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同じ月を見ている


「残念ですね。バァン」
おどけるようにそう言って、銃の形をした指先は僕の額に突きつけられた。
ご丁寧な効果音つきのなだらかな科白。
この世の凡てを奪い取る怪盗の、不敵にして優雅な笑顔。
「・・・冗談は止めろ。」
「冗談ではありませんよ。私は何時でも貴方を捉える事が出来る。勿論、・・・殺す事も容易い」
ツ、と絹の手袋に包まれた人差し指を離し、モノクルの底から冷えた視線は跳んでくる。
対峙する中、怪盗から死を宣告されたのはこれが始めてだった。
どくり。わずかに心臓が戦慄いた気がする。
殺人という最高の脅し文句。彼が呟くと、まるでオペラだ。
「僕一人を殺した所で、お前を追う者が消える訳じゃない」
「そうですね。しかし、私は獲る事が出来るのです。
 余りに美しい翡翠の宝石をね。・・・「全て奪う」、と言っているでしょう?」
恐怖と固持が僕の中でない交ぜになる。
それを悟っているように、愉快な声で怪盗はケタケタと御託を並べた。
翡翠の宝石。
僕を真直ぐに捉える視線は、僕の視界・・・つまり僕の眼、そのものに向かっている。
どんなものでも、的確に、迅速に、そしていつでも鮮やかに奪う黒い怪盗。
物も、時間も、或いは人でさえ盗む怪盗。
旋律するようなその顔つきは、どんな時でも崩れずに美しい。・・・僕の眼は、緑だ。
「・・・僕を奪う。そう言いたいのか」
「意味を汲み取って頂き嬉しい限りです。私に惹かれている姿が眩いからこそ、私は奪うのですよ」
フッ、と、銃の指を吹く。ツンと立った唇が、つややかな光を放った。
惹かれている、だと。噎せ返るような感情がゆっくりと僕を支配していく。
それは理解か。肯定か。或いは拒絶、か。
「馬鹿を言うな。僕が、お前に?」
乱暴に、怪盗の手によって僕の思考は掻き混ざる。
視線という弾丸が、これほど威力を持っていることを僕は今まで知らなかった。
嘗めるように、誘うように、怪盗は僕の瞳を見つめ続ける。
「・・・若しくは、私が貴方に」
そして、堪え切れなくなったように、怪盗は唇を開いた。
白い歯と色づいた唇と思いもよらなかった科白。一拍を置き、僕はひどく、狼狽した。
出来うる限りの惑いを見せた。飾ることを僕は忘れた。
それは僕の中でその言葉が確かな真実を帯びていたからに、他ならない。
マントを風に遊ばせたまま怪盗はそんな僕を見、穏やかさと冷やかさの両者を帯びた顔をする。
僕は気付かなかった。月が円く輝いていた。今ではそんなことしか覚えていない。
怪盗は、確かに困惑しきった僕に向かってそう呟いた。
鋼と繭。水と石。相反する物としての、彼。
それはまるで真実の形をしていた。それに僕は、気付かなかった。
「は、・・・?」
「いえ。少々、口を滑らせてしまった様です」
だから僕は、こうして置き去りにされる。
いつも、いつでも、怪盗の犯行を阻止することが出来ず、彼を夢に置いていく。
首を振り、紳士の格好で怪盗は身を翻す。逃げる!と僕は気づき、足を無理矢理前に走らせた。
「さようなら、探偵さん」
しかしその行動は一歩遅く、怪盗は僕の目の前から溶けるように姿を消した。
つんのめるように僕は止まり、誰もいなくなった空間を見る。
「・・・、僕が?・・・お前が?」
寒い冬の夜、月は煌々と闇を照らしている。球体の、余りに巨きな姿で。
僕は、その月を見上げた。光が眼の奥に入り込み、痛みを感じた。
細い指先が撃った額に、穴が空いている気持ちになった。死の傍にある怪盗の、例えば、血塗られた手。
そこには真実などひとつもない。奪われる正義も、奪う欲望もない。
だからこそ、僕は痛んだ。眼が、額が、腕が、指が。そして胸が。
いつか失っていく静寂を怪盗自身が摘み取るような、その残酷な器に。

