魔法の夜#1


女は笑った。限りなく彼女らしい意識の中で、たおやかに笑った。
店の外に巻かれた乱雑なリボンたちは興味を持った第三者の顔つきで、赤く緑の身体を揺らせていた。
「・・・約束。覚えてたのね?」
女の見つめる先には、トレンチコートを身にまとった一人の異形が立ち尽くしている。
その容姿は、聖夜の匂いを日に日に増す夜にはとても似合わない、髑髏の顔だ。
「三年後の聖夜に帰ってくる。少し、早くなったがな。・・・俺が忘れたかと思ったか?」
「そうね。貴方なら、アタシのことなんか忘れるかと思った」
革のケースを片手にぶら下げたまま、髑髏はカタカタと顎の骨を鳴らした。
それと一緒に、隙間風が吹くような低い音色が響く。
女は尚も微笑み、肩をわざとらしくすくめてみせた。そこには一粒の悲哀の色が浮かんでいる。
「俺が、お前を忘れる?」
「貴方が一番大切に想っているものはアタシじゃないもの。だから、忘れていてもおかしくないって」
「・・・・」
震えた冬の空は、あまりに美しく星を照らしている。見上げながら、自分も星になりたいと女は思う。
遠くで鈍く鐘が鳴っている。
どこかの殉教者がこの街で唯一、彼の誕生した日を前祝いしているのだろうか。
聖夜と名付けられる美しい一日はもう指を追って届く距離にあるのに、どうしてこんなに哀しく、虚しいのだろうか。
「いいのよ。アタシは独りでも全然平気。そうやって生きてきたんだもの。
 約束を強請ったのはアタシだけど。・・・アタシのことなんて、忘れていいのよ。だって、貴方は音楽を捨てられやしない」
「・・・ハニー」
「だって、死んでも追い求めているものだもの。アタシなんかが、敵う筈ないじゃない。
 判ってたのよ。貴方がそこまでして願っているものを、アタシの存在が邪魔しちゃダメなのよ」
愛を求め、音を求め、すれ違う感情を互いはあまりに器用に受け止める。
永い生を、数奇な生を、決して望まずに続けてきた互い。
泣きぼくろを歪ませ、女は呟く。
「俺は、帰ってきたんだ。どうしてそんなに、思いつめる必要がある?」
「・・・貴方がここに居るからよ」
「・・・? どういう意味だ?」
「貴方はまだケースを持ってる。それは、まだ貴方が望むに値する音を手に入れていないからよ。
 判るわよ。クリスマスはね、誰もが魔法にかかるの。アタシには判るの。貴方のことなら、何でも」
髑髏は、酷く辛そうに女を見た。女も、酷く辛そうに髑髏を見た。
聖夜に訪れる奇跡は、誰にも均しく訪れる。
幸福な夢。凄惨な魔法。願ってはいない再会。愛の幻。
そのすべての悲喜を悟っているのかのように、女は訪れる聖夜に己を託した。
「だからアタシを捨ててよ、ホーン。貴方が音楽に捧げた人生をアタシが奪うなんて、耐えられないの」
失うべき意味。求める意味。
もう女は泣いた顔を隠さずに、首を振った。
限りなく彼女と遠い意識の中で、ゆるやかに、涙を流した。


ホーン&ハニー















魔法の夜#2


「・・・よお」
「嗚呼、アンタかい。よくアタシがここに居るって分かったね。でも何だい、その帽子は」
紫は可笑しそうに首を傾げた。
店の裏口から現れた侍は、その容姿にまったく似合わない紙の帽子を被っていたからだ。
「馴染みのウチに寄ったら、バカ騒ぎで被らされた。取るのも面倒でな、そのまんまだ」
「よく似合ってるよ。如何して表から来なかったんだい?」
「お前の兄貴が泣いてたからだよ、突っ立って」
「・・・へェ」
帽子がずれないように顎に引っかかっていたゴムを外し、侍はカウンターへそれを置く。
馴染みのウチ、がどこなのか紫には判らなかったが、乱れた髪を見ると随分乱暴にされたのだろう。
口元を引き上げて、クリスマスには似合わないお猪口を弄れば、侍は紫の横にどかりと座る。
「兄貴、どうしたんだ」
「さァね。話かったら姉さんから話してくるさ。アンタはどうだい?最近はさ」
「北で、俺に心酔してる、とかいう坊主に会った。偏屈だが中々面白かったな。他は別に」
「嗚呼。一京かい」
「・・・ハァ?何で知ってんだ、お前」
「アンタの居場所をあの子に教えたのがアタシだから」
「ハァッ?何で」
「あの子が尋ねてきたから。『六さんとお知り合いだとお聞きした、何処へ行ったか存じますか』。
 丁寧な物腰だったねェ、アンタの書を好んでるのが不思議な位だったよ」
思わぬ紫の陽動に、ムスリと侍は腕を組む。
まァまァ、とそんな様子を嗜めながら、もうひとつお猪口を取り出して、紫は日本酒を注いだ。
クリスマスの赤と緑に支配された内装とは一線を臥すその風景。
「お前はどうなんだよ。相変わらず唄ってんのか」
「最近はこっちに居る事が多いよ。漣も立たない位、平穏さ。アンタみたいな猫が居ないと」
「飼ってもねェ癖に随分言うよな」
「お互い、コレ位が一番良いだろ?気楽で、気ままに。心地いいよ、アタシはね」
侍は手を伸ばし、日本酒を飲んだ。
紫はくるくるとお猪口の中身を揺らし、柔らかく息を吐きだした。
ぐるりと煩雑に華やかな周囲を見渡して、侍は日本酒を一気に呷る。
「そうだな。こうやって会うのは、悪くねェ」
「だろう?クリスマスにアンタが此処へ来るんだ、全然悪くないじゃないか」
その、相変わらずな向こう見ずの酒豪っぷりに紫は楽しそうな笑い声をあげる。
侍が外した帽子を視線にまで持ち上げて、粗方眺めまわしたあとゆっくりとそれを被る様子は本当に愉しそうだ。
「行事ごと、ってのも良いモンだな」
「嗚呼、そうだよ。メリークリスマス、六。今日は思う存分飲みな、ちゃんと酌してあげるよ」
「珍しいな。派手なのは好かねェが、お前の酌があるなら別だ」
「そうかい?嬉しいねェ。もっと煽てておくれよ。魔法みたいにさ」
紫は丁寧に侍のお猪口へ日本酒を注ぐ。紡ぐ言葉はなめらかだ。
侍も心地よさそうに酒を飲む。聖夜にはまったく以て似つかわしくない、和装の二人。
それでもそれに託けた再会は互いに爽やかな香りを残し、この前夜たちを朗らかに祝っていた。


