§ミズシマさんの
             とっておき雑楽ノート§




                                         (第四話)

                          〜NYは眠らないーバードランドの子守唄〜






 「バードランドの子守唄」というジャズのスタンダードナンバーがある。

歌詞のほうは恋人を熱烈に称える、子守唄というよりラブソングであるが、

軽快なテンポでスイングしながら入り、

聴いていくうちに何か懐かしさを感じさせるメロディで、

好きな曲の一つである。

 ニューヨークのジャズクラブ「バードランド」に盲目の白人ピアニスト、

ジョージ・シアリングが出演した時に残していった曲で、

1952年の作品だそうだ。

私がジャズに興味を持ち出した60年代初めの頃、

女性歌手のクリス・コナーが一緒に来日し、

この曲(多分)を歌ったのを白黒テレビで見た記憶がかすかにある。



 で、今年3月のニューヨーク2日目。

前日のMET(メトロポリタンオペラ)の次、

今日は「バードランド」に行こう!



 本日の出演は誰?とホテルでネット検索。                                          

ミッシエル・ルグラン(ピアノ)

ロン・カーター(ベース)

ルイス・ナシュ(ドラム)

ミッシエル・ルグランといえばフランス映画音楽の巨匠。

「シエルブールの雨傘」、「おもいでの夏」、

「風のささやき」など多くのヒット作品を出している。


だから私の知っているルグランはジャズよりも映画という印象が強いが、

その彼がベースの巨人ロン・カーターを従えて出るという。

ドラムのルイス・ナシュについては知らないけどこのトリオは面白そうだ。



 今夜のステージは二回。

ホテルからほんの2ブロック先だからゆっくり出かければいい。


二回目のステージの始まる11時頃に店の前の小さな行列に並ぶ。

幸い昨夜に比べると寒さも気にならない。

私の少し前に見覚えのある日本人が並んでいる。

たぶんテレビや写真でみた事のあるギタリストの某さんだろう。



 店内でワンドリンク付50ドルのチケット
(今日は特別ステージだからか、いつもより高い)

をもらって入り口近くのコナーカウンターに座る。

バーのカウンターよりこちらの方がステージが良く見える。

トニックで割ったウィスキーをなめるよう飲みながら周りを見る。

ステージの前はテーブル席で、

カップルやグループが食事を取りながら楽しめるようになっている。

バーカウンターや私の座ったコーナーカウンターは一人客も結構多い。

それと女性客が多い。

店内はほぼ満席。



 3−4年前にこの店へ来た時は、

名前を覚えていないが、

怪傑ゾロみたいな格好をしたギターがバック4人ほど連れて出ていた。

ジャズは何でもありの思いで聴いたけど、

そのとき演奏したあのサイモン&ガーファンクルの「スカボロフェア」

(もちろんジャズ風に)に感激して涙が出そうになった思い出がある。

さきほど見かけたギターリストの某さんも、

ここには何度も出演しているはずである。



 やがてステージが始まる。

メンバー紹介の後、曲名は分からないがセッションがスタート。

ここではいきなりロン・カーターのベースが冴え渡る。

長身のカーターが大型楽器であるベースを長いストロークと、

正確なポジショニングで自在に弾き紡いでいく。

当代きっての大物ベーシストがスポットライトと、

やんやの拍手を浴びたのはこの1曲目だけ。


2曲目からはルグランの弾き語り舞台となる。

少年のような高めの声で歌い、喋り、

ジョークを言い(私には理解できないが・・)ステージは進む。


何曲目かに本人自作の「風のささやき」を歌いだす。

これが温泉に浸かって朗々と歌うように絶好調の親父節。

さすがのロン・カーターも今夜の主役におとなしくついていく。

途中ピアノのコードがずれだす。

あれ、あれ・・。ルグラン親父はあせらない。

歌を中断して声を出しながらコード確認。

「アー、アー、アゥアー」この間客席は大笑い。

音を外すのも芸のうち?声も美声とは程遠いけれど、

曲の合間に客席と冗談を言い合いながら店内の空気をしっかり取り込んでいく、

このフランス親父はやはり只者ではない。

思うに1時間余りのステージを一番楽しんでいるのは、

ミッシエル・ルグランご本人かもしれない。

ステージが終わり、余韻と賑わいの残る店を後にする。

今夜も午前様。

歌の文句じゃないけれどニューヨークは眠らない。



・・・・・・・・・・・


8月末の稽古場、南アルプス縦走から死ぬ思いで(?)帰還した師匠。

ようやく下界人になって、

師匠:そろそろクリスマス会の曲を探したほうがいいですよ。

弟子:えっ、もうですか?

師匠:3ヶ月くらいはあっという間にたちます。歳をとるのも早いけど。

弟子;そうですね・・(汗)


家に帰ってから昨年のクリスマス会のプログラムを引っ張り出してみる。

あれっ。プログラムに「バードランドの子守唄」が載っている。

演奏はジャズ通のMさん。

そうか、当日は演奏の時間が離れていて、

聴く機会のないまま気がつかずにいたのだ。

聴きたかったなぁ・・・!!。



                                       2008.9.2



        

                   ♪エラ・フィッツヂェラルドの歌で・・・♪

           





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