ばらの花


「ばら。花たば。俺とはちがう。」
「へー。お前も感傷的な言葉、使うんだなぁ」
「俺は赤いけど。あいつは、綺麗だ」
「だから汚したくないって?」
「そう。白いから。見ろ、この手。まっか。」
「真っ赤だな」
「生き方が違う。失敗だった。あの猫の助けを借りたのも、あいつの手をとったのも」
「そうかな」
「そうだ」
「でもさぁ、これ以上、あいつの大事なもの奪っちゃダメじゃない?」
「大事なもの?」
「うん。お前」
「・・・ふざけんな。俺がここに居たら、あいつの大事なものを余計汚すことになる」
「血で血を洗うのか?ずっと」
「・・・そうだよ。俺は色んなものを裂いて、色んなものを傷つけて生きる」
「悲しむなァ」
「悲しむ。だから、俺は、もうここには居られない」
「お前が居なくなっちまう方がもっと悲しむと思うけどねぇ」
「・・・神、無駄だ。あいつにはずっと、きれいな花のままで居て欲しいんだ」

ジャック&MZD





















疑似希求


「ダース。」
「ン、嗚呼、学者様。何でしょうねェ」
「暑くないのか」
「・・・別に。此の身体は便利でしてね、下手な寒暖は無視してくれます」
「・・・便利だな。分けて欲しいものだ、暑くて敵わん」
「じゃアアンタも死に為さい、直ぐに下へ連れてって此の身体にして遣りますよ」
「冗談は姿形だけにしろ。身体は常温でも頭は沸いているようだな」
「・・・アンタがこっちに来てくれりゃ退屈しないんですけどねェ」
「今でも始終お前といるのに、どうして死んでもお前と一緒にいないといけないんだ」
「アンタと居るのが嫌いじゃ無いからですよ」
「私とか」
「ええ」
「・・・なら、もう少しそれらしく振舞え」
「何がですか、其れらしくって。又曖昧な」
「例えば私に敬意を払うとか淀ジョルの情報を流すだとかだな」
「あたしは充分学者様に敬意を示してると思いますがなァ。好んでも無い輩にあたしはこんな話をしませんよ」
「成程。ならば即、行動を改めて欲しいものだ」
「・・・つれませんねェ。アンタにとっちゃ、一世一代の告白も唯の皮肉扱いですか」
「・・・・・・。・・・おい、それどういう意味だ」
「いえ?」


淀×鴨川





















ガヤガヤ


「え。あ、歩サン、マラカスって吹奏楽なんスか」
「えー?そうでしょーアンズ?」
「あたしに聞くな。もともとあたしは一人で吹いてたんだし、アリスに聞きな」
「え、私!?ま、マラカスはちょっと・・・どうなのかな・・・」
「エッ、そんならそもそもトライアングルもどーなの?あたしマジオマケって感じなんですけど、どーなの?」
「ねーオレ今日バイトなんけどさー、帰っていい?」
「アタシもチア部があるんだけどなァ」
「え、あ、待って待ってせめて担当楽器決めてからだね、えっとね」
「あたしフルートしか吹けないよ」
「あたしトライアングルやだー!あたしだけショーガクセーみたいじゃんー!」
「オレサックスなんてロクに吹いたことないんだけど」
「あ、アタシはなんだろ、応援でいいの?ん、あ、シンバル?コレ?」
「私もクラリネットしか吹けないよ?中等部でも1年ぐらいしかやってないし・・・」
「そもそもマラカスって参加できるんスかね?カラオケじゃないスよね?」
「ぎゃーチョットみんないっぺんに喋んないで!わけわかんなくなってきたー!!!」
「あ、じゃ、僕は・・・なんですか、結局弾かなくていいんですよね・・・?」
「え!?待って待ってジョニ君はベースだよね!?弾くんでしょ!?」
「え、だから無理だって・・・」
「いや、弾いて下さいよジョニーサン」
「うん、ジョニー君が弾いてくんないとさァ」
「は?え?」
「ジョニやん、キミやっぱベースだって!」
「ベースだよねー。似合ってる」
「いや、ちょっと皆さん」
「そうですね、ジョニーさんが楽器、一番うまいし」
「オマエマジで巧いよな。ビビる、ウン」
「だから、あの」
「はーい意見一致!ジョニーくんはベースね、ケッテー!」
「え・・・待ってくださいって!」
「いーの!あたし、ジョニくんの弾き方大好きなの!ね、みんな!?」
「うん」「そう」「だよねー」「同意」「うんうん」「ですね」「そうっス!」
「・・・だから、僕は!一度も弾くなんて言ってないんですってば!!」


歩・ジョニーD・アンズ・リゼット・ゲンロク・アリス・リュータ・ナンシー
@ポップン学園ブラスバンド部





















漣の白音


「月が綺麗だね」
「きれいなんかじゃないわ」
「星もあんなに綺麗だ」
「きれいなんかじゃないわよ」
「岸辺の白波だって綺麗じゃないか」
「なにもきれいじゃないわ」
「そうかな」
「そうよ」
「キミがここに居るからかい?」
「アナタがここに居るからよ」
「そうかね?」
「そうよ」
「それは残念だな」
「ええ、とても残念」
「でもキミが笑ってくれれば世界はまた美しくなる」
「そうかしら?」
「そうさ、キミはいつだって、私の美しさそのものなのだから」