紫&六















魔法の夜#3



「パル」
「あっ、お兄ちゃん。何ウパ?」
少々困ったように、マコトはサイバーの部屋を着々と飾り付けているパルに尋ねた。
チャイムも鳴らさずドアを開けて、どやどやと家に入り込もうとする来訪者を入れるか否か、の判断に困ったためだ。
椅子に乗り、折り紙で作ったおなじみのモールを壁一面に貼りつけていたパルは、マコトの声に忙しなく振り向く。
「お客さん、なんだが・・・アレ、入れてもいいのか?」
「ニンジャと被り物の集団ウパ?」
「・・・そう。スッゲー、怪しい。今、玄関で止めてるけど」
「入れていいウパ、パルが呼んだウパ。こっちに通して欲しいウパ」
とん、と椅子から降りてパルは来客をここへ来させるよう促しながら、星型の飾りを辺りに散らす。
への字に曲げた眉のままマコトは苦笑いすると、超個性的なメンツで組まれた来客を通すため、サイバーの部屋を出た。
「いらっしゃーい、ウパ!」
その数分後、パルの陽気な声が部屋のまわりを包んだ。
パルの周囲にはカラフルな格好に身を包んだ面々がそわそわとした様子で宇宙人を見つめている。
「皆を呼んだのは他でもないウパ、サイバーにサプライズクリスマスパーティーを仕掛けるためウパ!」
「どーせサイバー、独りだろうし。ウンウン、拙者達がどうにかせんといかんでござる」
「そうウパ。あんな孤独なオトコ、他に居ないウパ。サイバーを慰める会ウパ」
「ホンットにアイツはどーしてああ、カワイソウなヤツなんでござるかねェ・・・」
「まったくウパ。ヨシオは全然ヒトのこと言えないけど、今はとりあえずサイバーウパ」
腕を組み、しきりに頷いているのはヨシオだ。
クリスマスなので赤のジャージを着る、という安易なことをしない程度のプライドは保っているらしい。
このメンツで最もサイバーの家に入り浸っている実績は伊達ではないようで、彼に対しての発言にも遠慮がない。
「つってもアレだろ?サプライズってどうすんだよ」
「サイバーは意地っぱりウパ。とりあえずドンチャンやって引き込んでノリに任せるウパ」
「ソレってサプライズでもなんでもねーんじゃね?」
「・・・異議は認めないウパ」
ハッキリとした口調でずばずばと質問するのはおとこマンだった。
マスクに描かれた珍妙な顔のまま、パルに向かってストレートにぶつかっていく。
「でもドンチャン騒ぎってどうすんでしょう?御近所迷惑じゃ〜・・・」
「クリスマスにドンチャンしないウチなんて無いウパ。しないウチはバカウパ」
「ば、バカ・・・って、ま、まあ、いいですけど〜、良いなら〜・・・」
「・・・なワケで、残りの飾りつけ、手伝って欲しいウパ」
「「「あ〜い」」」
最後に弱々しく質問したのはチョッパーだった。確かにこのメンバーが騒いだらドンチャンどころでは済まない。
それを知っている故にチョッパーはその後を危惧したのであるが、パルは気にせずそれを一蹴し、手伝いを申し出る。
思いの外、パルは毒舌で手厳しい。
甘え症でワガママなサイバーを日々相手にしているせいなのだろうか、とチョッパーは思った。
「あ〜、それはそっちウパ」
「ん〜?コレ、ハマんねェぞコノ」
「ギャーッ!こ、コレは拙者の探し求めていたギャンブラーZのプレミアフィギュア!パル!く、くれでござる!!」
「サイバーに聞くウパこのスットコドッコイ。手、動かすウパ」
「これはどこですかね〜?」
「アッチウパよ、ウサギさん」
「ウサギさん・・・」
たっぷりと1時間ほど、飾り付けはかかった。
途中話のネタにならないほどのアクシデントは多々あったが、無事、部屋はクリスマスの様相を帯びていた。
全員が息をついて無駄にクリスマスな和室で疲れを癒していると、フスマが開く。
「お〜い、予約入れてたバーレル、取ってきてやったぞ〜。感謝しろ」
そこには、大量の袋を抱えたマコトが立っていた。
パルが居間に置き忘れていた予約票を見て、気を利かせて代わりにお店へ行ってくれたのだ。
マコトが片手で掲げているのは、クリスマスが今年もやってくるのでパジャマを脱いで出かけよう、
でお馴染みのチキンバケツで、暖かいそこからはいい匂いが漂ってくる。
「うわっ、お、お兄ちゃん、アリガトウウパ!やっぱりお兄ちゃんはこのウチで一番クウキが読めるヒトウパ!!!」
「いや、空気て」
「どうなんですか、それ〜」
パルが抱きつかんばかりにマコトへ感謝を並べると、すかさずおとこマンとチョッパーが突っ込みを返した。
マコトは相変わらず苦笑いを浮かべて、パルに袋を手渡す。
この季節、そこかしこに溢れるおじいちゃんはサンタの帽子を被り、満足げに微笑んでいる。
「うわっ、肉!せ、拙者肉食べんの何ヶ月振りだ!?ウワーッ、パル、やるでござるな!」
「・・・ついでに菓子とかジュースとかも買っといたから。適当につまんで食ってくれ」
「お、お兄ちゃん・・・パルはチキュウで一番最初に泣くウチュウジンになりそうウパ・・・」
「いやいやいや」
「ソレ、泣いてから言った方がいいですよ〜」
ことごとくツッコみ、ことごとく無視し、この状況で一番虚しいのは狂喜をスル―されたヨシオだろうか。
本人はまったく気にせず、畳に置かれたバケツに対し勝手なリアクションを決めている。
パルはもう一度大きくアリガトウ、と言うと、袋の中身を確かめに掛かった。
おとこマンとチョッパーもそれに続いてコップを取ってくるだの器を取ってくるのだのと言っている。
んじゃそういうことで、と部屋を出ていこうとしたマコトにヨシオがようやく気付き、
バーレル缶から離れてマコトに軽く頭を下げる。
「いや。ホンット、アリガトウございますマコトさん」
「あ。や。いいっすよ。弟がいつも世話になってるし。ヨシオさんも、えー、大変みたいだし」
「やっ、拙者は!好きでやってんで、アレですけども。いつもサイバーとバカやってるんで、悪いと思ってんです」
「あー。確かにアイツはバカですが。・・・ま、バカでまっすぐだから憎めないんですけどね」
「そーでござる、バカなヤツほど可愛いってああいうののコトですよ」
あはは、と自然に二人は笑った。パルがその様を見やり、鋭くヨシオを呼ぶ。
「ヨシオっ!何やってるウパ、早く手伝うウパ!」
「っと。あ。じゃ、そゆことでござる」
「はい。んじゃ、そういうことで。・・・ええと。ござる。」
互いに会釈をすると、ヨシオは手伝いに走りマコトは今日貰うプレゼントの事を考えて渋く笑い、自室へ戻った。
あと30分もしないうちにサイバーは帰ってくるだろう。
もしかしたらこの部屋にいるメンツを訪ねて、予期せぬ客も来るかもしれない。
大量のポテトチップスとコーラの波をかき分けながら、パルはバカでヒーローオタクな相棒の帰りを待った。
今か今かと、心底楽しげな表情で、この日を彼らと祝うために、
今日に魔法が掛からないとまだ信じているサイバーの帰りを、心から待った。