コナンニャミ×奇妙ミミ















アフロディテの泡


「じゃア、何だ。とどのつまりだ、こいつを飲めば好いんじゃないですか」
「お前の戯言も堕ちたな。何だ、惚れ薬だなんて非現実的な」
「非現実大歓迎ですよ。アンタが飲めば愉しい事になりそうだ」
「・・・それは貴様の主観だろう」
青い色の薬を前に、座り込んで額をつき合わせてうむむ、と唸り交じりのたわごとを続けているふたりは、
それを持ってきた暇人の顔を思い浮かべながら、如何にするか、の押し付け合いを続けていた。
「あたしは飲みたか無いですよォ」
「何を言う。私だって御免だ」
それを互いのどちらかが飲む、という以外の案は出し尽くされていて、
既にこのふたりには「この薬を肴に無駄な議論を楽しむ」という感情が巡っているようにも見える。
それでも蛍光まじりの青をした薬は面妖な煌きで、ひとつ道を誤るための手招きをする。
つまらない変化をもたらす真似。
生き物でもないただの薬に、それほどの力があるのだろうか。
「じゃア如何するんです。唯の御飾りにして置くって訳ですかァ」
「そんなに気になるならお前が飲め。そして適当な人間に惚れて拒絶されろ」
「・・・冷たいですねェ。一研究者として興味も沸かないんですか、学者様ァ?」
たぷん、と黒衣の男は薬の入った平面フラスコをゆるやかに手に取り、
玩ぶような形をしてごん、と眼鏡の男の額に打ち付ける。
それを視線だけで見上げて、ため息にも怒りにも満たない光が眼鏡の男の瞳に駆け巡る。
退けようとする仕草さえないのは、その薬の光が放つ美しさの所為か。それとも。
「・・・興味が無いわけはなかろう」
「成らば、一丁」
「お前が飲むなら、飲む」
「アンタは子供ですか。・・・半々とでも謂う御心算で?」
「・・・そうだな。二人で飲めない量ではない」
額に触れたままのフラスコを甘い手つきで奪い取り、眼鏡の男は波を作るようにそれを揺らせてみる。
感情の支配。或いは誘導。催眠。
わずかに面食らった黒衣の姿は、空の手を手持ち無沙汰に動かした。
「本気ですかァ?誰に惚れるんです」
「さあな。貴様こそ誰に惚れる」
「さあねェ。飲みゃア御判りに成るんでは?」
「・・・それもそうだ」
納得をして、薬を机に置く。
フタを空けて、覗き込んで、視線を交し合う。
匂いは無い。その青色だけが、確かな色彩を持って彼らの中心に居る。
「分ける容器がないな」
「・・・この施設にゃ湯飲みの一つも無いんですか」
「ああ。待て。ビーカーがある」
ひとところ青色を見つめた黒衣の男は、ぐるりと辺りを見回した。
容器はひとつ、それに眼鏡の男も気づいたようだ。
まさかそのまま互いに飲む訳にもいかないと思ったのか、目に付いたビーカーを取る。
呆れた溜め息が響いた。
「色気も何も有ったモンじゃ無いですな」
「貴様のどこに色気が必要なんだ」
「失敬。アンタに色気が有ったらおぞましくて直視出来ませんな」
むっとした表情を返しながらも、その目は薬に傾く。
研究者故の好奇心が膨れる。色気をも帯びる、その仮定に惹かれる。
もう薬にとり憑かれているのかもしれない、と眼鏡の男は思った。
一度深く呼吸をして、目線を上げる。
「・・・分けるぞ」
「ええ。どうぞ、御均等に」
促すように黒衣の男は手を広げた。
そろそろとした手つきの中、薬が細い線でガラスの底に流れる。
その音だけが、ゆっくりと部屋に反響して透明な粒子を産んでいる。
眼鏡の男は、言葉通り完璧に液体を「均等」にした。
互いに分けて、視線で飲むぞと告げれば、頷きが返る。
そして、二人は乾杯をするでもなく、一気に薬を喉へ流し込んだ。
「・・・」
「・・・」
薬の味は妙だった。甘くもあり、辛くもあり、苦くも酸っぱくもあった。
だが、問題はそこではない。
薬が持つ、その力こそが命題なのだ。
暫くふたりは容器を机に叩きつけたままの格好で見つめ合った。
それは互いを燃やし尽くしてしまうのではないかと思えるほどの、熱く長い時間だった。
どちらともなく、身体が動く。唇が動く。
「・・・・・・、」
聞き取れないほどか細い科白は、それでもすべてを焼く燃料となった。
そのあと、ふたりがどうなったかは彼ら自身に聞くのがもっとも良いのだろう。
「悪夢だった」、そればかりを頑なに繰り返すふたりの顔は、
今、特別やわらかく作ったマシュマロのように、蕩けているのだが。

