更新して


オレはボーっとしたまま空を見あげた。
空、つってもまァ、そこは宇宙だ。マックロに少しだけアイイロを混ぜた色にギラギラと星が光ってる。
少し遠くには、センパイが言っていた「彼女」がおーきく広がっていた。
彼女はフォトン、ってゆう、・・・宇宙だ。
実際この目で見たトコで、オレはそれをまったくナットク出来なかった、ワケだが。
だって意思を持ってる宇宙だぜ?
おまけに美人だぜ?
たしかに超デケエけど、宇宙ってフツーなんかこう、バーンってしてるだけの存在じゃね?
・・・。
それでもフォトンはきれーな声でニンゲンみたいに喋るし、オレのことを当たり前のように「車掌さん」と呼ぶ。
オレはまだまだ信じられねェよなァ、ってカンジで、ホームに腰かけてブラブラ足をふっていた。
相変わらず、ココはヒマだ。
今日で車両来ない記録がなんと3週間目にトツニュー。
「・・・DJくん?」
「あ。センパイ」
ハァ、とため息をつけば、詰所からセンパイが顔をのぞかせる。
センパイ、イコール、オクターヴさん。この最果駅をずーっと担当してる、伝説の車掌。
ステーションから左遷されたオレを温かく迎えてくれた、やさしーヒトだ。
オレはそのままホームに腰を落ち着かせている。なにせどーしよーもなく、ヒマなのだ。
「ヒマっす、センパイ」
「それでしたら、ステーションへの報告書の仕事が」
「・・・オレがやると3日かかりますー。センパイなら1時間でしょ」
「そうでもそうなんですけどね。暇、だと言うので・・・」
「オレは車掌っすよ。デスクワークなんてマッジで勘弁です。アナウンスだの車両整備だのしたいですよ」
「そう言われましても、車両が来ませんからねぇ・・・もう少し、我慢して下さいませんか」
オクターヴさんはオレを宥める。オレはぶすっと腕を組んで、フォトンを見上げる。
「フォトンの言うコトはイチイチ難しーし。なんなんスか、あのヒトも」
「・・・ああ。君は、その点では結構恵まれていると思いますよ。最も近しい話相手が彼女なんですから」
「センパイ、会話かみ合ってないス。フォトンの話はオレには手、余るっス」
「そうですか?」
「エエ。オレは、センパイと違ってアタマ悪りーんで」
「それなら一緒に行けばいいんですよ。私もよくフォトンと話しますし。大人数の方が彼女もきっと喜びます」
ゆらゆら風になびかれてるようなフォトンは多分地球のほうを見て微笑んでいた。
オレがオクターヴさんを見上げると、フォトンを見ている。
・・・ヘンな誘い。そもそもふたりって大人数なの?
いろいろな疑問とか考えとかがオレの中をぐるぐるめぐる。
でも、チンプンカンプンなフォトンの話を、このヒトはうまく翻訳してくれるだろーか。くれるかな。
オクターヴさんはこの会話を見ても分かるとーりカンゼンな天然ってヤツだけど、ヒマよりは話す方が100倍いい。
「おー。じゃ、イイっすよ。行きましょうよ」
「今日は仕事がありますので、明日はどうでしょう?」
「明日。あいあい。リョーカイです」
ようやく目線をこっちに戻したオクターヴさんに頷く。
マンゾクげに、オクターヴさんは笑った。明日。うん。明日ね。
ちょっとナットクしかけたオレのアタマに、新たな疑問が湧く。
ちょっと待て、明日、・・・ってことは明日も車両は来ないってこと?
オレはとんでもない事実に気付いて、車両来ない記録が3週間と1日になることにおーきく、ため息をついた。