パル&マコト、ヨシオおとこマンジョン・A・チョッパー















魔法の夜#4


「ピ・ポ〜♪」
「あれ?・・・ケリー?」
その日、独りきりのクリスマスを両手に持て余したまま、自宅へ帰ろうととぼとぼ歩いていたサイバーは、
子ども用の甘いシャンパンを片手にくるくると道端で踊っている要注意人物を発見した。
訝しくサングラスをいじって見ると、その容姿はどこからどう見ても、この地球を侵略しに来た怠け者の宇宙人の姿だった。
「ワオッ、サイバー!久しぶり、ピポ!」
「お前・・・何、ソレで酔ってんの?」
「チキュウはホントーウに美味しいものでいっぱいピポね、サイバー!」
宇宙人、とどのつまりケリーは、パルを通じて顔なじみのサイバーに馴れ馴れしく近寄り、赤い顔で顔を綻ばせる。
オマケに頭にはサンタの帽子をかぶっており、そのどうしようもないノリっぷりにサイバーは呆れた様子でため息をついた。
「どーでもいーって。おれはムナしいクリスマスをこれから家で過ごすのよ」
「パルちゃんが居ればタノシイピポよ?ワタシはクリスマスでもアゲハと追いかけっこピポ!」
サイバーの嘆息を聞くなり、ケリーも大げさに肩を落としてやれやれ、と首を振った。
アゲハというのはケリーに心酔している彼女の部下の名前だ。
ケリーと同じく、地球侵略の命を受けている。
・・・しかししていることと言えば、任務を忘れて地球の娯楽を謳歌するケリーを追い回すばかり。
要するに、アゲハもケリーに負けないほどの怠け者、というわけだ。
ちょうど電灯の真下でガックリと項垂れるケリーは、舞台上の役者のようにも見える。
「まだそんなコトやってんの、お前ら」
「やってるー、ピポ。正直ケリーもウンザリピポ。でもあの子の執念はハンパない、ピポ」
「じゃあさー、もう姿、見せてやれって。そうすりゃアンシン・・・」
「出来ないピポっ!アゲハが居たら、ワタシのスター・ウォーズコレクションはソッコー廃棄、ピポ!」
「あー」
サイバーは呆れながらも、ケリーの言動に自分と似たものを感じて曖昧に頷いてみせる。
ヒーローオタクとSFオタクの差は大きいが、根本の思いは同じだ。
冬は日が落ちるのも早く、まだ5時前だというのに空は紫色の中にいる。
「でもクリスマスだから今日はもう逃げないピポ。UFOに戻ってケーキ食べるピポ」
「クリスマスクリスマスってうっせーな。宇宙人が祝うな!」
「チッチッチ。甘いピポよ、サイバー。ニホンの行事ブンカへの貪欲さは、ダテじゃないピポ」
「ナンじゃソレ。・・・どういう意味?」
「この国に生まれてキミは幸せだ、って意味ピポ、サイバー!オマケにそんな行事ズキがウチにもいるピポ、羨ましいピポ」
「・・・?」
「早く、ウチへ帰ってあげるピポ!」
ケリーはどんどんとサイバーの肩をはたく。
いていて、と呟きながら、サイバーはまったく腑に落ちない顔をする。
得意げなケリーの言葉の何一つが、サイバーには理解できなかったからだ。
それでも「羨ましい」という単語がなぜか心に残っていく。ケリーはにこやかに笑っている。
サイバーはふと空を見た。今日は雪は降らない。ホワイトクリスマスは今年もお預けだ。
「・・・おい、なー、ケリー」
「ン?何ピポ?」
「昔、本で「クリスマスには魔法がかかる」って書いてあった。お前、ソレ信じる?」
「・・・」
「なー、ケリー。どうだよ」
「・・・サイバー、それはサイバー次第だと思うピポ。サイバーが信じれば、そのスベテは魔法になるピポ」
赤ら顔で微笑んで、ケリーはもう一度バンバン、とサイバーの肩を叩いた。
それでも、その力は先程よりよほど優しく、余程慈しみに満ちていた。
互いにゆるゆる歩きながら、サイバーはケリーを見る。
「ウーン。そういうモン?」
「ソーユーもん、ピポ。どっかのウタで言ってたピポ、「大事なことはきっと案外単純」、そんなモンピポ!」
近所の酔狂がとりつけたイルミネーションがピカピカと路地を彩っている。
こんなのもクリスマスの魔法に入るんだろか、とサイバーは思った。
ケリーは相変わらず今現在の行事を心底楽しんでいる様子だ。
軽やかなステップは途切れることなく続いていく。
まるで、魔法使いがこの夜を祝うべく、幸福な魔法を街へかけているように。


