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2×2


その晩、ダースは酷く面倒な仕事を引き受けてしまったと後悔した。
目の前には小さな・・・、14歳前後ほどの年齢をした、幼い少女がひとり居る。
その入れ物から、人でないことはすぐに分かった。
「・・・御前があいつの謂ってた娘っ子かい。此れ又、雪とはなァ・・・」
「・・・・アナタは、誰。炎は・・・怖い」
MZDの依頼で、一日だけ人を預かって欲しいと滅茶苦茶かつ必死な依頼をされたのは今日の話だ。
そして、その数時間後・・・たった先程、MZDはこの少女を連れてきた。
問題などなにも無いと言わんばかりの、いつもどおりの笑顔で。
『明日の朝にゃ帰ってくるよ、こいつは大人しいから何もしないって!』
・・・そんな無責任なことを言っていただろうか。
既に目の前の少女を造り上げている物質が、「何もしない」という前提を裏切っている。
うしろの首筋を触りつつ、こちらを脅えて見やる少女を眺め、ダースは大きくため息をついた。
こんなものは嫌がらせにすらならない。
炎で出来ているような身体に、雪で出来ている身体を引き合わせてどうさせようというのか。
お互い満足に近づくことも出来ないまま、既に10分は経過している。
「・・・で、何の目的で此処まで来たんだい」
「・・・神は、似ている人に、会わせると。それで、抵抗が、ないなら・・・と」
「嗚呼ー・・・さっぱり話が判らんなァ」
感情は、怒りを飛び越して既に呆れと化している。神の節介はいつだって異常の域だ。
少女の話す内容も、ダースに合点のいくものではない。
似ている、と言われても誰に、ということも分からないしその上抵抗、とは更に何の話だ。
「アナタは・・・わたしを、侵そうとしない。炎の人は、みな、そうだと思っていた」
「・・・侵す?何だそりゃア。御前、一体どんな奴に遭ったって謂うんだ?」
彼女が雪を宿していると気付くものは、それ程多くあるまい。
それに少女は、この現世という場所自体に慣れていないようにも思える。
ダースもこの「階」の生き物ではないが、今現在はこの現世で厄介ごとを背負っている。
(まあ、半分は思いの他愉快に過ごしているが)
だから少女が別の人間に出会っており、それが「炎の人」だという偶然に少しばかり驚いた。
それにしても侵すとは。
なんともまあ、大胆であるなとダースは思う。それではまるで、少女を壊したいようではないか。
「最低の、奴。黒い爪の、赤い男。」
「・・・知らんなァ。黒い爪なら目立たん事も無いがねェ」
「何故か、わたしのところへ来る。そして、嗤うの。・・・貴方はわたしを嗤う?」
「否ァ・・・御前の事は如何せん存ぜんしなァ」
上目の少女の姿は苛立ちと悲しみ、そして僅かな迷いと恐れが混じっている。
深い蒼に包まれたその姿。
ダースはかすかに、その「黒い爪」の「炎の人」に興味を抱いた。
・・・が、そうなるとMZDが思い描く通りになりそうな、
独特の嫌な直感が過ぎったので、すぐさま、その考えは頭から振り落とした。
よもや長期にわたってこの少女を預かるようなことになっては敵わない。
ダースは子供というものがおそろしく苦手だ。
「・・・よかった。誰かに嗤われたり、押し付けられたり、罵倒されることは、きらい。」
「其の男は御前の処に来る訳だな。御苦労なこったねェ」
「毎日、来る。ここへ・・・連れてきてもらって、すこし、安心した。ここにはあいつは、来ない」
毎日、と言う少女に、同じ言葉でダースは呟き返す。毎日。
それはもう、単に嗤うだけの目的を超えている・・・ようにも傍からは見える。
少女をまじまじと見つめ、少女の言葉を思い返した。
『似ている』、『抵抗』。そして、そこから考えられ、導き出せること。
「・・・・・」
じわりと、今回の件に対して自分が完全な「道具」と見做されていることに気付き始めたダースは、
そういえば自分も嗤ったり押し付けたり罵倒したり、毎日ここへ来たりして居る、
と、極々当たり前になんとなく、まるで他人事のように思った。

