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0-1 prologue

がたがたと揺れる列車の中で、何も映らない窓を眺めながら考えていた。
敷地内に列車が走ってるってどう考えてもおかしいよね!?……と。

地下を走る一両だけの小さな電車。
これに乗ってだいたい1時間くらいが経っているけれど、まだ目的地には着いていない。乗客はどうやら私だけで、どこかに止まる気配も見えない。
前から研究所の敷地内は広いと思っていけど、ここまでとは知らなかった。


事の起こりは三日前。


「……嘘でしょ……」

班長から渡された一枚の紙に書かれた文字を見て、私は思わず呟いた。



      辞令
      
 新薬開発班F2-44
 リーベアデム  殿


11月23日付で、特殊研究班・SS-Pfe勤務を命じます


              特殊研究班・SSS-Pfe 責任者
                    リュー・カイム



「班長、エイプリルフールはまだ先です!」
思わずそんな事を口走ってしまった。
だって特殊研究班って言ったら、この研究所のカーストの中で一番上に存在している班。
しかもSが付いているって事は、その中でもさらに優秀な研究員とか博士とか……そういう人たちだらけの所だという話を聞いたことがある。

実際どうなのかは……同じ研究所に勤めているけれども特殊研究棟と一般棟では距離が離れすぎていて、すれ違ったことすらないからわからないけど。


対して私はF2……。
この研究所では重要性・汎用性・利益その他諸々のことを考慮して、チームをSからFに分けている。
F2はつまるところカーストの一番下。食物連鎖の一番下の人もいいところ。
それがいきなりSSSの研究チームに回るなんて事はあるわけがない。

「ドッキリですか?カメラはここですか!?」
あまりにも信じられなくて、カメラを探そうと花瓶を持ち上げる私に、班長は咳払いをして一言「落ち着きなさい」と言った。
「で、でも……」
「信じられない気持ちはよくわかります。ですがこれは紛れもなく正式な辞令です」
班長も少し焦るように早口でそう告げた。
「私も今までこのような辞令は見たことがありませんが」
「やっぱりどこかに看板持った人いて、テッテレーって」
私の頭の中では小さい頃に見たドッキリ番組のワンシーンが繰り返し再生されていた。

「もう一度言います。これは紛れもない正式な辞令です」
班長は今度はゆっくりと、子供に言い聞かせるように言う。
「昨夜、研究所長が直々に私の元に辞令を持って来ました」
「所長がですか!?」

入社以来一度も見たことのない、もはや研究員の間でも都市伝説となっているあの所長が!?
私の中でドッキリ大成功のテーマがいっそう鳴り響いていく。

「そうです、あの所長です。 私もお会いするのは5年ぶりで……ほんとうに信じられないのですが、本当のことなのです」
班長がため息をついて、そう言った。
班長以上に私が信じられないよ。
と言うか、まだドッキリ大成功の曲が頭から離れてくれない。


「いいですか、貴方は11月23日付で特殊研究棟へ移って下さい。 寮もそちらの方に変わります」
「ちょ、待って下さい……11月23日って三日後じゃないですか!」
「そうです。 それと特殊研究棟は同じ敷地ですが、ここから2時間ほどかかりますから、当日は早めに出て下さい」
「に、2時間、ですか!? そんなに歩くんですかぁ!?」
「いえ、敷地内に列車が走っています。 それで2時間です」
「はいいい!?」

なにか色々大きすぎて、私の頭の要領はオーバー寸前になっていた。
たぶん、ここで倒れても仕方がない気さえしていた。
けれども上からの命令を断れるほど勇気があるわけもなく、今までよりも大幅にアップするお給料と研究員寮(食事付き)と言う破格の条件を出されては断る理由もないわけで。
この不況のご時世に食いっぱぐれる心配がなさそうなのはとても良いことだと思う、うん。

そして……今に至るわけです。
ええ、本当に列車で2時間かかるみたいです。
「なんかもう……本当むちゃくちゃだなぁ」

走る列車の景色は変わらずずっと真っ暗で、私はこれからが不安で仕方がなかった。