サイバー&ケリー















魔法の夜#5


「うー」
真昼間から、アゲハは至極不機嫌な面持ちで歩いていた。
それはもちろん、彼女がもっとも愛する人が隣に居ないのが原因だろう。
確かに今日は地球に居る筈だ、そう確信を持って朝からあちこちを探したものの、結局「お姉さま」の姿を見つけることは出来なかった。
「・・・ン」
ほぼ1日飛び回りつづけ、アゲハは疲れていた。
だから適当に見つけた草原で、散歩でもして気分転換でもしようかとここへ降りてきたのだが、
・・・こちらへやってくる人影に気づき、しかめっ面のまま、アゲハは目を細めた。
「・・・ヒト、かな、アレは」
アゲハのどうということのないひとり言は風に溶ける。
ひとり言の通り、確かにそれは人のようだった。青空にオレンジ色の髪の毛が映えている。女性のようだ。
「あ。おーい、こんにちはーっ」
女性もアゲハに気付いたのか、満面の笑みでおおきく手を振ってざくざく走ってくる。
2本ツノが生えた帽子。青いスリップみたいなワンピースに、ぼこぼこのダウンを羽織っている。
そのラフな格好は旅人、といった風体だ。遠慮のない人懐っこさもそれらしい。
「こんなとこにヒトリ?どうしたの、あなたも旅!?」
「いや、・・・違うけど」
「じゃあ、何?ココ、何にもないし。あ、あたしはサニー!ヨロシクね!」
「・・・あ、あたしは、アゲハ。よろしく」
急き切ってアゲハの前まで来た女性は元気よく跳ねた声で、自分をサニーと名乗る。
『地球人と仲良くするまじ』とミョーな持論を持っているアゲハは一瞬たじろぐものの、
(それは彼女のお姉さまが変ちくりんな格好をしたオトコと仲良くしているのを見たからである)
そのあっけらかんとした笑顔には勝てなかったのか、上ずった声で自らの名前を告げる。
「アゲハ!そんなカッコで寒くないの!?もうクリスマスだっていうのにさ、風邪引いちゃうよ?」
「ココにはちょっと降りただけ。あたし、ヒトを探してんの。だから・・・」
「ヒト?探してる?・・・あたしと同じじゃない!」
「おわっ!」
サニーは、おもむろにガシッ、とアゲハの両手をとり、ぎゅっと握った。
アゲハは思わず女性らしくない声を上げてサニーを困惑のマナコで見つめるが、その瞳は輝いている。
「あたしも探してるの。お兄ちゃん。世界中を飛び回ってるんだけど、まだ見つからなくて」
「あんたも?」
「そ。もう4、5年かな。ちょっとバカみたいだよね!」
自分と同じように人を探している、というサニーに、アゲハは興味を持った。
いきなりゴメンね、とようやくアゲハの手を放したサニーはケタケタと笑って、その場に座る。
「ね、時間あるなら話さない?アナタ、面白そうな話たくさん知ってそう」
それはおもむろな誘いだったが、アゲハは促されるままそこに座り、彼女と共にしばらく話した。
サニーは話し上手で聞き上手だった。
アゲハが自らを宇宙人だと言ってもお姉さまのことを好きだと言っても驚かずに話を聞き、
サニー自身もこれまでの旅で見たもの、聴いたもの、感じたものを躊躇いなく、楽しげに話した。
宇宙にいる友人、自分の想い、これまでの風景。さまざまなことをたくさん語った。
「ね、アゲハ。もうすぐ地球はクリスマスなの。知ってる?クリスマス」
「知ってる。お姉さまも地球の行事に目がないから」
「見て、コレ」
「・・・? 何これ」
「クリスマスにはプレゼントを渡すんだ。お兄ちゃん用に作ったの。でも今年もダメそうだから、アゲハにあげる」
バックパックから何かを取り出したサニーは、身を乗り出してアゲハに手を開けるように顎をしゃくる。
アゲハが手を開くと、サニーはそこに一枚の紙を落とす。
押し花を葉書に貼ったようなものだった。
「その花、お兄ちゃんの好きな花なの。春の花だから押し花にしてさー。キレイでしょ」
「うん。こんな色、見たことないや。サニーが作ったんだ」
「そっ。あたしが持っててもしょうがないし、アゲハもらってよ。メリークリスマス」
春の花、サニーの兄が好きな花。その花の名前をアゲハは知らなかった。
知らないけれど、とても美しい色だと思った。
地球にある色がどれも綺麗なことに、アゲハは地球に訪れた当初、いちいち驚いていたものだった。
葉書は赤と緑の草が添えてあって、英語で「メリークリスマス」と書いてある。
「じゃあ、あたしも、あげる。やっぱアカとかミドリがいいのかな、コレ」
「・・・わっ、何これッ、すごい」
「惑星のカケラ。夜になると光るの。綺麗だよ」
アゲハはポケットから3センチほどの石を取り出した。醒めるように紅い色をしている。
鉱石を含んでいるのか、キラキラと光を反射している。受け取ったサニーはすぐ太陽にそれをかざして目を細めた。
「すっごーい。こんなの、初めて見た。宇宙のモノなんだ」
「うん。あたしの星からね、その惑星、よく見えんの。昔お姉さまと散歩したから、持ってたんだ」
「・・・いいの?もらっちゃって」
「いいよ。ええと、なんだっけ」
「メリークリスマス?」
「あ、そう、ソレ。メリークリスマス」
はにかんで、アゲハは地球の行事に自分の気持ちを託す。
それを見てサニーもアリガトウ、と言う。午後も半ばを過ぎて夕暮れじみた太陽は、少し滲んで溶けている。
「会えるといいね、ケリーさんに」
「ウン。サニーも、お兄ちゃんに会えるといいね」
互いのプレゼントを見つめ、どちらともなく互いは呟いた。
同じように愛する人を探し、同じようにすばらしい再会を願う。そこに魔法のような奇跡を望む心はない。
「あ、光ってきた、スッゴーイ」
「ね。キレイでしょ」
紫と青を帯びてきた空に、サニーの持っていた石が輝き始める。
「魔法みたい。アゲハがケリーさんに会えますように」
「何それ?」
「んーっ、おまじない?」
流れ星のようにそれを上から下に振って、サニーは笑った。
アゲハは流れ星にお祈りをする、という慣習を知らなかったが、サニーの仕草が面白かったので笑った。
冷めた空気は二人の頬を撫でて、鮮やかに石を照らしている。
この出会いを聖夜の導にするように、それは何よりも気高く、尊い光に見えた。


