■五島市/新上五島町の民話・伝説


◆おせんが池
福江島南の沖合にある赤島の潮だまりで、おせんという女性が貝を捕るため赤子を潮だまりの真ん中の大岩において潮に入っていた。貝を捕り終えたときには潮が満ちており、赤子はすでに息絶えていた。悲しんだおせんは赤子を抱いたまま海中へ沈んでいった。この潮だまりはおせんが池と呼ばれ、めったに干上がらず、干上がった時には火事が起きるそうだ。


◆トカゲの教え
子供と三人暮らしの夫婦がいた。あるとき夫が恐ろしい病気にかかり、妻子は夫を捨て家を出て行った。その後妻が子供と二人で暮らしていると、炊事の際にトカゲが現れて米粒を一粒ずつ盗んでいくようになる。後を追ってみると瓦の下敷きとなった仲間のトカゲに米粒を与えていたのだった。この事に胸をうたれた妻は夫の元へ戻ることを決心する。村へ帰ると夫はすでに村を後にしており、夫を捜して子供と二人旅をしていると、乞食に身をやつした夫にようやく出会うことができた。妻は夫の病気も薄汚れた身なりも気にせず、家族三人寄り添って暮らしたという。


◆河太郎話
五島では河童のことを「河太郎」「ガァタロー」「ギャタロ」と言う。大の悪戯好きで、よく人のお尻を抜くので人々は六月十五日の祇園祭の前には絶対に海で泳がないという。大円寺川の石橋の上を赤飯や煮物を抱えて通ると必ずつまずき、煮物を川の中へ落としてしまうがこれは河童のせいだという。吉久木部落のはずれにはお婆さんが一人で住んでいて、一人で酒盛りしながら独り言をつぶやいていたそうだが河童と酒盛りしていたという話。また、河童を呼び寄せてまじないの力で病人の治癒を行う人もいたという。


◆カッポー
福江の城の近くに仲むつまじい夫婦がいて、芳(よし)とカッポーという二人の子がいた。しかしカッポーが生まれた年の春、夫が倒れたため、三人は近所の人々の情けで生活するようになった。ある年、五月の節句が近づいたので、せめてカッポーに菖蒲の花をとってきたいと思った母は城のそばの大きな池まで足を運んだ。子供二人を待たせて菖蒲をとって帰ってくると、二人の姿が見えない。母は「よしーぃ、カッポー」と叫びながら気が触れたかのように探していましたが、ついには母の姿も見えなくなってしまいました。
いつからか、石田城の森には烏のような鳥が「よしーぃ、カッポー」と鳴いて飛ぶようになった。


◆うぐいす娘
あるところの峠に一軒の茶屋があった。毎朝一人の若い娘が飴チョコを買いに来るので不思議に思った店主が謝礼をつけ、娘の正体を暴いてくれる人を捜した。甚八という男が引き受け、娘の後をつけた。
娘は翌朝も飴チョコを買った後、山の中へ入っていく。後をつけると大きな屋敷があったので訪ねると、件の娘が出てきて中へはいるよう促し、ご馳走でもてなしてくれる。さらに娘は自分を嫁にもらって欲しいという。甚八が承諾すると娘は嫁入りの着物を頼みに行ってくると言う。その間、決して西の倉は見ないでくれと甚八に告げた。しかし気になった甚八は我慢ができず倉の戸を開けてしまう。倉の中では何故か九月だというのに梅が咲き、一羽のウグイスが枝にとまっていた。ウグイスは甚八を見るなり飛び立ち、甚八は急な目眩で倒れてしまう。起きると辺りは広い野原だったという。


