§ミズシマさんの
             とっておき雑楽ノート§




                                       (第八話)

                             
ベルガモ=北イタリアの珠玉の街=






 ミラノの東40kmぐらいのところにベルガモ(Bergamo)という街がある。

人口13万人ぐらいの小都市で、ここに私の仕事のパートナー会社がある。

今回はこのベルガモという、日本ではあまり知られていないが、

大変魅了的な北イタリアの街を紹介したい。



 ミラノ中央駅からヴェネチア行きの列車に乗り、

田園地帯と住宅地の混在する景色を眺めながら、

1時間ほどすると丘陵地帯が現われ、

その上にレンガ造りの建地物群が見えてくる。



 ベルガモである。

ベルガモは二つの異なる街から成り、

それぞれチッタ・アルタ Cita Alta(上の街)と、

チッタ・バッサ Cita Bassa(下の街)と呼ばれている。


(チッタは街、あとはアルトとバスの音域の高低差をイメージすればいいかも)

チッタ・アルタははるかアルプスからの傾斜を受ける標高300メートルの丘の上にあり、

中世の城塞都市そのまま、レンガと石造りの建物が並ぶ街である。

チッタ・バッサは19世紀に都市計画に基づいて新しく作られた美しい街である。



 バッサの南にあるベルガモ駅から道を街中に向かってまっすぐ10分ほど歩くと、

バッサの臍とも言える大きな交差点が現れ、その角に私の定宿のホテルがある。

周りはオフィス、銀行、商店、レストランなどが立ち並ぶ。


とはいえ街の中心部はそんなに広くはなく、

よそ者の私には200から300メートルぐらいの徒歩圏で生活の用は足りる。


駅から延びているホテルの前の道をそのまま歩くと、すぐに大きな広場があり、

周りに石造りのオフィスや市庁舎が整然と並ぶ。

その先は邸宅地となり、

それぞれの屋敷の美しく手入れされた庭を垣根越しに眺めながら歩くうちに、

道は右方向に回り、しばらく進むとケーブルカーの乗り場がある。


小さな客車を2両連結したこのケーブルカーはフニコラーレと呼ばれ、

標高差100メートルのアルタとバッサを結んでいる。

地元の人たちは殆ど車やバスを利用するが、

観光客にはこのフニコラーレが手軽で人気の乗り物である。



 片道1ユーロの切符を買って乗ると、

ケーブルカーは45度くらいの傾斜で木立の間を昇り、

トンネルを一つくぐって5分ほどで丘の町アルタに着く。


フニコラーレを降りると周りはすべてレンガ造りの古い建物で、

バッサの近代的景観と一変する。

建物の間の狭い石畳の道を歩くと程なく矩形の大きな広場が現われる。


アルタの中心、ヴェッキア広場である。

真ん中に円形の噴水があり、

その周りを小さなライオン達が狛犬のように鎮座している。

広場の周りは3階建てくらいの建物群で囲まれ、

外に並べられたレストランやバールのテーブルは、

地元の住民と観光客が混じって賑わっている。



 地理的にミラノとヴェネチアの間に位置するベルガモは、

かつてこの二つの王国のせめぎあいに晒されながら、

城塞都市として町の様相を変えてきた。

13世紀以降は18世紀の終わりまでヴェネチア共和国の支配下におかれ、

今日あるアルタの建造物の多くはこの時代のものである。


古い文書や絵によると、

この静かな広場も中世には祭事や集会が行われ、

時には刑場にもなったようである。



 広場の一角に「市の塔(トッレ・シビカ)」と呼ばれる、

石造りの大きな角型の鐘楼がみえる。

壁面には大きな時計が付いていて鐘打ちの時間を確認することも出来る。

手前には屋根付き階段のある何とも変わった建物があり、

鐘楼の塔と不思議なバランスを創りだしている。

その隣のどっしりとした建物はラジョーネ宮で、

12世紀から16世紀にかけて市庁舎として使われていた。

広場からラジョーネ宮のアーチ型のゲートを抜けると、

目の前に石造りのロマネスク模様の堂々たる建物が現われる。

サンタ・マリア・マッジョーレ教会とコッレオーネ礼拝堂である。



 教会にはベルガモの生んだ作曲家ガエタノ・ドニゼッティの墓がある。

そう、ベルガモはドニゼッティの生まれた街で愛好家にとっては聖地でもある。

アルタにはゆかりの楽器などを展示した博物館や音楽学校もある。



 コッレオーネ礼拝堂の隣には大理石で出来た八角形の洗礼堂があり、

この優雅な美しさも見逃せない。

そまま先に進むと10メートルはあろう柱を寝かせた日時計が、

モニュメントよろしく置かれている。

侮るなかれ、カレンダー機能も含めて今も正確に時を知ることが出来る。



 アルタの歴史的建造物の中では当然ながら日常の生活も営まれている。

レンガ造りの古い建物の中に人が住んでいるのだ。

内装の整備や機能化は自由らしいが、

外装はありのままに残すとなるとメインテナンスには随分コストが掛かるだろう。

実際アルタの住人には金持ちしかなれないそうだ。



 端から端まで1kmもないアルタの中にはしゃれた店もたくさん有り、

メジャーブランドを並べたミラノのショッピングエリアとは一味も二味も違う。

地元ブランドのネクタイを何本か購入したことがあるが、

納得のいく上質の物で今でも気に入っている。


個性的でおしゃれなレストランもいくつかある。

中でもお勧めはアルタのはずれの一段高い丘の上にある、

美しい庭に囲まれたレストラン。

アルプスからの山すその眺めも一望でき、料理も雰囲気も最高。



 タイムトリップしたように二つの街が共存するベルガモ。

フニコラーレに乗ってアルタに出かけ、広場や建造物を散策し、

美味しい食事を楽しんで半日コースぐらいの小旅行には絶対お勧めである。


ドニゼッティの音楽にでも接することが出来ればさらにいいかも。


 初秋のある夕方、時間が出来たので一人アルタに向かった。

フニコラーレを降りるといつもの散策コースを歩く。

オフシーズンの平日とあって観光客も余りいない。


暗くなってきた路地を歩いているうちにいつもの路をそれてしまった。

人の通りがほとんどない住宅地のその路地はひっそりとして、

石畳を歩く私の靴音だけが響く。


と、突然先の方で何かが聞こえてくる。

進むうちにはっきりしてくるそれは女性の歌声だ。

何の曲か分からないがメゾソプラノぐらいの音域でアリアを歌っている。


美しい歌声は狭い路地を伝うように流れていく。

レッスンだろうか?

でも伴奏無しで気持ちよさそうにのびのびと歌っている。


しばらく足を止めて聞き入っていたが、

すでに周りは真っ暗だし、誰かに咎められそうな気がして再び歩き出す。


ドニゼッティの聖地だな、と変に納得しながら。

                                            200901.29


       


     
          





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