淀鴨















夕闇連合


「お前、バカだろ」
「あれ。そんなの、知ってると思ってました。俺、そんな馬鹿に見えないかな」
「・・・ふざけてんの?」
「少し」
アハハ、と僕は笑った。
先輩の顔はドラマチックに歪んでいて、滑稽じゃない真面目な可笑しさをして、それはすごく楽しかった。
視線を交し合って、はなれて。
そんなやり取りは、どうしようもなく、ぞくぞくして。仕方がなくて、おかしい。
「あのなぁ、」
「判ってますよ。先輩はホントは、頭いいし」
「マジで言ってんの。俺の成績、知ってる?」
「知ってますよ。下から5番め」
知ってるじゃん、と先輩はため息をつく。金に染めた髪の毛が、焼けた肌と呼吸をしてる。
僕は自分の髪の毛の真っ黒さを思って、金色に夢を見る。
「なら、無駄なことすんなよ。お前、そんなのするアレじゃねーだろ」
「そんなアレですよ。俺って」
「バーカ。つまんねえ嘘つくな」
「あはは」
僕の空っぽの笑いを受け止めて、真実の目をする先輩は、汚れている僕を汚れたまま見つめている。
鳥が飛んでる。先輩がいる。
アレで、コレで、世界は、僕は、曖昧さが大好きだ。ぼかして、ふやかして、隠して、そのままじっと腐らせる。
でもそんなことは本当はどうでもよくて、僕は、ただ。
「ねえ、先輩」
「あ?」
「俺、雷、苦手なんです。知ってました?」
「・・・初耳」
僕のことを頭がいいと思ってる先輩。
黒い雲から飛び散る光の刃のように、いつも僕を射抜く先輩。
ねえ先輩。頭がいいっていうのは、成績とか、そんなところじゃなくってね。
どれだけ無意識のまんまで、人のこころを壊れるぐらいに揺さぶれるか、なんですよ。知ってました?