ムーニィムーン





















わたし達


「そら」
「うみ」
「くうき」
「まわりのもの」
「じぶんのもの」
「あなたのもの?」
「わたしのもの」
「わたしたちのもの」
「あなたとわたしのもの」
「わたしとあなたのもの」
「すべて」
「なにもかも」
「わたしたちのものね」


ν&μ





















ヱレヂヰ


「・・・ん」
「あら今日は、学生さん」
「あんた、あれか。向こうの人か」
「貴方もでしょう?初めてお会いしたのはあちらです、よく憶えていますよ」
「そうかね」
「そうですよ。あの時、こちらからいらっしゃったと聞きました」
「今日は目出度い日和だろう。いいじゃないか、何処から来ようと」
「ええ。今日は確かにおめでたい日ですわね。賑やかで眩しい、記念日ですね」
「嗚呼、実に目出度い日さ。俺がこうやって、誰でもない俺になる」
「あら、そういえばお顔に紙が。それが、貴方でない証明ですか?」
「充分なのさ。誰も彼も姿形を気にしちゃ怯えて嘲ってる。何にも無いさ。俺は俺だ」
「偽物のお顔と何もないお名前、ですか」
「この世は偽者だらけさ。笑って泣いて、怒って悲しんで、全部上っ面だけで終わっちまう」
「そうですね。人は表面をなぞることが好きですわ」
「だから俺は笑う。何もかんもを従えて、笑うよ」
「そして?」
「そして、何にも無いって証明をしてやるのさ、この世も俺も空っぽだよと」
「貴方は空っぽではありませんのに?」
「あんたも俺もこの世も空っぽさ。すっからかんで梨の礫さ、何もかんもは空っぽさ」
「学生さん。心は満ちずとも、枯れる事も空になる事もありませんよ」
「それはあんたの心の話だ、俺の此処はいつでも隙間風が吹いてやがるよ」
「まあ。そんな欠片は埋まるものです」
「埋まりやしないさ。誰も彼も埋めたくて、埋まった振りをしてるだけだ」
「違います。埋めようと藻掻いるだけでしょう?」
「・・・あんたは知った風に云うね。待ち人はまだ来ないんだろう」
「ええ。それを貴方は埋まらない穴だと?」
「そうさ、あんたは焦がれて焦がれて、それでも届かないと知っている、それは埋まりやしない穴だ」
「・・・それならば、貴方はその偽物のお顔で心を隠しているだけです」
「俺が?」
「そうです。偽物のお顔も何もないお名前も。貴方が貴方である限り、逃亡と同様の隠れ蓑にしかなりません」
「・・・いいじゃないか。何もかもから逃げて、何もかもから隠れて。俺は無様さ。散る花だ」


たまき&ナナシ















孤島孤灯


「苦しむだけ苦しめばいい。嘆くだけ嘆けばいい。・・・そうしようとも、君に救いは訪れないのだから」
「・・・貴方もあの人のような事を云うのね」
「僕が憎いかい?」
「いいえ。貴方はあの人では無いから」
「そうだな、僕は彼じゃない。でも、彼が造り給うたフィリの影だ」
「・・・本当にあの人に造られたと、云うの?何処からどう見ても、・・・貴方は人だわ」
「アンネース。彼がどんなにフィリを欲しているか君は知っているかい?」
「・・・いいえ」
「彼は、君が危めたよりも余程多くの犠牲を以って僕を造り上げ、フィリを模そうとしたんだよ」
「・・・あの人が?」
「そうさ。ルシファーたる名に恥じない所業だろう?」
「何故なの?何故、あの人は私や貴方を利用し、そんな事をして迄、あの精霊を欲すの?」
「フィリこそが、彼の欲望を叶える器に値するからだよ」
「・・・欲望」
「ああ。フィリと同等の色を持つ、もうひとりの彼を煩う必要がなくなるからね」
「・・・嘗ての私の、地の、彼?・・・彼は、」
「ルシファーにとって、あの彼はフィリ以上に絶対的な存在だ。何度、僕は彼の代わりに絶たれたか知れない」
「・・・私は、貴方こそがあの人の欲望の権化の様に感じるわ」
「ははっ、そうかもしれない。その僕が僕と云う自我を持ち始めた故に、彼は僕を捨てたのだろうね」
「・・・あの人は、愚かだわ」
「君や僕と同じようにね。彼は愚かで、あまりに・・・」
「余りに?」
「無慈悲だ。まるで彼の凡てがその感情で造られているようにね」


