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0-2 prologue

きっかり2時間後、列車は動きを止め、目的地へと到着したことを告げるアナウンスが流れた。
私が降りるとすぐに列車は誰も乗せることなく来た道を走り出していく。

「向こうに行く人は誰もいない……のかなぁ」

そう言えば乗る時にも他に人がいなかったし、やっぱりこっちとあっちを行き来する人は少ないのだろう。
周りを見渡してみると、一人の男の人が歩いてくるのが見えた。
青い服……あんまり見かけない民族衣装をきた、綺麗な顔立ちの男の人。

あー、乗り過ごしちゃったのかな。
あんなにすぐ出て行っちゃうんじゃ仕方ないかなぁ。
なんて思いながら、ぼーっとその人の様を見ていると、ふと目が合った。

男の人は私の目の前まで来ると、透き通るような声で「リーベアデム様でよろしいでしょうか?」と訪ねてきた。
「え、あ、は、はい」
いきなり名前を呼ばれてちょっと焦る。
「お待たせしてしまい申し訳ありません。リュー・カイム様からの使いで参りました、水と申します」
丁寧な口調で頭を下げながら、男の人――水さんがそう言う。
「あ、えっと、今着いたばかりですから、全然、大丈夫です!」
あまりにも丁重で思わずこちらもかしこまってしまった。
「そうですか」
男の人が伏し目がちに少しだけ微笑む。
それが何だかとても印象的で、私は少しだけドキッとしてしまった。

「SSS-Pfe研究室……カイム様の所までご案内致します」
水さんはそう言って、今きた方へと踵を返した。


「えーっと、水さん」
前を歩く水さんに声をかける。
水さんは軽くこちらに目線を向け「なんでしょう」と、起伏の少ない、けれども透き通る声で答える。

「水さんも、えーっと……SSS……ええっと、ここの研究員なんですか?」
「いえ、私はこちらの研究員ではありません」
「え、じゃあ、受付さんとか警備員さん的な」
「いいえ、どちらも違います。こちらで多少の仕事を頂いておりますが……」
水さんは何かを言いかけたけれど、口を閉じてしまった。
「いえ、これは……私が言うべきかどうか。詳しくはカイム様にお聞き下さい」
そう言って、私に向けていた目線を前へと戻す。
なんとなく、これ以上聞いても何も答えてくれないような気がした。


「着きました」

一つの扉の前で、水さんの足が止まる。
「カイム様はこちらにいらっしゃいます。ここから先、私は立ち入れませんので、アデム様お一人でお願い致します」
「は、はい。 水さん、案内ありがとうございました」
私は水さんへと向き直して、笑顔でお礼を言った。
水さんは一瞬だけびっくりしたような表情を浮かべたけれど、すぐに元の伏し目がちな顔に戻っていた。