リュータ←ハヤト















光の一片


「・・・ナにヲしてル、狐」
「ん。ああ。いや。お早う、パロッ、」
ゴッ、と、音が響いた。
それは鳥が侍の頭を思いきり叩いた音で、実によく、部屋の外の広い空間に響いた。
「僕はな二をシてる、と、聞いテるンだ!」
「痛たた・・・なんだ、鸚鵡は口が武器だろう!ずるいぞ!」
そこは鳥が住んでいる宿屋の鳥の部屋の前で、同時に侍が泊まっている宿屋の中であった。
大きな羽根で殴られる、というよりは、はたかれた格好の侍は、頭を押さえて大げさに怒鳴る。
いつも通りイライラした目を見せる鳥を、まるで挑発でもするように。
「酒臭イ息で武器ガ口もあルか!イつも僕の部屋ノ前で眠りコけテ・・・!」
「いやぁ、今日はお前をちゃんと誘おうと思ってたんだがなぁ。何故か扉の前で、意識がなあ・・・」
「煩イッ!」
それもこれも、日常茶飯事的に侍が鳥の部屋の前で眠っているのが原因だ。
何故か鳥にご執心の侍は、夜毎、鳥を酒に誘ってくる。
まあ、その誘いは無常にもいつも断られてしまうので、近頃はこんな風に嫌がらせじみているのであるが。
「そうカリカリするな。ほら、仕事の時間だ」
「! コのッ・・・!」
「ん?」
「今日は外デ飲め、馬鹿狐!」
「あはは、言うなあ」
ぼん、と吹き抜けの広間の時計がおおきく鳴って、9時を告げた。
鳥が今身をよせている小劇場は10時から開く。もう出ないと間に合わない。
侍は頭を押さえたまま、くい、と指を時計に向けて微笑んでみせる。
瞬間、口ごもった鳥は、侍へ吐き捨てるように叫ぶと、一度部屋へ戻って帽子を引っつかみ、
すぐにそこから出、乱暴にドアを閉めてばたばたと慌しく宿から飛び出していった。
「まったく、忙しない奴だなあ」
「・・・あら。それを焚き付けてるのは貴方じゃなくて?」
「ん。・・・おお、ファニータ殿。朝から煩くして申し訳ない」
それを座りこけたまま見送る侍の頭上から声が降る。その持ち主は宿屋の女主人だ。
長いウェーブの髪を揺らせ、褐色の肌を快活そうにしながらゆるやかに笑う。
気づいたように侍は上を向いて、すまぬな、と屈託なく謝った。
細い目がさらに縮まり、左目の傷がぐにゃりと曲がる。
「本当ね。貴方のしつこさ、アントニオに引けを取らないわよ」
「アッハッハ。彼を持ち出されるとは、拙者も中々昇格致しましたね」
「・・・。アイツと比べられて笑っちゃ駄目よ、イナリさん」
女主人はそれを見つめながら、まぁ頑張って、と言って一階のカウンターへ戻り、銃の手入れを始める。
その様を笑いながらもぼーっと眺めていた侍は、ゆっくり玄関へと目を向けた。
鳥の姿はすでにそこにはなく、閉まったドアの喧しい音でさえ、記憶の彼方へ行ってしまった。
それでも、美しい極彩色と彼の声は、侍の目と耳の中に強く残る。
今日は下で飲んで騒ぐとするか、と大口であくびをして、
とりあえずもう一眠りするべく侍は酒臭い息のまま立ち上がり、彼の夢を見たいと思った。

