2004年 コンサート雑感(4)



     
2004年 1月30日(金)
     ステファノ・グロンドーナギターリサイタル





 2004年/1月30日(金)

年が明けて間もない寒い夜

ステファノ・グロンドーナギターリサイタルをトッパンホールに聞きに行った

出発駅で3人で待ち合わせたのだが

一人とうまく会うことができずに、出だし早々慌てての出発

トッパンホールの最寄り駅は

我が家からは地下鉄で行けて比較的短時間で到着できる地下鉄飯田橋だ

しかし飯田橋駅は夜になるとどうも方向がよく分からなくなる

開演時間が若干気にはなった

飯田橋駅に着いて歩道橋の上に立つと

はたして、回りがみな同じように見えてきて方向がはっきりしない

以前に来たことがあるのでその時の景色を思い出すのだが

どちらの方角を見てもどうもはっきりしない

やみくもに歩いてみたが自信がない

結局、歩いている人を呼び止めて聞いてやっと出発点の歩道橋の下に立つことができた

しかし、そこからがまた結構距離がある

開演時間が迫ってきている

しかも連れている方は結構なお年の二人だ

大丈夫かと内心思ったがとにかく若干抑え気味にスタスタ歩き始めた

最速に飛ばして歩くということはなかったが

結構急いだ・・・・お二人も何とか着いてきてくれてなんとか開演時間には間に合った

三人ともようやく席に落ち着いた

15分ほどの余裕があった、寒い夜とはいえ急ぎ足で歩くと若干汗が出る

しかし、この15分でだいぶ落ちついてきて聞く体勢に入ることが出来た

コンサート会場にはやはり余裕を持って入らないといけないと自戒を新たにした


 客席が暗くなってシンとする一瞬でグロンドーナが舞台に現れた

一通り調弦をして演奏を始める

フローベルガーの組曲ニ短調から弾き始めた

しっかり前を見て演奏している

自信に溢れた演奏に思えた

実際この人のバロックは次のバッハ、またフローベルガーと続くのだが

非常な構築感を持って構成されているという印象を持った

バロック音楽ということの意味から入って曲を作っていったということがよく分かる演奏だ

各フレーズ、フレーズを慎重に的確に弾き分けてそれを積み上げていく

非常に堅固な音楽を作り上げていた

石の文化を感じさせる構築感だ

フローベルガーというなはあまりギターには馴染みのないバロックの作曲家だが

これから重要な作曲家になっていくのではないかと思えた


 前半の最後にグラナドス3曲が演奏された

今度は一転して構築していくという観念を捨てて、自由に歌いまわしていく

メロディーの音間も自由に取っている

後半が楽しみになる演奏だった


 後半はすべてスペインものだ

アルカスから始まって

ファリャ、リヨベート、アルベニス

スペイン音楽の花といわれる曲が並んでいる

アルカスのエル・パーニョの主題による幻想曲、ボレロ、幻想的なポラッカ

これらの曲はまったく聞いたことがなく初めてだったのだが

う〜ん、どうだろうかそれほど音楽的に高いとはいえない気がした

こういう曲は聞く人によって意見が大きく分かれる曲だ

自分はそれほどの曲には聞こえなかった

 後はもう、いわゆるクラシックギターの定番と呼ばれる曲が並んだ

この中でドビュッシー讃歌はなかなか興味深かった

イタリア人的な感性で演奏するとこうなるのかという演奏だった

この曲の持つ重々しさというのはあまりなく軽快でリズムカルな印象を受けた

この曲については常々思うのだが、弾き手の個性がはっきり曲作りに出てくる曲だと思う

似たような演奏というのがあまりない

名曲ではあるのだが演奏には慎重を要する曲のひとつだ

最後のアルベニスのカディス、朱色の塔になると感情を前面に出した演奏になり

一歩前に出て話しかけてくる感じになった

自分の意志を強引に伝えるような感じで、多少のミスはお構いナシというノリになった

グイグイ引っ張っていく演奏に聞いてるほうの気分も楽しくなってきてしまった

イタリア生まれということだからラテン人なのだが

ここからが実は本領発揮なのではないかと思えた

前半バロックの雰囲気とはガラリと変えてきた

少し早口気味に会話を引っ張っていく、相手を強引に自分の世界へ引っ張っていってしまう

なんとも愉快に感じて楽しい気分が残った

アンコールにこたえて何曲か演奏されて舞台のライトは落ち、客席のライトはつけられた

終わってロビーで早速CDを買った、ミーハーなことにサインまでもらってしまった

しかし、このCDに入ってる朱色の塔を後で聞いたのだが

さっぱり面白くなかった

実演があまりによかったのでCDではしらけてしまった

まず、テンポに実演ではあったノリがまったくない

CD録音ともなるとこんなものかという醒めた気分になった

実演のあの興奮気味の気分にはまったくならなかった

実演で力を発揮するタイプの演奏家なのだろう

CDで聞いて満足するのではなく実演に足を運ぶことを進める


 実は、グロンドーナのコンサートに来た理由のひとつに

名器トーレスの使用ということがある

これは現代ギターの改革者である、トーレスのギターの音色をじかに聞くチャンスと思った

その音は、年代が経っているためか低音に若干明瞭さが欠けているようにも思われたが

高音弦の艶のある音色は、ギターの音の魅力というものを改めて考えさせられるものがあった

音量至上主義に陥っている現代のギターとは明らかに違う世界を感じることが出来るものだった

繊細なニュアンスのある音というのはこういうことなのだろうと思った

ターレガの音楽が生まれたきっかけがトーレスのギターからというのは納得できるものだった

現代のギターの野太い音質では決してなく

甘く艶があって乾いた空気感を持ったすばらしい楽器だった

ギターの音の魅力ということの原点を見る思いがした

良い音楽を聴いた後の仲間との会食というのは楽しいものだ

飯田橋という駅の周りにはたいした店はないが

それでも食事は楽しいものだった

コンサートの帰りにはいつもこれがほしいと思う