DJ車掌(没キャラ)&オクターヴ















蜥蜴の尾


「・・・蜥蜴」
部屋の片隅で、黒い蜥蜴が這っていた。
私はそこに目を留め、その不気味な生き物がこの場所に現れた意味を思った。
淀川ジョルカエフの従属物。
黒い蜥蜴は、私やIDAAの中でそれを意味するものだ。
常に恐れていた危惧が遂に形になって表れたかと、ごく自然に私は蜥蜴を眺める。
恐怖もなく、ただ平坦な思考でそれを思うのは、私の中で今や淀川よりも深い存在の男が居るからに他ならない。
その存在を脳裏に描けば、濁った感情が胸から噴き出すような錯覚がする。
私は壁に張りついた、黒点のような蜥蜴を眺めた。
「・・・今晩和ァ」
徐にドアが開く。講談師だ。夜に訪れるのは珍しい。
ちらりと見やり、私は今しがた濁った胸を見せつけるように、不機嫌な表情を顕わにした。
すると講談師もすぐに曲がった顔をし、皮肉染みた笑顔をこちらに向ける。
一挙一動の秘める感情が正確に相手へ伝わることは中々小気味よいものだと言うことを、私はこの男に出会って知った。
「そこに、置いてある。好きにしろ」
ソファの前に置いた小振りな机を指差す。まとめ上げた資料。これからこの男に犯される、私の知識と情報だ。
ずるり、と黒衣が床を舐る。衣ずれの音が響く。
蜥蜴が動いた。私は講談師から視線を外し、ゆっくりとそれを追う。
「・・・おや。蜥蜴、ですか」
目の動きで気付いたのだろうか、同じく目線だけを動かし、講談師は低く笑った。
この男のことだ、あの童唄のことなどとうに存じているのだろう。
淀川の使者。私は尚も濁る胸を感じながら、この蜥蜴が真実そうであることを願った。
数センチほど動いた蜥蜴は、またすぐに動かなくなる。
講談師はそれを気にせず机の上の資料を手に取ると、しばらくそれを読んで満足げな表情を浮かべた。
「・・・毎回、此の程度の資料を頂ければ有難いんですがねェ」
「貴様の情報を元にして研究を行った。今回のような成果がまた欲しければ、それ相応の態度をとれ」
「手厳しい学者様だ。あたしは唯の介入者ですからねェ。ヒトはヒトの力で、足掻けば如何です?」
「相互の利益、と貴様は言った筈だ。求めるのならば差し出せと、いつも私は言っている!」
「其の量を、具体的に提示した憶えは御座いませんがねェ」
饐えた悪態。嗤う顔。吐き気がする。それでも講談師の持つ知識は、私の中でそれ以上の輝きを持っている。
そう、どれほどこの濁った嫌悪を自覚しても、だ。
蜥蜴は動かない。
じっとこの部屋の中に息づき、冷えた温度で凝った私達を観察している。
講談師は蜥蜴を見つめ、私を見つめた。凍りついた視線は、その頭部で燃える炎と反比例した色だった。
・・・なにもかもを略奪しようとする異形の姿は、ようやく、私の細い身体にも慣れた。
こうして、この嫌悪を安い興味と関心に溺れさせてしまうことも無くなった。
今ここに存在しているのは、燻った正義と憎悪の念だけだ。それだけが、私を愚かしい行為に繋ぎとめている。
黒の蜥蜴。それが意味するもの。私達を繋ぎ止める、元凶。
表れてみるなら、表れてみろ。そう思った。そして、私をこの男共々、喰らってみろ。
「・・・・・・」
そうすれば、こんなふざけ切ったやり取りも終わる。IDAAは崩壊し、悪魔はまた野に放たれる。
悪魔に喰われ、講談師は死ぬだろうか。尚も生き、無残な死骸となった私を怒りから壊し切るのだろうか。
氷のように冷徹な視線。
滞った憤りの中で、私は講談師の手中に収められた態度を取る自分自身をひどく、滑稽だと思った。
「・・・忌み唄に擬え、貴様も悪魔のように私を貪るんだろう。その下らない欲望を充たすために」
「口の、減らない。鬼を捕えたいが為、進んで自らを犠牲にしながら何を謂うんです」
「黙れ。・・・そうするしか無いように仕向けている張本人は、貴様だろうが」
あくまで飄々とした態度を取る講談師を、私は静かに嘲った。
この男がもっとも得意とする表情を惰性で真似れば、自らも闇に落ちたような心地がした。
講談師は捩れた顔つきをし、私を無言のまま咎める。
人間を、不様な存在だと認め続ける。
蜥蜴は死んだように動かなかった。悪魔の化身。お前も私を笑っているか。
宛らこの男の尾として、いつ切り捨てられるかも判らぬまま、それでもお前を殺そうとしている、私を笑うか。