アゲハ&サニー















魔法の夜#6


「おい、フラワー」
「ンー?・・・なんだい、ん、ああ」
「もう昼だぜ」
「ええ、本当かい?」
「太陽を見たらどうだよ?ほら、西に舵が向いてる」
そう言われて、んーっ、とフラワーは起き上がって伸びをした。あくびをひとつ。けだるい、午後の日。
「良く寝たなァ」
「んー、んん。あー、そうだね。世間はクリスマス、だね」
「そうだな。赤と緑の博覧会」
「目に眩しいなあ。・・・んー、よ、っと」
会話の相手はここらをうろついている内に仲良くなった獣人だ。唄うたいのブロンド。
まだ寝ぼけている目をこすって、フラワーは辺りをキョロキョロと見回した。
ここは公園のベンチで、随分質素な昼寝の場所だ。それでもクリスマスの空気に浸るには十分だった。
「今日はどうすんだい。また寒空で野宿か?」
「そうだなあ。サニーに会えるように、ちゃんと野宿かな」
「妹かァ。会えそうかね、そろそろ?」
「僕が望み、彼女が望むなら。ふぁ〜あ、クリスマスでも、眠いものは、眠いね」
「お前は寝てばっかだなぁ。ちっとはこの空気に酔ったらどうだ?」
「ん〜、僕に行事ごとは似合わないよ」
「・・・んー。確かに」
ぱらぱらとクリスマスに似合わないオカルト本に視線をおとしたまま、獣人はそっけない態度で会話を続ける。
何度もフラワーはあくびをしている。まだ眠気が落ちないらしい。
「クリスマス、かぁ。Dは誰かに会うのかい?」
「俺?いや、特に。バンドのメンバーで、飲むか、一人か。どっちかだな」
「へぇ」
「お前は?」
「僕?クリスマスには、発とうかな」
「他の街か?」
「ううん、そろそろ、違う国とかに行くつもりだよ。アジアとか」
「じゃあ遠くだな」
「そう、遠く。あったかいところに行きたいなあ」
ここで吐く息は白い。二人とも厚着で、冬空の昼寝と読書と会話を謳歌、している。
公園の中央ではまだ光っていないクリスマス・ツリーがおおきく鎮座していた。
ちょっと陳腐だな、と獣人は思う。ページをめくる。
「旅って楽しいか?」
「うん。すごく楽しい。それに生きることを正しいことだと素直に受け止められるから、とても楽だよ」
「へぇ」
「僕の中ではそういう意識になれることが、旅をしてて一番大切なことかもしれない。
 人と出会ったり、そこでしか見れないものを見たりすることも、もちろん素晴らしいと思うけど」
「・・・なるほどなァ。意外だ。てっきり後者の理由がメインかと」
「僕の場合は、だよ。でもここのクリスマスだって素敵だ、あんなに大きなツリー、僕ははじめて見た」
「それだけがこの街の自慢だよ。俺はもう、見慣れちまったな」
「『ヒトは奇跡を見すぎると、ソレを当たり前だと認識してしまう』、だね」
「何だ、その呪文みたいな科白」
「どんなにスゴいことでも、ずっと見てれば慣れてしまうだろ?Dにとってのツリー。僕にとっての旅。そういうことかなって」
ページをめくる手を獣人は止めた。フラワーはツリーを見ている。
「人は慣れるさ。それは悪いことじゃない」
「でもいいことばかりでもない。奇跡や魔法は、いつだって特別なものであるべきだと僕は思う」
「・・・ウーン。・・・俺、お前に諌められてる?」
「ううん、いや。僕が言いたいことを言っただけ。あ〜、うん、んっ」
もう一度フラワーは伸びをした。獣人はそれを見て、つられるようにあくびをした。
「行く?」
「もう少しここにいる。あれが光るまで待っていたいんだ」
「じゃ、俺も、待ってる。あれ光ってるところ、今年俺まだ見たことないんだ」
「僕と同じじゃない。君との共通点、はじめてかなぁ」
「そうだったか?」
肩をすくめて、獣人はお待たせしてすみません、というような仕草を見せる。
フラワーはその冗談を満足そうに笑顔で受け取って、きちんとベンチに腰かけた。
寒い灰色の空に、オレンジとブロンドの髪が揺れていた。