◆藁三本が千三百円に
昔、ある村に父、母、孝吉という名の息子の貧しい三人家族がいた。ある日父が草履を編んでいて藁が三本余ったので、孝吉はその藁を売りに行くと言って家を出た。村はずれに行くと、川で女の人がネギを洗っている。女の人はネギを縛る縄がないので孝吉の持っていた藁を欲しがった。孝吉が藁をあげると女の人はお礼にネギをくれた。隣町にやって来ると、その時祝言があっていて、ご馳走を作るのにネギが足りていなくて困っていた。孝吉がネギをあげるとお礼に三年味噌をくれた。孝吉はそのまま次の村に行って、ある家に泊めてもらった。孝吉の持っている味噌を見て、家の人が「うちも毎年味噌を造るがいまいち美味くない。それをくれないか」と言う。孝吉が味噌をあげると、お礼に錆びた刀をくれた。後日孝吉が刀を持って歩いていると、お寺に大きな蛇がいて、今にも女を呑み込もうとしている。これは大変と孝吉は手にした刀で蛇を斬り殺し、女を助けた。それを見ていた和尚さんが「その刀を千三百円で売ってくれないか」と言う。千三百円は貧乏人にはびっくりするほどの大金だったので孝吉は快諾し、喜んで我が家に帰った。両親も藁三本が千三百円になったと聞いて大変喜んだ。


◆孝行息子とオオカミ
昔、たいそう親孝行な息子がいた。息子が旅に出ていたとき、実家から父が重病なので戻ってこいと手紙が来た。息子は驚き急いで仕事を片付けて家に帰った。ところが山の麓まで来たときに日が暮れてしまった。仕方なく茶屋で提灯を借りようとすると茶屋の主人が「冗談じゃない。この先の山では夜はオオカミが出て、山を越す者は一人も助かってない。悪いことは言わないから今日は泊まっていけ」と言う。しかし父のことが心配でたまらない息子は茶屋の主人が止めるのも聞かず山へ向かった。八合目に来たときに、息子の目の前にオオカミが牙をむいて現れた。息子は今にも飛びかかろうとするオオカミに向かって「ちょっと待ってくれ、俺の話を聞いてくれ」と言った。息子が父が病気なので一日待って欲しい旨を伝えるとオオカミは息子の孝行ぶりに感心して一日だけ待ってやることにした。息子が喜んで歩き出すとオオカミが「おまえの嫌いなものを教えていけ」と言う。息子は「俺は銭が嫌いだ。お前さんは?」と問うと、「渋柿と煙草のヤニが好かん」と答えた。
急いで息子が家に戻ると父親は病で床に伏せていたが、息子の顔を見て見る見る元気になり、母親も兄弟も皆喜んだ。
翌日息子は大量の渋柿とヤニを持って山に登った。約束通り待っていたオオカミに息子がそれらをすりつけると、オオカミの皮ははげて赤い肌が剥き出しになった。怒ったオオカミは「今度はお前の番だ」と言って銭を投げつけてくる。息子が痛い痛いと言っていると満足したようで、体を洗いに何処かに行ってしまった。息子はオオカミが投げた銭を拾い、それで父親の病気を治して家も繁盛したそうだ。


◆トシ来いヨシ来い
昔富江の山下に心の優しい親子が住んでいた。夫に先立たれた後、子供のヨシを連れてトシという子のいる男の元へ嫁に行ったが、我が子も継子も分け隔て無くかわいがっていた。 ある春の日ちょうど大潮で沖の方まで潮が引いていたので二人を連れて浜辺に出かけた。七ツ瀬で遊び昼食をとった後、二人は母から離れて遊んでいた。しかししばらくして母を呼ぶ悲鳴が聞こえる。声の方を振り向くと大蛸が二人を追いかけていた。母親は側にあった丸太を持って死にもの狂いで走り、大蛸を叩きのめした。よく見るとその蛸は七本足の蛸で、昔から七本足の蛸はとるなと言われていたが珍しい大蛸だったので持って帰ろうと考えた。女手にはあまりにも重いので、足を一本ずつ切って運ぼうと思い、子供達を岩の上で遊ばせて母親はせっせと運び始めた。夢中になって運んでいたので、終わる頃には潮が満ち、二人の子は潮に浸かって今にも溺れそうだった。「トシよい、ヨシよい」母は叫んで二人の元へ泳いでいった。足の脚絆が片方破れても気にせず潜って探したが、二人は見つからなかった。
それからちょうど一年。病を患い体が弱っていた母は、浜で遊ぶ二人の子供の姿を見てトシとヨシを思い出し、海へと入っていった。途中波に飲まれ、それ以来母の姿を見る者は居なくなった。
それから間もなくして、七ツ瀬では不思議な鳥が見られるようになった。右足が白く、左足が黒い鳥で、澄んだ声で「トシコン、ヨシコン」と鳴く。皆、「あれはトシやヨシの母親に違いない。二人が溺れたとき、片足の脚絆が脱げたから、片足が黒いのだ」と言ったそうだ。