ダース淀&おんなのこ















礼拝と困窮


「お前、おもしろいね。あたしの唄とは正反対だね」
またおかしな客だ、とパロットは至極不愉快にして思った。
1度目の「おかしな客」である、狐を思わせる男は今も度々、
パロットの話を聴きに鬱陶しくやって来ていた。
名前は・・・、イナリなどと言っていただろうか。記憶は曖昧だった。
「・・・・・・」
しかし今、彼の目の前にいるのは女だ。
イナリのように異国の格好を当然のように纏っているやけに派手な女は、
しゃがみ込んだまま彼の方を見、上目遣いでにかりと笑う。
「その話さ、自分で作ったの。不思議だな。お前の色って綺麗なのに、話は気味悪いくらい寒い」
知ったことかとパロットは視線を逸らして話を続ける。
姿形は人の格好をしているが、その匂いから異形の血が混じっている(そう、「混じって」いる)のを、
パロットはなんとなく感じ取っていた。
語られている話は、心臓を潰してくれと懇願する不老不死の男の物語だった。
「お前の心の温度かな?」
覗き込んでくる眼に突拍子のない言葉はこの状況に於いては邪魔者でしかない。
感情へ無遠慮に入り込んでくる芯の通った視線は、
いつもパロットを嘲笑っていた、忌々しい蟲の姫のものと似ていた。
むせ返る憎悪を抑え付けるように、パロットは女に向かって苦々しく吐き捨てる。
「何の血ヲ宿しタかも分かラん娘に、応エる言葉はナいね」
女から漂ってくる匂いは、多種に混じった香りのようで、
どの異種から授かった血であるのか、その判断はつきにくかった。
神聖な物の怪のようにも、月を跳ねる獣のようにも、角を宿す獣のようにも感じられる。
「血、ね。あにさんみたいなこと、お前も言うんだ」
別に心を揺り動かされたわけでもない態度で、女はわざとらしく悲しげな顔をしてパロットへ言葉を返す。
あにさん、という口の動きはどこか鈍く、どこか懐かしみを帯びていた。
だからどうした、と女を睨み付け、パロットはそれを無視して他人事風情に物語を紡ぐ。
男が心から、悲痛な叫びをあげる。『奪ってくれ!』。
「別に、いいけど。お前には関係ないし」
しかし、女はすぐにまた微笑み返した。器用なポ−カーフェイス。
おもむろに立ち上がり、パロットと同じ視線に立つ。
女の言う通り、心の温度も、残酷な想いもこの女には何一つ関係ないとパロットは思う。
一人で生き、一人で成すことこそ彼の悲願だ。
ゆっくりと女は頭上に建つ高い屋根を見やった。その更に上では雲が青い空の中を泳いでいる。
「・・・でもさ、お前はあたしと似てるよ。棄てられた目だね」
その色を黒目の奥に焼き付けながら、呟くように女は言った。
見通す眼。似ている。棄てられた眼。
思わぬ言葉に、パロットは初めて女に興味を持ったように驚いた表情をし、女を見つめた。
「こっちだよ、オウム」
・・・しかし、目の前に女は居ず、予想だにしない方向からその声は飛ぶ。
辺りを捜すように視界を揺らしたパロットは、
視線の右上で有り得ない高さを跳んでいる女が笑って手を振っているのを捉えた。
「ナ・・・!」
「もうちょっと聴きたかったけど。時間ないんだ、バイバイ!」
眼を見開くパロットを尻目に、女はそのまま屋根を足場にして更に高く跳び、そして、見えなくなった。
周囲の人間が遅れてどよめきを上げる。ばけものだ、と叫ぶ声が聞こえた。
「アの女・・・・・・」
僅かに、パロットは理解する。
神に仕える、天狗と呼ばれる物の怪は、時間を、過去を、未来を見通す力があると聞いたことがある。
あの女に流れた血は、その匂いを纏っていたのではないか、と。
だが、既に女は去り、すっかり血の匂いも消えている。それを実証する術はない。
「・・・・・」
『棄てられた』、と女は言った。
パロットは否む。『棄てたのだ』、と脳裏を思う。
ざわめきに身を委ねたまま、苦しく過去を振り返ろうとする己の胸を、パロットは頑なに拒み続けていた。