フラワー&ホット・D















魔法の夜#7


「・・・・」
目の前の男を無視をすることが思いの外困難なことに鴨川は気付いた。
ようやく手に入れた海外の文献を眺めていても、その姿がどうしても視界に入ってくる。
ソファーの前で四角い箱に赤と緑のリボンをぐるぐると巻きつけて弄んでいる様子はどう見ても明日の為のものだ。
受付の横に飾られていた偽物の樅の木を思い浮かべながら、やはりこの行事は自分に似合わないものだと鴨川は実感する。
「蝶々結び、ってのは、如何も芸が無い、と謂うか・・・」
そんな鴨川の視線に気付くことなく、妙に真剣なダースは四角い箱と格闘して独り言を呟いている。
片手に箱を持ち、目の高さに持ち上げては訝しく顔を顰める格好はラッピングにでも悩んでいるのだろうか。
蝶々結び、という単語に鴨川は気を取られ、手にしたペンで無意識にリボンの形を書く。
「・・・・・」
それに気付いて鴨川が思いきり不愉快そうな顔をすれば、ダースも大げさにため息をついた。
もうお手上げだ、と言わんばかりに首を振り、ソファーから立ち上がる。
「・・・学者様ァ」
リボンを片手に鴨川の机へずかずかと近付いて、ダースは疲れたような嘆くような声をそこに落とした。
いきなり声を掛けられた鴨川は、自分が描いた不格好なリボンの絵を咄嗟にぐしゃぐしゃと線でかき消す。
少々焦った顔つきで視線を上げれば、額に手を当てて困憊した様子のダースが飛び込んでくる。
・・・思えば、今日、初めて声を掛けられた気がする、と鴨川は思う。
それは実際その通りで、ダースは朝から(もしかしたら昨夜から)ここに居たにもかかわらず、リボンと箱と睨み合いをしていたのだ。
似合わない憔悴。似合わない西洋のリボン。似合わない誰かへの、贈り物。
鴨川は箱とダースとを交互に見、胸の底にわだかまった間抜けな感情を飲み込んだ。
「何だ?」
「限界です。流石にあたしでも、もう無理です」
「・・・その箱か。クリスマスのプレゼントとは、お前も気が触れたものだ」
「一丁今回ばかりは、と思ったんですがねェ・・・明日にゃ間に合いそうにも有りません」
「私にそれを言って、どうする。私はお前より器用じゃないし、ラッピングなどしたこともない」
努めて正常な音色を保ち、鴨川は呟く。
ダースはいつもと同じようにおどける仕草で嗤って、リボンを指に巻き付けた。
確かに、周知の事実として、鴨川よりダースの方が細かい作業に慣れている。小器用なのだ。
「・・・唯の紐の癖になァ、如何して斯う扱い難いのか・・・、嗚呼、アンタと似てますねェ、そう謂えば」
「貴様は・・・、ラッピング程度ならここでなくても出来るだろう」
「否、此処じゃ無いといけません。色々面倒なんです、手間が余計に掛かる」
「・・・? なら、黙って、やれ。クリスマスだろうが何だろうが、私は仕事だ」
両手でリボンを伸ばしたダースは、鴨川を見て妙に納得するような表情を見せるが、
造作なくそれに苛立つ鴨川を感じ取ると、がりがりと参った格好で首筋を掻き、言い訳のように口にする。
その言葉は、鴨川にとってはまったく意味不明だ。
ここがそんなに作業場として適切なのか。それともまだ鴨川のアドバイスを請いたいのか。
他の場所に行ってくれれば胸の凝りは消えるものを、と忌々しく鴨川は思いながら、ソファーを鋭く指差した。
「・・・」
沈黙の中、苦い顔つきでダースはすごすごと大人しくソファーに戻った。
その後数時間の間、互いは互いの仕事・作業に終始することになる。
しかし、互いにその速度は遅々としており、まったくと言っていいほど進んでいない。
既に空は藍の色を帯びている。長丁場にも程があった。