◆ぐつ
昔、山の中に「ぐつ」という男が母親と兄と住んでいた。兄は山に罠をかけて、捕まえた獲物で商売をしていた。ある日兄が「ぐつ、ちょっと罠を見てきてくれんか」と言ってぐつを山に行かせた。しばらくして帰ってきたぐつは「鶏がかかっていたので助けてやった」と答えた。「何て鳴いて逃げたか」と聞くと「ケンケン鳴いて逃げた」と答える。兄は呆れて「馬鹿、それは雉たい。」と教えてやった。翌日、兄はまたぐつに罠を見に行かせた。「今日はとなりの牛がかかっとったけん助けてやった」というぐつに「何て鳴いたか」と聞くと、「おつんよう、おつんようと鳴いた」と答えた。兄はまた呆れて「馬鹿たれ。せっかく猪のかかっとったのに…今度は何がかかってても逃がさないで引っぱって来い」と言って叱りつけた。翌日、またぐつが罠を見に行くと今度は薪を拾っていた母親が誤って罠にかかっていた。母親はぐつを見て「ぐつ、はよ放してくれ」と言ったが、ぐつは母親の言うことをきかずそのまま引っぱり始めた。母親は苦しくて「ぐつ、外してくれ」と頼むが、ぐつは「兄ちゃんがかかってるものは逃がさんで引っぱって来いって言うたけん」と言ってとうとう家まで引っぱって、母親を死なせてしまった。兄はぐつをたいそう叱って「葬式をするから坊さんを連れてこい」と言った。ぐつは坊さんを知らなかったので兄に聞くと「黒い着物を着て拝んでいるのが坊さんたい」と言う。ぐつは黒い着物を探しまわった挙げ句、牛小屋に来て黒牛に「葬式をするんで来てくれ」と頼んだ。牛は「モウ」と言うだけなので、ぐつは帰って兄に「坊さんはもう嫌って言ったよ」と告げた。兄は詳しく話を聞いて、ぐつが坊さんと牛の区別もつかないことに呆れて自分で呼びに行くことにした。「お前は飯でも炊いとけ」と言って兄が出かけたので、ぐつが飯を炊いていると、なべが「ぐつぐつ」とたぎってきた。ぐつはこの鍋は俺の名前を知ってると思い「おい、おい」と声をかけると、鍋は「ぐつくた、ぐつくた」言い出した。「おら食わん、おら食わん」と言い返しても「ぐつくた」と言うので腹を立てて石の上に投げつけたら、鍋は「くわん」と音を立てて割れてしまった。ぐつは満足して、坊さんを連れて帰ってきた兄に話すとまたひどく怒られてしまった。今度は風呂を沸かして坊さんを入らせていたら、底の方がまだ水だったので「早く何でもいいから火にくべて湧かしてくれ」と言った。ぐつは坊さんの着物まで燃やしてしまったので、坊さんは風呂から上がって何もないのに腹を立てたが、仕方ないので丹前を頭からかぶって帰ったという。


◆聞き耳(上五島町)
ある木こりのお爺さんが大きな松を切ることになった。だが、その木に住む蛇から獣の言葉を教える代わりに切らないで欲しいと頼まれる。これを承諾したお爺さんは獣の言葉が分かるようになり、その力で財を得て、一生幸せに暮らしたという。