イナリとパロット、ファニータ















滑稽な話


「まったく不愉快だよ、気に食わないことこの上ない」
「何ィ帳くん、またお気に召さないことでもあるわけー」
いつもどおりの検査の日、あたしは至極どーでもいい声で帳くんに応えた。
帳くんはあたしの力の数値を逐一バカバカしい速度でチェックしながら、
今日55回目ぐらいかと思われる漸くんの話をする。
(心の中では、あたしは淀さんのことをちゃんとハッキリ漸くん、って呼んでいる。
 まあ、実生活の中じゃぐちゃぐちゃ言われるのが面倒だから封印してるけど)
「詩織。君は僕と同様にジョルカエフ殿を愛している筈だな」
「当ったり前のこと聞かないでよ。あたしがなんでこんな面倒な検査毎週受けてると思ってんの。
 この力が衰えたら、ジョル様がお嘆きになるからに決まってるでしょ」
あたしと帳くんは永遠の好敵手であって、最高の理解者であって。
それでもあたしは、このひとをバカとキチガイ以外の言葉で表現することができない。
何度となく交わされてきたもう条約みたいになった確認に目をとがらせて、
何度となく返してきた信念を口にする。
「フン、僕の魅力にジョルカエフ殿は好意を抱いて下さると思うがね」
「・・・じゃあ。何でそんな苛ついてるのよ」
すると帳くんも至極どーでもよさそうな顔であたしに応えた。
なんとなく引っ付いてくる理由。
めんどくさそう、とあたしは思った。
「漸くんだ」
「淀さん?なんであの人が。そりゃ異能は半端だけど、あの力強いよ」
「そういう問題じゃない。一々彼は僕の視界に入りすぎる」
「そりゃ、緑だしね」
「色じゃない!存在がだ、存在が!」
「存在ィ?何それ、どうしようもないじゃん」
漸くんは、3ヶ月ぐらい前にひょっこり現れた異界のオトコだ。
なんとあたし達の敬愛するジョル様と同じ力、「異能」を持っている。
なので当たり前に帳くんに捕まって、今はココで乱暴にうるさく暮らしている。
今は大学をほっつき歩いてるっぽくて、居ないけど。
そしてこの頃、帳くんはジョル様より漸くんの話をよくする。
よく、っていうか、常に、だ。
苛立ちと憤りにちょっとだけノロケを混ぜたようなヘンな顔で、ああ、今日もそう。
「まったくどうしようもないんだよ、詩織!
 漸くんの癖に僕の思考へ無遠慮に入り込んでくるんだ、なんておこがましい!」
「・・・・あ、なんだ。あたし、帳くんはジョル様だけ好きなのかと思ってた。
 あー、なんだ、帳くん、ただのゲイだったのか」
やっぱりめんどくさかった、とあたしはすこし前の自分の考えを褒めたくなった。
帳くんは根っからのオカルトオタクで、ずっとジョル様に心酔している。
ずーっと、ずっと、焦がれてる相手は特別で、ラブラブあいしてる状態になったわけで。
ジョル様は男性だけど、帳くんはちょっと頭が変だし、
あの方限定で「好き」を抱いてるのかな、ってあたしは今まで思っていた。
でも、なんか。
話を聴く限り、この人は、フツーに男が好きなヒトなのかもしんない。
まあそれは、帳くんだし別にいいと思うんだけど。
(この人は他の部分がスゴすぎて、ゲイだからってだけで動じることができないんだ)
「何だとっ、僕はジョルカエフ殿を愛しているんだぞ、詩織といえどその言い方は許さんっ!」
「何怒ってんの帳くん。あたしはただ、帳くんがちゃんと男が好きだってことに納得してんじゃん」
「言い方だっ!何だ、その「だけ」というのはっ!」
「・・・だって。帳くんがそのままで居てくれれば、目の前のうざいライバルが消えてくれると思って」
帳くんはぎゃーぎゃー騒ぐ。
自分の感情を認めたくないみたいな、荒っぽい言動は見慣れてるやつだ。
でもあたしは気にせず、あたしの魂胆を素直に吐いた。
あたしも帳くんも、もうお互いに対して無駄な遠慮はしないようになっている。
だってそうでしょ?
漸くんと帳くんがくっ付いてくれれば、あたしは晴れてジョル様とシアワセになれるんだから。
「その魂胆だッ、詩織!油断も隙もない女だな、君は!」
「え、自覚してんの?何、意味わかんないよ帳くん。そういうのは自分で勝手にやっててよ」
「うるさいっ!詩織!僕はどうすればいいんだ!」
だけど、わけわかんない、ってまま帳くんはあたしに詰め寄る。
・・・ちょっと待ってよ、あたしの陰謀の理解込みで、その態度してるわけ?
やばい。ムカつく。光速であたしはそう思う。
結局こいつは(悪いけどこいつと言わせてもらう)、
自分のサイコーに愚かな恋心とかいうやつに気づいてるのだ、さいっしょから!
あたしは近づいてくる痩せぎすのバカを払いのける。
「なっ、責めるか頼るかどっちかにしてよ!ジョル様はあたしのだから!」
「馬鹿を言うな、僕のものだ!」
「何よっ、とっとと認めて淀さんトコ行ってよバカッ!来るなっ、寄るなっ!」
「その、事実が、許せん!なんだジョルカエフ殿を差し置いて僕の心に土足で上がりこんで!」
「知らないわよっ、アンタのことでしょあたしは関係ないっつーの!」
帳くんは悪びれもせずに「どっちも自分のですアピール」をする。
ふざけんな、とあたしも負けじと暴言を吐く。
漸くんの安易な悪口は知らない間に頭に入りこんでいたようで、
あたしの口からはすらすら台本を読むように帳くんへの悪態が出る。ちょっと気持ちいい。
「おいおいなんだオメー等、外まで声が・・・」
そうやってもみあっていると、寂れたドアがガチャリと開いた。
ふたりしてそっちに目をやれば呆れた蛍光ミドリのホノオ。・・・漸くん。
あたし達は謀ったように同時に息を吸った。
「・・・漸くんっ」
「・・・淀さんっ」
「・・・アァ?」
そして吐き出した声が揃う。
怪訝な漸くんの顔はなんの障害にもならない。あたし達は最大出力で、大声をあげた。
「「お前の所為だー!!!」」

2P淀鴨詩織@バカども


















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