ダースはいい加減に痺れを切らしたのか、かけて、ほどいて、ぐちゃぐちゃになったリボンを両手で乱暴に丸める。
「嗚呼、ったく!時間が無いんだ、こっちは!」
「・・・・、お、驚かせるな、お前」
降ってきた天災のような大声に、鴨川はびくりと身体を震わせる。
半日掛かってもまだ3分の1ほどしか進めていない文献は、ろくに頭に入っていない。
「学者様」
「な、何だ」
「あたしは限界です。さっきも謂いました。ええ、限界なんです。明日迄後何時間ですか。もう無理です」
先程のように立ち上がり、片手にリボン、片手に箱を持ったダースは心底苛立ったように鴨川の机に進んだ。
そして鴨川の机にダン、と大きな音を立てて箱を置く。
「・・・・、ダース?」
「あたしだって見てくれを好くしたい程度の見栄は有ります。でももう時間が無いんですよ」
「は・・・?だからさっきから何言ってるんだ、お前?」
「もうアンタに赦して貰う他無いでしょうが。御願いします」
「・・・何だそれは。丁寧に要求してきて、何だ?新手の嫌がらせか?あてつけか?」
「は?嫌がらせ?当て付け?アンタこそ何の話です」
懇願するようなダースの態度に、間誤つく感情を抱えていた鴨川もさすがに言い返したい気分になったようだった。
意味がわかりません、と全身で表わすダースに、同じく立ち上がってまくし立てる。
「私に頼む意味がないだろう!それ程大切な贈り物なら然るべき場所で然るべき相手にとっとと渡して来い、馬鹿が!」
「・・・はァ?」
「時間が無いなら無いで無様に言い訳でもして質素な包装を許してもらえばどうだ!
 そもそも贈り物ぐらいそのまま贈ればいいんだ、要は気持ちだろうが!」
「あの」
「何だ!」
「あー、・・・アンタの仰りたい事は、はい、ええ、あの、判りました」
「じゃあ行け!早く行って間抜けなクリスマスを・・・、わっ、うわっ!」
次から次へと飽きもせず告げる鴨川の言動でようやく何かに気付いたダースは、
ゆっくりと箱から手を放し、リボンを両手で持って弛まないようにピンと張り、鴨川の首に素早く引っかけて手前に強く力をかけた。
思わぬ衝撃に、ぐっ、と鴨川の身体は首を支点に前のめる。大声も上がる。
辛うじて倒れる前に鴨川は机に両手をついたものの、顔を上げると目の前には先程よりよほど距離の近くなったダースの顔があった。
「・・・「要は気持ち」、って事は、此の箱で赦して頂ける、と」
「は・・・?だ、からお前、何、」
「全く・・・、漸く安心しましたよ」
「ダー、・・・、!」
近い距離の呼吸はより近い距離を誘う。
ダースは自分のペースをここでやっと取り戻したかのように、困惑する鴨川との数センチの空白を埋めた。
鴨川に抵抗という抵抗がまったく存在しないのは、その行為に対する驚きが拒否を上回っていたからだろう。
しばらくしてダースは鴨川を自由にする。鴨川はまだ茫然としている様子だ。
「然し・・・此の分じゃ、アンタからの気持ちは期待出来・・・、嗚呼、そうだ」
「・・・あ、・・・え?」
箱によほどの物を詰めたのか、残念そうにダースは目を細めたが、手にしていたリボンに気が付くと、
愉しそうに唇を舐めて、机に体重をかけたままの鴨川の首にリボンを結んで蝶々結びにする。
「アンタ自身を貰います。余ったリボンにしちゃ、上出来だ」
「・・・は?え?何だと?・・・ダース?」
綺麗に結べた、と、満足げにダースは微笑む。
鴨川はなんとか意識をふるい立たせ、今現在の状況を理解しようととりあえず首元に手をやった。
細い指先に、サテンのつるりとした感触が触れる。
それは先程鴨川が描いたあのリボンのように、いびつで頼りなく、しかし確かな感情が、こもっていた。


