向ける。

「質問して良いですか?」
このまま帰るのも少し釈然としなくて、気がついたらそんな事を口に出していた。
「答えられることと答えられないことがある。それで良いなら言ってみろ」
私の声にカイムさんは振り返ってそう答えた。

「何で私が呼ばれたんですか?」

はっきり言って、私は普通だ。
成績が特別良かったこともないし、なにかコレといって人に自慢できる特技もない。
なんでそんな私が特殊研究班なんて所に呼ばれたのか、本当にずっと疑問で仕方がなかった。

「さあな……マザーの意志ってヤツは俺にも分からん」
カイムさんが面倒くさそうに煙草を灰皿に押しつけて火を消しながら言った。
「ま、まざー…?」
思ってもいない単語に思わず頭にハテナマークが浮かぶ。
「そうだ。 聞いたことくらいあるだろ、マザーコンピューター」

「ちょっと前に一人死んじまってな。まあこれは不慮の事故だったんだけど」

死という言葉に私は少しピクリと反応してしまった。
不慮の事故って言ってるけど、そんな危ないことをやっているのかと思うと、やっぱり怖いものがある。

「いい加減その人員を埋めにゃならなくなった。俺が自分のやりたい事に集中するためにも、人員が必要だ」
カイムさんは私の様子なんてお構いなしに、話を続ける。
「で、だ。身元、性格、素行そう言ったもんを全部ひっくるめて検索をかけた」
カイムさんの指が宙をくるくるとかき回す。
「研究所内につとめてる人間は全部データを取ってある。 売店のおばちゃんや掃除のおっちゃんも例外じゃない」
歩く度に白衣がひらひらと揺れて、煙草の臭いがふわりと鼻につく。

「その結果、おまえが選ばれた。 これは幸運なことだ」

そう言って私の前でピタリと止まって、私の顔を指をさした。

「改めて、ようこそ、きぐるいだらけの研究チームへ」

そう言って口の端をゆがめたカイムさんは、本当にキグルイに見えた。