淀&鴨川















茨の交色


「あま〜い砂糖菓子。儚くてウツクシイ、そんな貴方はお人形さん」
「何を言っているの、神」
いきなり訳の分からないことを言い出し、満面の笑みでその辺をぐるぐると回り出した神に少女は呆れた。
砂糖菓子?儚くて美しい?お人形さん?
その科白のどれもはまるで突拍子がなく、滑らかな口調さえも訝しかった。
おかしな様子を咎めるように、少女は神を無言で見上げる。
すると簡素な踊りに興じていた神の視線はその強固な瞳とぶつかり、神はゆるやかに体勢を崩した。
「んっ、いや。っとっと。お前は、ほんとはそれぐらいの存在だってことさ」
「・・・?」
片足でわざとらしくステップを持て余し、その後でようやく姿勢を直した神は、笑顔を絶やさず少女を射る。
唐突な言葉に、少女は口をつぐんだ。
『それぐらいの存在』?
少女の動揺を表すように、ワンピースの中に降る雪がでたらめになった。
「なんだ、ビックリしてんのか」
「・・・アナタが、そんなことを言うのは稀、だから」
「そうかな。俺、いつだって素晴らしいものは素晴らしいって言うよ?」
「・・・・」
朗らかな神の表情を見つめ、意味が分からない、と少女は思う。確かに神は何をも讃える。
しかし、これまで少女をこんな風に甘く比喩したことは一度もなかった。
自らの手を少女は見つめ、限りない蒼さを秘めた肉体にあの紅く黒い染みが認められるか目を細めた。
・・・この男ならばすぐに嗅ぎつける、と直感したのだ。「神」たる器には、容易なことだと。
「・・・わたしの何を、知っているの」
「え?何がぁ」
「極卒、の、存在。アナタは、それを、見つけたの」
神を睨むように眉を顰め、臆面もなく少女は突きつけた。そこまで知られてしまっているのなら、隠す方が愚かだ。
飛びかかった言葉で神はようやく笑みを消す。
片手を持て余すように振り、その身体へ向き直る。少女の顔は、きつく締まった。
「お前は随分賢いし。受け入れでもしなきゃ、全部拒むと思ってたからさー。結構、匂い、するよ」
神は自分の手を鼻先に寄せ、くんくんと匂いを嗅ぐ仕草をする。
それを認めたあと、やはりそうか、と納得した少女は身体に残っているであろう色や匂いにため息をついた。
あの男の自我が、他に影響を及ぼす程の強さを持っていることは考えなくとも判る。
「・・・それは、それで、いい。でも何故、アナタはそんなことを言うの。砂糖菓子?・・・わからない」
それでも解せない。砂糖菓子と少女を比喩する、神の真意は。
同じ白でも、自分がそこに重なると、少女は到底思えなかった。
或いは、その優しい甘さこそ拒まれるものだ。この身は色づくはずのない白なのだから。
「だから。お前はそうなれるってこと」
「そう、なれる?」
だが、神はやわらかなステップを闇に踏んでいく。ひとつ、ふたつ、みっつ。軽やかな足取りが地面に光を残していく。
かくある少女を敬うように、淑やかな動き。言葉。声色。
「気付かない?変化は、臆するものじゃない」
「・・・アナタは、あの男を受け入れろ、というの?」
諭すような神の言葉に少女は今度こそ、己の惑いを隠さず呟いた。
神はそのあからさまな態度を、おかしげに笑う。
「可能性は潰されるべきじゃない、って話さ。闇に親和すべきは、俺だけで充分だろ」
「・・・それは、驕り。アナタ独りで、抱えられる、量じゃない」
「ま、それは、そうかもな。でも、脱せる可能性があるんなら、そのために協力したいだろ?」
「・・・・・・」
己の業をも示し、なお微笑む神は少女の身に起こったすべてを把握しているようだった。
確かに、あの男が発した一言で「忌む」という感情からわずかに逃れた少女には、ほんのかすかな望みが産まれた。
それさえも、神が感じ取っているのならば。
その甘く無垢な希望こそを、「砂糖菓子」だと?
「協力」
少女は静かに神を見つめ、震える声を吐き出す。求めている。願っている。その想いを、ゆっくりと、自覚する。
「うん、そう。俺に出来ることは、そんなに大したことじゃないけど」
それを見つめ、神は微笑む。すべてを包容する微笑みだった。
「何を・・・、して、くれるの」
「お前が産んだものを、形に出来る」
「・・・?」
「それは極卒にとってどんな意味を持つのか分からない。でも、「彼」の存在を無視することはできないよ」
「・・・彼? ・・・、誰、なの」
「お前がもっとも愛していた人。お前をもっとも見守っていてくれた人」
疑問を表す少女に、神は右手を口に見立てるようにパクパクと動かした。
その動きで、少女の胸には自身と同じ色の、蒼い姿が鮮明に描き出された。
協力。望むもの。
神の言う、極卒にとってどんな意味を持つのかわからない、という言葉も理解出来た。
『彼』。
少女に、もっとも寄り添っていた存在。
「・・・・」
「彼の想いに、託されるのかもしれないな。そう考えると、ちょっと、俺も他人任せ過ぎるかな」
「・・・いいえ。わたし達の、こと、だもの」
手を解き、同じ存在を両者は思った。
少女は申し訳なさそうに微笑む神にかぶりを振る。
「そう?」
「ええ。わたしは、望む。アナタの力を」
それを見て、神はわずか悲しげに寄せていた眉を朗らかな形に戻した。
「・・・ありがとう。お前たちの助けになれるな、俺」
「・・・ええ。アリガ、トウ」
一歩を進み、柔らかく少女の頭を撫でた神に、少女は目を細めて感謝を言った。
神を信じる。その力を信じる。彼の愛を、信じる。
「・・・」
まっすぐに己を信じてくれる少女に、神は優しく微笑んだ。そして思った。
決して交わることのなかった色々を美しく融解させるのは、強い想いに他ならないのかもしれない、と。


