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「俺ね、はじまりが見たいなって、思った」
 この、10年目の節目だからこそ、さ。
 そう続けた神を、半ば唖然とした瞳で皆は見つめていた。特に、ミミの呆れた顔は、顕著だった。
「まーた始まった……」
「はじまりってなに? どゆこと?」
 参ったように額へ片手を当て、頭が痛い、というアピールをするミミと、率直な疑問を口にするニャミ。
また始まった。そんな科白は、いつでも神から無理難題を吹っ掛けられてきたミミ(とニャミ)だからこそ言えるものだ。
しかしそんなふたりを見比べて、神はあくまで朗らかだった。
「そりゃはじまりさ。俺の源流、俺のミナモト」
「元気のー、ミナー、モトっ! ってソレちょっと意味わかんないよーっ」
「ニャミちゃん、何言ってんの?」
 どこかのTVで聞いたようなフレーズを口走るニャミに訝しい視線を向けるミミ。
 小さな会議室の中、数名のヒトビト。そこで行われているのは、ささやかな企画会議だ。
この世界の中、もっとも壮大で華やかな音楽祭にはふさわしくないほど、ささやかな。
「えー、ミミちゃん知らないの」
「知ってるから言ってんの。あんたバカ?」
「バカじゃないよ、バカだなあ」
「はいはい、俺の話邪魔しないでね」
 売り言葉に買い言葉を始めるミミとニャミに神が軽い牽制をはかる。
それに気づいたふたりは口を閉ざし、彼の方をじっと見つめた。無言の主張。「どういうこと? 理由の説明ちょうだいよね」。
「……、ま、簡潔に言えば、全部のはじまりっぽいゲストを連れてきたいな、ってこと」
「全部のはじまりぃ?」
「ゲストって……そんなん連れてこれるの?」
 わずかな沈黙もつかの間、ミミとニャミはすぐに根を上げ、愚痴にも似た質問を解き放つ。
 すべてのはじまり。ゲスト。
 神の説明はお世辞にも詳細とは言いがたく、実際、不躾な質問が出てきても仕方のない内容だった。
「というか」
「ん」
「え?」
「はい、バンブー。発言を認めます」
 そこに、隙間を縫ってひとつの声が飛ぶ。珍しく議長らしい発言をした神にミミニャミが目を丸くした。
視線の先では煩雑なやり取りをじっと見つめていたバンブーがのっそりと、だが的確に発言する。
「それって前回の最後でやったことじゃねえのか?」
 今回のささやかな企画会議は、神、ミミ、ニャミ、そしてバンブーの4名で行われていた。
普段レギュラーで参加しているマリィやキングは今回席を外している。それは神の采配によるものだ。
いつもよりずっと少ない参加者は、一体どんな思惑によって集められているのだろう。