■壱岐市の民話・伝説◆かせかけミミズ(芦辺町) 機織りの上手な娘が二人いた。二人はどちらが上手いか競争し、今度の村の市に着ていく着物を編むこととなった。片方は雑なのも構わず早く仕上げたが、もう一人の娘は手間暇かけて丁寧に編んだため市の日までに仕上がらなかった。仕方なく娘は婿の背負った瓶に入って出かけていった。町で出会った二人は、ひどい出来の着物、瓶に入った無様な姿と互いを罵り合ってけんかを始めてしまい、耐えられなくなった婿は瓶を地面に放り出した。瓶は口のところだけ割れず、首かせのようになって娘についたままになった。裸の娘は恥ずかしくなって、地面に入ってミミズになった。これが首に白い輪のあるミミズの由来であるという。 ◆禿童(はぎわら) 壱岐の長者原に住んでいた信心深い老夫婦が、龍神から竜宮に招かれてもてなしをうける。何でも土産をやるという話だったので、夫婦は子供を望んだ。すると龍神は禿童という名の、頭を撫でながら品名を言うと望むものが出てくるという不思議な子供を与える。老夫婦は禿童の力で立派な御殿に住み、宝でいっぱいの倉を出し、果ては若返らせてもらい贅沢な暮らしを送った。そのうち禿童が疎ましくなったので竜宮へ帰るよう命じると、家は元のぼろ家に戻り、年も元通りになってやがて息絶えたという。 ◆寶(たから)の手ぬぐい ある冬の寒い日にものもらいがやって来る。おかみさんは忙しいので女中に早く追いやれと命じる。女中は可哀想なのでホッケ(握り飯)をこっそりあげると、ものもらいはお礼に一枚の手ぬぐいをくれた。翌朝、女中は顔を洗うときにその手ぬぐいを使ってみたところ、たいそう美人になった。これを聞いたおかみは次ものもらいが来たときご馳走を与えた。今度は帯をくれたので腰に巻き付けてみるといつの間にか帯は蛇に変わって体にぐるぐると巻き付いたという。 ◆わらしび長者(鯨伏) 昔、貧乏人と金持ちが住んでいた。貧乏人の息子が金持ちの娘を嫁に欲しいと申し出ると、金持ちは「この一本の藁を元手に金持ちになったら娘をやろう」と言った。息子がその一本の藁を手に家を出ると、ある屋敷のお爺さんが強風で植木が吹き飛ばされそうで困っている。息子は植木に竹を一本立て、持っていた藁で括ってあげた。お爺さんは喜んで芭蕉の葉をお礼にくれた。そのうち雨が降ってくると、今度は雨で手に持った味噌が濡れて困っている人がいた。息子が芭蕉の葉を蓋代わりに差し出すと、お礼に味噌をくれた。日が暮れたので宿を借りようと近くの家に行くと目の不自由なお婆さんがいた。ご飯のおかずが無いというので味噌をあげるとあまりの辛さに見えなかった目が見えるようになった。お婆さんはお礼に大事にしていた剃刀をくれた。次の日道を歩いていると髭が伸びた乞食のような浪人に会った。息子が剃刀で髭を剃ると、浪人は喜んで腰の刀をくれた。息子が刀を差して歩いていると殿様の行列にあった。殿様は息子の刀をえらく気に入り大金と交換した。息子はその金を手に家に戻り、金持ちの娘を嫁にして幸せに暮らしたという。 ◆とろかし草(鯨伏) 昔お爺さんが山へ芝刈りに出かけたとき、一匹の蛇を見かけた。その蛇は何か動物を丸飲みにしたのか、腹を膨らませて苦しそうにしていた。ところが、蛇が一本の見慣れない草を舐めると、どんどん腹が小さくなり、最語には元の太さに戻ってしまった。これを見たお爺さんは不思議がって何本か抜いて帰り、夕食に腹一杯蕎麦を食べた。そして取ってきた草を食べて奥の部屋で寝てしまった。 翌朝、いつまで経ってもお爺さんが起きてこないので心配になったお婆さんが見に行くと布団の上にはお爺さんの着物と蕎麦だけが残っていた。お爺さんはとろかし草を食べ過ぎたので体が溶けてしまったのだろう。 ◆トンビとイセエビとエイ(鯨伏) 昔、湯ノ本湾の上をトンビがゆうゆうと飛んでいた。トンビはこの世に自分よりも大きな鳥はいないと自慢していた。 ある日、海岸の一本の木のようなものにトンビが止まって休んでいると、何やらその木がゆらゆら動く。「どうしてこんなに動くのだろう」と独り言を言っていると、「お前は人の髭の上に止まって何を威張ってんだ!」と海の中で声がする。よく見ると、それは巨大なイセエビの髭であった。慌ててトンビは逃げていった。 ある日イセエビが一休みしようと穴に入っていった。すると、その穴がぴくぴく動く。不思議に思っていると「それは俺様の鼻の穴だ」と大きなエイが言って、そしてでっかいくしゃみをした。イセエビは吹き飛ばされて岩の角で腰を打ってしまった。それ以来、イセエビの腰はあんなに曲がってしまったという。 |