おんなのこ&MZD















サクラ色


「コンチハー。幸せを届けに来ました。・・・あ、不審者じゃないでーす」
「・・・どう見ても不審者。帰れ」
あたしは言った。わざとらしいサングラスを押し上げて、カッコつけたスーツはいつもの白。
空はサクラ色。3月の早足。
あちこちでその欠片が鬱陶しく舞って、あたしの視界を塞いでる。
「つまんねーな、乗れよ!折角来てやってんのに冷たいったらねェな!」
「いつ来いって言った!用があるならまず電話かメールしろ!」
「うるせー、時間がなかったんだよ、MZDにわざわざ聞いたんだぞっ!」
「ウチを!?」
「ウチを!」
まくし立てて、まくし立てられて、丁度いいところでお互いに息が切れる。
あたし達はしばらく睨みあって、一緒のタイミングで、フンと顔をそむけ合う。
けど、この白スーツがあたしのウチの前から離れる気配はない。
目の前に居るのはいつものバカホスト。
いつだって妙に几帳面に約束を取り付けてくる男の来訪はいつになく、突拍子のないものだった。
「用があるから来たんだよ。出ろよ。オマエんチに上がろうとするほど節操ないワケじゃないからな、俺」
「・・・用?すぐ終わんの」
「終わるよ。出勤あとにわざわざ来たんだ、出ろって」
「・・・・・・」
じっ、と睨めば睨みかえされる。
折角のオフ(大学も今日はナシ)になんでこう、上手く潜りこんでくるんだろう、こいつは。
もしかしたらそれも神サマに聞いたんだろうか。余計なことをするおせっかいなあの人は、好きだけど結構苦手だ。
あたしは午前10時にはそぐわないホストの格好を眺めまわして、ため息をついた。
「分かった。下で待ってて、すぐ行く」
「了解。なんだ、サクラのせいか素直だな、お前」
「うるさい。行かねーぞバカホスト」
「へいへい、判ってますよーモデルサマー」
どうでもいい悪態は背中に置いて、わざと大きな音を立ててドアを閉める。
部屋に戻ってアウターを取ってきて羽織る。3月でも外はまだ寒い。
玄関には靴が氾濫していた。適当なパンプスを引っかける。別に焦ってるわけじゃない。
ノブを回す。やっぱり外は邪魔なくらいの薄ピンク。ホストの姿はない。
鍵をかけて、下へ降りるとサクラを見上げた姿で固まってる。
「何やってんの?」
「おー。ホントに早えな。30分ぐらい掛かるかと思ったわ」
「・・・で?何よ、用ってのは」
「ん、ああ、そうだな。あー」
今日は風が強くて、早咲きのサクラはソッコーで花吹雪になってあたし達の周りを飛んでいる。
ホストは用件を伝えましょう、ってところでいきなり口調を濁らせて、視線をサクラに持ち上げた。
一直線の瞳。綺麗な花吹雪の中でもぜんぜん、絵にはならないホスト。
「何?すぐ終わんでしょ、何ぐだぐだしてんの」
「お前さー、ほんっとムードを尊重しねえよな。コレだ、コレ」
「・・・・何これ」
「次のパーティーのチケット」
「・・・、はぁ?」