パロット&鹿ノ子















XXX


「え、・・・嘘。あ・・・いや」
「何を呆けた返事してんだ。手紙を押し付けたのはお前だろう」
暗い洞窟の中で無数のランプを燈し、
今日も今日とて水晶と独り対峙していた筈のカジカはその日、言葉を失った。
迷い人が訪れる以外に決して人が入ることのないその洞窟の中で、
『訪問者』という存在を始めてその目で目撃したのだ。無理も無い話だった。
「え、あ、いや、あれは・・・お、追ってくるなんて」
「ここがお前の根城か。寂しい場所だ」
ぐるぐると、訪問者はそのでっぷりとした黒い巨体を揺らせて、
薄暗いというのにサングラスをかけたまま、辺りをきょろきょろと見回した。
 あんただって寂しいのが好きでしょう。
そうカジカは思って、そんなことを考える自分をバカだと思った。
男が言う、乱暴で曖昧で冷め切った手紙を書いたのは、自棄になっていたからだ。
全てが終わったつもりで、それなのに感情は最後に爆発して、殴りもせずに女々しいやり方をした。
呆気ない別れとは違う、センチメントな手紙をカジカはあの日、男に渡したのだ。
「・・・・」
カジカの思考は止まることを忘れた機械のように、高速で熱を上げている。
あの手紙には「来るなら来て下さい」とか、やけに無様な文章でそんなことをカジカは書いた。
一人きりを愛する男にそんな言葉はまったく無意味だと分かっていたし、
なにより、カジカは自分のことを公にしたところでただ迷惑なだけだとも実感していた。
独りで静かに暮らしている男の元に押しかけてガアガア怒鳴りワアワア喜んだ人間が、
迷惑以外の何者になるだろうか。だからこそ、カジカは男の元を離れたのだ。
それがどうして、と、カジカは思う。
暗がりの中で、男の存在だけがやけに映えている気がした。
「・・・なにも、無いですよ、ここ」
「そうらしいな。お前の故郷がこんな所だとは思わなかった」
その感情を悟られないように、取り繕いながらカジカは呟く。
男の言う通り、カジカはここで暮らしてきた。
以前二度と戻らないと誓って旅に出たので、ここへ戻ってきたのはもう何年ぶりになっていた。
戻ってこないと決めたのに帰ってきたのは、傷心などというこれまた無様な感情のせいだろうか。
無性に、戻りたい気分になったのだ。
ごつごつした岩ばかりが存在する、子宮のような闇の中へ。
「なんで・・・来たんですか。貴方は、あそこに留まっていることが・・・」
「お前が手紙を押し付けたからだ。他に理由は無い」
男は独りで、無骨に生きていた。そう自分を律しているようだった。
そうカジカは思っていた。だからあの手紙が無駄だと心から思えたのだ。
しかし、男はここへ来た。
未だに目の前の訪問者に翻弄されているカジカに対し、強く男は告げる。
まるで、その先を問うことを許さないような、
それが唯一の真実だから構わないだろうと暗喩するような、断固とした口調だった。
 ・・・・そんなら、おれを愛してるんですか。
わずかに苛立つ感情がカジカの中にもたげる。
手紙を押し付けたときと同じように、饐えた寂しさと悔しさがその身体を巡る。
男が、そんな想いを億尾に出さないこともカジカは知っている。
感情という感情を、男は自分自身の力で殺しきってしまっているのだ。
だからこそ、何故ここに来たのかが分からない。
男は信じることにも信じられることにも疲れたと言っていた。
今の男の姿がその証明でもある。黒い豚の姿。それに惚れた自分を、今更ながら変人だとカジカは思う。
「だから、疲れた。ここは辺境過ぎる。泊まらせろ」
「・・・・は?」
だが、その考えは発せられた唐突な提案に途切れた。
暗闇にはめっぽう慣れた目を見張らせて、いきなりその場にどすりと座り込む男を、
カジカは訳の分からない顔で見つめる。呆ける。
泊まらせろ?
意図が分からず、カジカは思わず一歩、歩み寄った。
「今、なんて?」
「ここに来るまでに5日かかった。手紙の理由を聞かせて貰おう」
「・・・・・冗談、でしょう」
男はそれを拒む仕草を見せず、肩を竦めてみせた。
思わず口にしたが、カジカは知っていた。男は冗談など言わないことを。
おもむろに、ズボンのポケットからやけに丁寧に扱っている風体の手紙を男はカジカに差し出す。
真直ぐな視線。
それに、カジカはすぐ捕らえられる。
息を呑んで言葉を待った。間を置かず、男は言った。
まるで真剣なベースの音に似通った、低く真面目な声色で。
「さあ、聞かせてくれ。カジカ」

