§ミズシマさんの
             とっておき雑楽ノート§




                                       (第七話)

                            太陽海岸=地中海の水は冷たかった=





 
  COSTA DEL SOL(コスタ・デル・ソール)―または太陽海岸。

 地中海に面したスペインのこの美しい海岸に行ったのはかれこれ20年前。

南回りで飛行機を乗り継いで
25時間。

マラガ空港
からはタクシーでホテルへの海岸沿いの長い道を走る。

9月も終わり、陽も傾きかけた時間だが外の景色はまだ夏。

砂浜にはあちこちに水着姿が日光浴。

と、あそこにトップレスがいる!よく観るとこっちにも。

うわー、沢山いるじゃん。

車の窓から半分身を乗り出すように見ていると長旅の疲れが段々と薄れて、

気持ちがハイになってくる。

地中海に来たんだ。

(はしたない文書をお許しあれ、まだ若い頃の話だから・・)



 何でこの地に?例によってメーカー主催の代理店会議。

着いたホテルは大きな椰子の木に囲まれたスペイン風の建物で、

白い壁とオレンジ色の瓦に西日がまぶしく反射している。


 荷解きし、シャワーを浴びて一息ついているうちに、

外はもう暗くなってくる。

フロントでもらった伝言を片手に、

ホテルの外に出て先着の仲間達を探しに海岸の方に向かう。

石造りの壁に囲まれた高台を歩いていくと、

波の音に混じってギターと打楽器の音が聞こえてきた。

スペインだ。



 オープンテラスのカジュアルな感じのレストランの一角を占めた賑やかな集団。

私の仲間たちだ。

小さな蝋燭に照らされたテーブルには、

ワインとビールと雑多な料理を盛った皿が散在している。

再会を祝して乾杯した後に、持って来た料理のメニューを吟味。

メニューの中に「蟹味噌スープとムール貝」なんていうのがある。

何とも食欲をそそる名前ではないか。

こういう時の私の勘は冴える。


 出てきた真っ白のスープ皿に蟹味噌がしっかり溶け込んで黄土色に輝いている。

そこに適度に盛られたムール貝。

香草のみじん切りがさらっと振られてあとは何の細工も無し。

新鮮なムール貝と適度の塩加減のこのスープ。

絶品!最後はパンにからめて皿底を磨く。



 スペインの夜。

酒好し。料理好し。音楽好し。仲間も好し。

空には月も輝いている。



 翌日の朝。

窓の外は曇っている。

ベランダに出てみると、どんよりとして日差しが無い。

まぁ、日中は会議だし、夕方には晴れるだろう。

ところがこれから
3日間、雨交じりの曇り日が続く。

気温も段々下がりだす。

ホテルのフロントによれば、

ここ
コスタ・デル・ソールでも年に数日は雨が降るそうだ。

となればこちらは大当たり。



 会議の最終日は自由日。

幸いこの日は晴れ。陽も差している。


水着になって颯爽と海岸に出る。

が、少し肌寒くなった海岸は人気もまばら。

泳いでいるのは誰もいない。

トップレスもいない。


 サンダルを蹴飛ばすように脱ぎながら海の水に足を踏み入れる。

冷たーい!それでも少し躊躇しながら水に入っていく。

腰まで浸かった辺りでざぶーっと身を投げて、

クロールの一掻き、二掻き、三掻き。

やっぱり冷たい。

もともと超寒がりの私はこれが限界。

水から逃げる様に砂浜に立ち戻る。

地中海の水は冷たいな。

この向こうはアフリカなんだな。

なんて頭の中でぶつぶつ言いながら身を横たえて海を眺め、

そのまま太陽海岸ブランドのぜいたくな陽射しを浴びながらまどろむ。



 コスタ・デル・ソールを去る日。

この後ベルギーに回る予定だったので、

ベルギーから来ていた
W氏と一緒の便で行くことにする。

午後遅めの便なので時間のある間ハイヤーでマラガの市内観光をすることにする。

マラガの街を見下ろす丘の上のレストランで軽いランチを取る。

眼下には今も使われている円形の闘牛場がまず目に付く。

街全体は点在する樹木の緑と共に高層ビルの混じる建物が白く光っていて、

その先に海が広がっている。


 ハイヤーの運転手はやや年配の人の良さそうなおとなしいオヤジで、

こちらからの問いかけには応えるが自分から喋るタイプではない。

言葉は当然スペイン語だがスペイン語が堪能な
W氏の通訳のおかげでそれなりに会話が進む。

寡黙の運転手だが、それでも聞くと自身の生活などもぼちぼち話してくれる。



 細かい話は忘れたが音楽の話になった。

「マラゲーニャ」、「ラ・マラゲーニャ」という曲がある。

前者はマラガ風、後者はマラガの女という意味だそうだ。

このマラガという街は音楽、

特にギターに重要な関わりのある所と言えそうだ。


彼のお父さんは亡くなったけどギター弾きだったという。

じゃー息子のあなたもギター弾きになればよかったのにと私。

ギター弾きでは食っていけないからと父親は息子にギターを持たせなかったそうだ。

本場でプロとしてやっていくにはそれなりの厳しさがあるんだな、

と当時ギターに縁の無かった私も漠然と思った。


 

                    


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 昨年の夏、

ギターに興味を持ち出した私が銀座の歩行者天国を歩いていると、

スペイン人と思える男が小さな人だかりの中でギターを弾いていた。

くたびれた服装で小さな携帯用の椅子に座り、

傷だらけのギターを抱えてアルハンブラを巧みに弾いている。


しばしその場に釘付けになった私は

1
2週間後にギター苦行を求めて同じ銀座の山野楽器でギターを購入した。


 話を少し前に戻そう。

例の「蟹味噌スープとムール貝」は本当に美味しかった。

日本でも同じものが食べられないかと期待もした。

時々似たような色のスープが出てきて、もしやと心ときめいたが、

いつもかぼちゃのスープだった。


                                                 2008年/12月11日




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