その通り、ムードを無視したあたしを渋い顔つきで捉えると、ホストは1枚の紙切れを取り出した。
カラフルな色。弾けるクラッカーの絵。
「いーだろ?2度目の招待。10周年の記念すべきパーティーだ。羨ましいだろー」
16、と堂々に刻印された紙は、紛れもなく・・・、例の音楽祭のチケットだった。
ひらひらと揺れるそれをあたしはひったくって、とりあえずニセモノじゃないかと確かめる。
分厚い紙の手ざわり、ロミ夫って書かれた神サマの筆跡、どうやっても偽造できないようになってるそれ。
あたしはホストを弾けるように見て、うそでしょって顔をする。
「なんでアンタが?」
「俺、この度ナンバーワンになりまして。そのお祝いだってさ、MZDの」
「は?ナンバーワン?万年、ナンバーツーのアンタが?」
「無事、執念達成したんだよ。再登場で新曲枠だぜ?スゲーだろ」
「・・・・ウッソ、だぁ」
にかり。白い歯を見せて笑われる。パーティーで新曲枠として再招待されるっていうのは、スゴイ、ことだ。
前回参加の人気投票とか、パフォーマンスの良さとか、いろいろなことが考慮されて選ばれる。
(だから、あのパーティーで「常連」になってる人はホントにとんでもない人たちなんだ)
「ホントですー。どーだ、スゲーだろ」
「・・・なんでアンタが、新曲・・・かなぁ・・・」
「素直に褒めろっつの。それはやるから来いよ、オマエ」
「は?何?ちょ、何言ってるの?」
「チケット。やる。特別に2枚書いてもらった。見に来い、っつってるの」
「はー?何バカなこと言ってんの!?こんなの無くても、過去参加者は入場できるじゃん!」
「チケットあった方がハク付くだろーがよ!それにコレ渡しでもしなきゃテメー見に来ねェだろ」
「・・・・」
思わぬ事実、無茶なホストのやり方に、マジメに、呆れる。
これ欲しがる奴が、この世の中にどんだけ居ると思ってんの。
あたしはチケットを握りしめて、ホストの誇らしそうな顔を追う。サクラ色が眩しい。
ナンバーワンだって。会った時から何百回も聞いて何百回も無理だって返したこいつの目標。
・・・バカじゃないの、ホント。
「マジで来いよ!とっときの曲、用意すっからよ。お前の度肝を抜いてやる!」
「・・・どっちにしろ、行くわよ。先生が行くんだもん、行かないわけないでしょ」
「お・・・おま、結局センセーかよ!空気読めよ!」
「うっさい!アンタがこんなモン用意するからいけないんじゃない!」
「はー!?なんで今この状況で俺が怒鳴られんだ!?意味分かんねーんだけど!」
「意味わかんないのはコッチよ!こんなん渡されてもどーしようもないじゃない!」
思わず怒鳴れば、怒鳴り返される。ホントにふざけてるとしか思えない贈り物。
3月だっていうのに妙に熱い。
アウターなんて着てくるんじゃなかった。サクラがうざい。
あたしはチケットを片手でぶんぶん振りながら、目の前のナンバーワンを出来るだけなじった。
オメデトウ、なんて科白は、考えつきもしなかった。