ファットボーイ&カジカ















天体捜索


「たとえば、」
おれの目の先を追うように、相手は上空を指さした。
「星は何億光年も離れてる。それでも姿を確認することができるんだ」
上をおなじように見あげれば、寒い空のてっぺんで星はどれも自分が一番っていうように空を照らす。
おれは頷いて、ゆっくりと目線を戻した。
「だから、彼女が輝いている限り、必ずまた会えると思う」
にこりと笑う顔。鼻が赤い。寒いからな。
やけにロマンチストな言葉はそのまま、相手ののぼせた性格みたいなもんだと思った。
青い相手の服は、そんな「彼女」の蒼い髪を簡単に連想させる。
いま、彼女は、どこに居るんだろう。
同じガッコの制服を着た彼女は、もうどこにもいないような気がする。なぜだか、よく分からないけど。
「会いたいのか。そんなに」
難しい顔をしてたのか、相手がぼつりとおれに向かって聞いた。
あいまいな姿は、なんだかとりつくろう感じだ。
・・・正直に言うなら、会いたい。
マネジともいまだに、微妙な平行線を辿ったままだ。
彼女の声はへんな魔法みたいなものを持っているようにも思った。
もういちど、彼女の声を、感情を聞けば、覚悟を決められるような気がしていた。
それは、あまりにやらしい理由で、おれはずっと黙っていた。
「青い髪か。青空みたいな色なんだろうな」
すると相手は、のんびりと空を見たまま口にする。
青空。あの淋しげな表情に、きっとそのすがすがしさは似合わないんだろう。
おれは満天の星空にうかぶオリオン座を見つめて、ちいさく息をはいた。