アンネース&2Pフィリ


















黄金仮面


「探偵さん、何を勘違いしていらして?此処は鹿鳴館に他なりませんわ」
「・・・鹿鳴館?」
「ええ。そして貴方は此処で起きた事件を解決に来て下さった探偵さんでしょう?」
「・・・僕が?」
「可笑しな人ね、自分から名乗りに来て置いて」
「いえ。・・・あの。・・・今は、何年、ですか?」
「何年?元号の事でして?」
「え、ええ。そうです」
「やっぱり可笑しな人だわ。今は昭和2年に決まっているじゃありませんの」
「・・・昭和、2年?」
「そうですわ。新聞を御覧になります?貴方が捕らえて下さる黄金仮面が紙面を賑わせていましてよ」
「黄金、仮面・・・、鹿鳴館、昭和・・・?」
「・・・探偵さん?」
「ここは、鹿鳴館、なんですね?」
「何度も申し上げましたが、そうでございますわ」
「そして僕は探偵で、・・・黄金仮面を被る怪人の起こす事件を、解決に来た」
「ええ。その通りですわね」
「・・・お名前を、伺わせて頂いても宜しいですか?」
「愛子と申しますわ。この鹿鳴館は当家が所有しております。我々も黄金仮面の噂には困っておりますの」
「僕は、文彦と言います。・・・仕事は、探偵を」
「存じております。私共も是非、事件を解決して頂きたい、と」
「・・・判りました。・・・では、明日から、調査をしたいと・・・思います」
「そうして下さると助かりますわ。暫く私は此方におりますから、何かありましたらいらして下さい」
「はい。・・・宜しく、お願いします」


文彦さん&愛子


















アポステリオリ


「やあ、ミシェル君。久しいな」
「・・・おや、珍しいお客人だ。まさかいらっしゃるとは思っていませんでした。
 コンサートツアーはどうされました?」
「丁度先日無事に終わった所でな。君が言っていた場所に来てみたら、この立派な建物だ。驚いたよ」
「ははっ、来て頂いて光栄です。どうでしょう、僕の城は?」
「中々荘厳華麗な構えじゃとワシは思うぞ。いや、アニーにはまだちと早いかな?」
「ここには絵本もありますから、アニーさんも楽しめると思いますよ。
 まあ、あまり見かけない本なので、お気に召すかは分かりませんが・・・」
「・・・ここは人間の記憶から忘れられた本を所蔵する場所じゃったか。人は来んのかね?」
「そうですね、・・・あまり、お客様はいらっしゃいません。貴方が久々の来館者です、ハマノフさん」
「それは嬉しいことじゃ。フランスで君を見かけた時に感じた高揚が、まさかここへワシを導くとはな」
「僕も、まさか貴方のようなクラシック界の巨匠とお近づきになれるだなんて思っていませんでしたよ?」
「そうじゃな、ワシも、君のような若者と縁が出来るとは思わなんだ」
「嬉しいです。・・・人と話すことも稀、ですから」
「・・・寂しくは無いかね。こんな場所に独りで居ては孤独に支配されることもあろう?」
「慣れていますから。・・・僕も「記憶から忘れられた」ものの一部です。
 誰かが僕を必要としてくれていなくても、貴方のように僕を知って下さる方がいます」
「だが、それでは、真の孤独からは抜け出せないのではないかな?」
「・・・あまり苛めないで下さい。僕はこういう生き方しか出来ないのです」
「若い者には生を謳歌して欲しいのじゃよ。・・・といっても、老体の戯言じゃ、あまり気にせんでくれ」
「はい。僕はハマノフさんが来て下さっただけで嬉しいのですから」
「君は優しい子じゃな。・・・自分を大切にしておくれ。己を捨てては、得るものも得られなくなるからの」
「ご忠告ありがとうございます。また来館出来る機会がありましたら、いらしてください」
「ああ。時間の許す限り、伺わせて貰うとするよ。もうこんな時間か。じゃあ、改めて。また」
「ええ。また、いつか。」


ハマノフ&ミシェル






























ノワール


「・・・裏切りという響きは得てして、行う前には甘美な色をしているものだ」
「それが、ワタシを前にして手錠をかけない理由?こんな所に現れて何の用」
「次の仕事は止めておけ」
「・・・アナタは敵よ?ワタシの仕事に口を挟む理由がどこにあるの」
「お前は腕の良い女だ。失うには惜しい。馬鹿な仕事を行うな」
「惜しいから止めろと?失敗などしないわ」
「どうだろうな。お前は少し躍起になっているんじゃないのか」
「躍起?ワタシが?冗談は止して」
「俺達の機関を出し抜いてどうする?俺はお前に手錠をかけない。
 それは、お前が殊勝な人間だと知っているからだ」
「今夜は随分饒舌なのね。お褒め頂いて嬉しいわ」
「ああ、だから下らない感情で身を滅ぼすことは止めて、秤を見ろ。自分を見失うな」
「・・・それは警告?それとも忠告?」
「忠告さ、ジュライ。俺達は敵であり・・・、だが、時には手を貸すこともある、味方だろう」
「味方、ね?アナタも面白い人間になったものだわ!」
「明日のお前は、もう別の女だ。だから俺は饒舌で可笑しい男なのさ」
「そうね。明日になればまた、ワタシはワタシでなくなるわ。
 全ては嘘。ワタシの存在も、そしてアナタの言葉もね」


チャーリィ&ジュライ



















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