〜エッセイ〜

                      


 
          ***シューベルトと「ギター」***

 

 私は前に「シューベルトのギター歌曲」と言うCDをインターネットで購入した事を、

掲示板に書き込んだ事がありました。

 殆どの方は「何だかマニアックな世界…」と思われるかも知れませんが、

そんなこともないんですよ。

 実はシューベルトがギターを弾いていたと言う事実がありますし、

今は博物館になっているウィーンの彼の生家には、実際使用されていたギターが展示されています。

しかしこう言った事は残念ながら一般的にはあまり知られていません。


 フランツ・シューベルト(17971828)は皆さんもご存知のように、

あの有名な「セレナーデ」や「野ばら」、「魔王」、

歌曲集「冬の旅」、「美しい水車小屋の娘」等数多くの歌曲を作曲し、

後に「歌曲王」と言われた作曲家です。

 ではそのシューベルトが何故ギターと関わりがあったのか…?

 そのナゾ(?)を解明するために注目したいのが、彼が活躍していた頃のヨーロッパの音楽事情です。

 シューベルトの生没年を見ると、1797年〜1828年、18世紀末から19世紀初頭です。

実はこの頃のヨーロッパは稀に見るギター・ブームだったのです。

 特に大ブレイクしたのがパリとウィーンだったそうで、

貴族の夜会ではギターの話題で盛り上がったり、

自分の支持しているギター教師の話しをしていたところ、

そばにいたライバルのギタリストの門下生と口論なったりと、

あまりの熱狂振りに新聞にも風刺画が載ったほどだったようです。

ちなみにこの頃活躍していたギタリストには、カルリ、ジュリアーニ、コスト、メルツ等がいます。

 ギタリストではありませんがヴァイオリンの巨匠パガニーニもギターには造詣が深く、

ギターと弦楽の為の曲やギター独奏曲を多数作曲しています

(懇意にしていた貴婦人がギターを弾く人だったらしいですよ(
*0*) )。

 ギターに関する出版物で言えば、

楽譜の出版で権威があるアルタリア社が

1807年にベートーヴェンの歌曲「アデライーデ」の声楽とギターによる編曲版を出版している他、

ジュリアーニやカルリのギター独奏曲も多数出版されています。

 一般家庭では「ホーム・ミュージック」と言われ、

夕食後に家族と一緒にギターを弾きながら歌を歌ったり、

友人を招いてコンサートを開いたりと言う事が頻繁に行われていて、

特にギターはピアノに比べて安値であるとともに持ち運びもしやすいと言う事で、

かなり重宝したようです。

 こう言った事情を見ると、

この時代は正にギターの「黄金時代」であったと言っても過言ではありませんし、

シューベルトがギターに興味を示した事も極自然な事だったのかも知れません

(ある説によると貧乏なシューベルトにはピアノを買うお金がなく、

代わりにギターを使って作曲していたと言う話も…)。


 
事実、181310月には、父親の聖名祝日を祝って

男声
3部とギターの為の「カンタータ」(D80)を作曲したり、

その翌年にはギターを弾く友人の為にマティエカの

「フルート、ヴィオラ、ギターの為のノットゥルノ」のスコアにチェロパートを書き加えて編曲しています。

しかも、あの有名な「セレナーデ」はアルペジオの特徴からして、

「実はギターで作曲されたのではないか?」とさえ言われています。

 さらに1821年にはディアベッリがシューベルトの最初の歌曲集(op17)の中から

4曲を選んでギター伴奏歌曲の楽譜として出版しており、

その後も
1828年にかけて26曲ほどの歌曲がピアノ伴奏用とギター伴奏用の両方が出版されています。

 これらの事を考えると、シューベルトの歌曲をギター伴奏で演奏すると言うことは

当時のウィーンでは極普通に行われていた事で、

今私たちがそれを行うと言う事も特別な事ではないような気がします。

 実際購入したCDを聴いてみると19世紀ギターを使用しているせいか、

「きっと当時はこんな雰囲気で演奏されていたんだろうなぁ…」と、

シューベルトが生きていた時代を彷彿とさせるような雰囲気があって、

シューベルトの深みのある音楽とギターがこんなにも良くマッチしているとは!!と、

新たな発見をさせられました。

 20年ほど前にも、コンラート・ラゴスニックがテノールのペーター・シュライアーと組んで

「美しい水車小屋の娘」をレコーディングして、当時話題を呼んだ事がありました。

 最近のギターのコンサートのプログラムを見ると、

派手なテクニックが売りの現代曲が並んでいるのが目に付きます。

また、それとは対照的に、ルネサンスやバロックの音楽を作曲された

当時のスタイルで演奏するコンサートも催されたり、

19世紀ギターも静かなブームが起こっています。

たまには「ギターで聴くシューベルト」なんてコンサートも
19世紀のウィーンを想像できて、

かえって新鮮で面白いんじゃないかと思いますが、皆さんはどうお感じになりますか?




           参考:ギター伴奏版「美しき水車小屋の娘」
   (
K・ラゴスニック/J.W.デュアート編〜日本ショット株式会社)



              
               シューベルトの肖像


       
      シューベルトの使っていたギター(美しき水車小屋の乙女より)