翔&空















手持無沙汰な指先


「早く決めろよー、ハヤタ。いつまでお偉いさん待たせてるんだ?」
「生きるか、死ぬかだぞ。そう簡単に決められるか、っつうの」
適当な部屋でKKに呼ばれて、おれ達はなんだか世間話をしていた。
実際のところそれどころじゃないおれはほどけかけた靴紐を結んでいて、
KKはあっけらかんとしたまま、煙草の煙を吐いた。
背中に貼りつけられてる安っぽいドクロが皺くちゃの上で笑っている。
もう返事をする期限は一週間を過ぎていた。
そろそろどっちかの選択をしないとやばいってのは、さすがに、おれにもわかる。
でもおれは、未だにウジウジと悩んでいた。
遠目であの悪魔を見るたびに背筋がぞくりとする感覚が気味悪く襲ってくることは、
なんだか、あいつがおれを嬉々として殺したがってるように感じてしまうのだ。
「一花咲かせるって豪語してきたのはお前だろ。チャンスなんだぞ、これは」
「わかってる。でも、正直、怖えーよ。おれにはあいつを扱える腕、ねえって」
紐を結び終わって、身体を起こし手袋をはめ直すと、ドクロといっしょにKKも笑っていた。
こいつはなんだかあいつのことを気に入っていて、身体(クルマの方だ)の世話までしてやっている。
KKはここに雇われたフリーの清掃屋だと自分で言っているが、
そのなんか深い目は、それが本業じゃないことを表しているような気がするのは・・・おれの気のせいだろうか。
「RZXは随分お前にご執心みたいだぞ。お前を乗せたくて仕方ないみたいだ」
「だからなんだよ、気に入るとか乗せたいとかって・・・あいつに感情なんかないだろーがよっ」
RZX、というのはあいつの名前だ。
本当は車体の製造コードらしいが、KKはあいつの「愛称」としてあいつをそう呼んでいる。
いつもただ目と口を血走らせて、ガアガアと蛍光の炎を大きくするだけのあいつ。
悪魔って言われているとはいえ、そこに感情とか、そういったものが存在するはずがない。
「どうだかなあ。あいつ、真面目に捜してたんじゃねーか?自分を操ってくれる奴を」
「・・・そんで、お眼鏡に適わなかったやつは死ぬってか。冗談じゃねえや」
KKはよくあいつに乗っている。
といっても運転とかをするわけじゃなく、後部座席のシートに乗り込むだけだ。
おれはどうしても、なんだかあいつに触れる気が起きなくて、
未だにKKの行動を狂気の沙汰としか思えないままでいる。
あいつに自我があるだのと、夢みたいなことを言ってるKKの顔は至って真面目だ。
度胸があるのか、気が狂ってるのか。KKは掴みどころがない。
「そいつは・・・自分の力を上手く扱えてないんだろうなあ。自分で制御できないから、捜してたんだろ」
「・・・何をだよ」
「そりゃあ、お前をだよ。あの笑い顔は、きっとお前を待ってる顔だぞ」
「バカなこと・・・・」
「いやいや、俺はマジだって。一回、乗ってみろよ。運転席」
運転席!
KKの言葉におれは目を見開いて思い切り首を振った。
「ははは、その顔!別にとって喰われるわけじゃないだろうが。
 乗りゃあ少しは分かるんじゃないか。あいつのことが」
おれの態度と表情に、KKはふきだして大笑いする。
あいつのことを分かろうとする気なんて、おれにはこれっぽっちもない。
けれど、どうだろうか。
もし、まかり間違って、おれがあいつに乗ってしまうことになったとき、
おれは今こんなに身体全体で拒んでるあいつに乗り、あいつを操らなければならないのだ。
一度も車体に乗らず、ドライバーが一発勝負で運転するなんてことはありえない。
いや、それもカッコいいのかもしれないが、性格的におれには無理な話だ。
ゆっくりと、今更にKKの話の中身が頭に入ってきた。
もしかしたらKKやおれと同じように「生きている」あいつ。
自分の余りある力を制御できなくて、おれを待ちわびていたあいつ。
・・・本当のことなんて、おれには何ひとつ分からない。
あいつは、ただの、人を死に放る悪魔で、それ以上でも以下でもない。
だからこそ、おれはあいつに乗るか乗らないかを迫られているのだ。そう、この、たった今。
「・・・・」
これまで選択肢になかった矢印。
それは「あいつを理解する」というものなのだろうか。
「どうだよ、ハヤタ。なんなら俺が一緒に乗ってやろうか?」
「・・・それは勘弁してくれ、KK」
そんなことを薄ぼんやり考えていると、ニヤニヤと笑ったまま、KKはひとつの提案をしてくる。
それと同時に、ドライバーとしてのプライドがかすかに首をもたげた。
レースはいつでも独りきりの勝負だ。
他人を乗せたら、そこに積む覚悟も意味のないものになる。
おれは冗談交じりに笑って、ずっと乗っていない車の感覚を思い返しながら手のひらを握った。
RZX。
あいつの名前が、妙な温度で脳みその奥に低く反響していた。

ハヤタ&Mr.KK


















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