ロミ夫&ミサキ















退屈な昼


「ヴィルヘルムさん?」
「・・・・」
ウーノは机に突っ伏している紳士に声をかけたが、反応が返って来ず、そっと背に触れようとした。
「あー。寝てるよ。起こさない方がいいんじゃない」
「あ。ドゥームくん」
・・・が、どたどたとうるさく音を鳴らして現れたドゥームにあっさりと注意され、その行為は拒まれた。
青い色がぐにゃりと歪んで、ウーノを見上げる視線は喚起っぽい雰囲気だ。
いつの間にか神の御心によって動けるようになったドゥームは、恐ろしげに眉を顰めている。
「ヴィルヘルムの寝起きは悪ィぞー。いつ攻撃が飛んでくるかわかんねーからな・・・」
「うわっ。あの光の弾ですか」
「そうそう。俺、一回起こしちまってさァ・・・本気で死ぬかと思ったわ」
実際、自分本位に生きている紳士は他人にペースを乱されることを嫌っている。
二人は寝転がっている紳士を恐ろしいものを見る目で見つめ、さりげなく一歩後ずさった。
「・・・じ、じゃあ。ヴィルヘルムさんは、このままで」
「そうしとこーぜ。そーだウーノ、お前っていつまでこっち居んの?」
「MZDさんがこっちに居ろ、と言い続けるまでです。僕はそろそろ帰りたいですよ・・・」
「なんかよく分からんヤツも居るしなあ。ま、頑張れよ。頑張りついでに茶でも入れてくれ」
「はい、はい・・・」
ヴィルヘルムの自室から抜け出した二名は石造りの廊下をひたひたと歩んでいた。
ドゥームの言うよく分からないヤツ、というのは白くて黒い容姿をし、妙な言動をする男のことだ。
三人の誰もがうまくあしらうことの出来ない厄介な男で、会う度に面倒な目に遭わされている。
ウーノはため息をついて、ドゥームと共に居間へ向かった。
ここは紳士の所有地で、神の命令によって現在、四人はここで共同生活じみたことを行っている。
その真意はまったく定かでないが、各々が自由に過ごしているためあまり不満は出ていない、
・・・という建前だったが、やはり人間のウーノには不便も多いらしく、現状のようになにかとドゥームに愚痴をこぼしているらしい。
居間へ着くと、手早くウーノはポットに水を入れ、湯を沸かす。
「しっかし世話慣れてるよなー。何、ヒモだったの?」
「・・・あのですね。そういう下世話な話はやめて下さい。グループのメンバーが何もしないから、勝手に回ってくるんです」
「はー。そこでも共同生活だったのか?」
「そうですよー。ま、ここよりは快適でしたけど」
「そりゃ、こんな寂れたところじゃなー。そもそも寒ィし」
年代モノじみたカップを二脚取り出せば、いつものように部屋の周りにほこりが舞った。
一々うるさく音を鳴らすドゥームはポットから徐々に立ちのぼる湯気を眺めてスティックを擦りあわせる。
「寒いですよねー。ここの景色は案外綺麗ですけどね」
「雪の積もり方がな、いいよな。それはわかる」
窓を見れば、今日も外では雪が降っている。
古城に似たつくりの建物に、白は存外、美しく映えるものだということをウーノはその目で見て実感した。
ぐつぐつと湯の湧く音がする。
ここにガスが通っていたことは、彼がここに来て一番喜ばしかったことかもしれない。
「あ、レモンティーな、ほら!サイコーに酸っぱい奴。頼むぞー」
「っと、はいはい。・・・たまには紅茶の味殺さないもの、飲んで下さいよー」
「へーへー」
すっかり視界へ馴染んだ景色を横目に、ドゥームはいつの間にか取り出していたレモンを投げた。
茶葉とティーポットを準備していたウーノは相変わらず偏ったドゥームの嗜好にため息をついて、鮮やかな放物線を描いた黄色を、呆れた顔でキャッチした。


ウーノ&ドゥーム


















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