淀×鴨川















魔法の夜#8


「あらま神さま可愛い帽子。今年もホワイトクリスマスにしてくれないの?」
「暖冬だからそれに乗ったよ。あったかいクリスマスもアリだろ。メリークリスマスミミ。ニャミは?」
「ちょっと出てるけど、すぐ帰ってくるよ。メリークリスマス、神」
「ならいいや、はいどーぞ」
「おっ。なになに、プレゼント?わー、キレー。ちゃんと緑と赤のリボンだ」
「せがまれて用意してやったのが余ったから使ってみた。なかなかやるだろ」
「うん、すごいクリスマスっぽくて素敵。あ、ニャミちゃん帰ってきた、ニャミちゃーん」
「あっ神どーしたの、わおっ、何これすごい綺麗じゃん!クリスマス!?」
「メリークリスマス、ニャミ」
「メリークリスマス神!さっすがこういうサプライズは手慣れてるよね。帽子もステキっす」
「ね、開けていい?」
「いいよ」
「んっ、やった!」
「驚くぜー、いやー、俺さま的に最高のプレゼントだと思うのよ」
「・・・おー。おー・・・、・・・ゴールデンチケット?」
「えっ、まさかのウォンカパクリですか、神サマ」
「ウン」
「うわっ、認めるの早ッ」
「ちょっとは罪悪感ってもの持とうよ」
「いいじゃねーか。ゴールデンチケット。イコール、『神さまに何でもお願いごとを叶えてもらえる券』」
「・・・え?何?今なんつった?」
「なんでも?アナタに?願い事を叶えてもらえる!?」
「そう。こういうのやったことなかったからよー。さあどうぞ、ミミニャミ諸君!」
「い、いやっ、そんないきなり!ま!迷う!」
「何でも、って?何でも?」
「なーんでも」
「ちょっ、ニャミちゃん、あんたタイマーくんとクリスマスオフ取んなよ、あんだけうっさく言ってたし、」
「ギャーッ、だ、黙れ!それはダーリン埋め合わせてくれたのっ、だからいいのっ!」
「えー」
「せっかく恋人たちのメリークリスマスなのになァ」
「神も黙る!えーとねー、願いごと!」
「なんだろなー・・・しかし綺麗なチケットだ。こんなんが招待状だったら狂喜するよね、みんな」
「・・・あ。ソレ。それいい。それじゃね?ミミちゃん」
「は?どういう意味」
「神。ワタクシ非常にいいことを思いつきました。次のパーティーは映画をテーマにしましょう」
「映画?」
「・・・映画。なるほど。それ、悪くないかもしんない」
「でしょ?神、まだ次の構想決まってないんでしょ?たまには最初の一歩、あたし達にも踏ませてよ」
「あーそうだよ神、いつもテーマは自力決めじゃん。どう?「お願いごと」、結構有意義な使い方じゃない?」
「なるほどなァ。映画、ね」
「そう。どう?」
「神っ」
「・・・・んー、んん、そうなァ。パーティーの根っこに関したことだ。チケット、1枚じゃ足りねーぞ?」
「なーに言ってんの」
「もっちろん、2枚差し出すに決まってんじゃん!」
「ははっ、お前らならそう言うと思った!」
「魔法にはそれなりの対価、ってね!」
「じゃあいいの!?神!」
「分かったよ。とっときのお願いごとだ、見捨てるわけにはいかねーな」
「わおっ!やったー!」
「いえー!ばんざーい!」
「中々とんでもない聖夜だな。他の奴らはどこでナニしてるんやら」
「あたし達は今日も仕事だけどね。まっ、これでチャラだし、最高だよ」
「神もラストまで頑張ってよ?みんなを幸せにしてあげて」
「はいはい。お前らも、たくさんの人を笑顔にしろよ」
「天職だからね。まかせて」
「あたし達の実力、見ててよねー」
「んなのとっくに分かってるって。お前らじゃなきゃこんなの渡さねーよ」
「ま、随分褒めてくださるわね」
「ちょっと気持ち悪いですわよ、神さま」
「いいじゃねーか。メリークリスマス、ミミ、ニャミ。やっぱり、俺はお前らが好きでしょうがないよ!」


神ミミニャミ















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