エッセイ
♪♪♪♪♪私の楽器物語り(1)♪♪♪♪♪
クラシック・ギターと一口に言ってもいろいろな楽器があります。
私が今愛用している楽器はヘルマン・ハウザーU世と言って、
ドイツの名工と言われるギター工房が作った楽器で、
スペインのフレタやサントス・エルナンデス、ラミレス、アグアド、
フランスのロベール・ブーシェなどと言った世界の一流ギター工房とその名を連ねる工房です。
もちろんこの楽器に行き着くまでにはいろいろな楽器との出会いがあったわけで、
今回はその「楽器との出会い」について振り返ってみようと思います。
まず、ギターを始めるにあたって一番最初に購入した楽器が、
今でいうディスカウント・ショップの壁に吊り下げられていた4,800円の楽器でした。
当時私はまだ中学一年生で、
従姉妹がいわゆるかつてのギター・ブームに乗っかって弾いていた楽器を、
「もう弾かないから、使うんだったらあげる」と言われたのですが、
どうしても自分の楽器が欲しくて決して多くないお年玉を貯めて購入したのでした。
本当ならば楽器店に行ってちゃんとした楽器を購入するべきなんでしょうが、
楽器店では金額も張るために自分で購入するのは難しく、
それでも4,800円と言うのは当時の中学生にしてみれば決して安い金額ではありませんでした。
それでも手に入れた当初は嬉しくて、しばらくは父に買ってもらった
阿部保夫の教則本を頼りに自己流で練習を始め、
一年くらいはわからないまでも何とか弾いていました。
そのうち一人で練習しているのに飽きてきてしまって、
滅多に楽器を取り出すことはなくなりましたが、
高校に進学して学校にギター部がある事を知ると、
せっかく大枚をはたいて買った楽器をムダにしてはいけないと思いギター部に入部し
(ここで野村先生と出会いました)、しばらくその楽器を使ってまた練習を始めました。
ギター部での活動を始めてしばらく経ったある時、
何が原因でどこがイカレたかは忘れてしまいましたが楽器に故障が生じ、
新しい楽器に買い換える事になりました。
今度は野村先生にお願いして30,000円の楽器を購入し、
2年生の5月からは野村ギター教室に入門、個人レッスンを受けるようになりました。
この楽器は高校を卒業して会社勤めをするようになってからもしばらく使用しました。
働き出して多少なりともお給料を貰うようになり、
自分の自由になるお金が手に入るようになると、
「音楽をやっている以上、必要最低限の物はそろえないと…」と思い、
初めてのボーナスでステレオを購入し、そうなるとやはり次はいいギターが欲しくなるもので、
その年の暮れのボーナスで新しい楽器を購入する決心をしました。
だいたいの予算を提示して先生に相談にのっていただき、
野辺正二さんの20万円の手工ギターを購入する事になりました。
初めて手にする本格的な楽器に嬉しいやらドキドキするやら複雑な気持ちでした。
ギター・ケースを開けると新品の楽器から木の香りが漂って、
いかにも出来たてのホヤホヤと言う感じでした。
表面板は松、横板と裏板はローズ・ウッド。
まだ18歳のキャリアも浅い女の子が使用すると言う事で弦の張も弱めに作っていただいたようで、
左手の押さえはかなり楽だったように思います。
この野辺正二さんの楽器を使い出して1年ほどした時、
先生があざみ野の地区センターでコンサートを開く事になりました。
このコンサートには教室の生徒も参加する事になり、
私はある生徒さんと二重奏を演奏する事になりました。
このコンサートの練習が始まったある木曜日、
いつものように仕事を終えて当時レッスン場所に使っていた大塚のスタジオに行ってみると、
ギター・ショップF社の営業マンがギターを数本持って来ていて、
二重奏をするもう一人の生徒さんが楽器を物色していました。
私も覗かせてもらうと、一本はスペインのパウリーノ・ベルナベという楽器で、
もう一本は同じくスペインのホセ・オリベという楽器でした。
価格はどちらも120万円という高価な物です。
音を聞いてみると、あたりまえの話ですが私が購入した20万円の楽器とは比べ物にならないくらい、
素晴らしい音がしました。
特にオリベの方はヘッドやサウンド・ホールのモザイクのデザインがとても綺麗で、
見た目にも華やかな楽器でした。
「やっぱり本場スペインの楽器は違うなぁ…」とプロ仕様の楽器に対する憧れが、
一気に私の胸の内に湧き上がってきました。
二重奏のお相手はどうやらベルナベの方を狙っていた様子で、購入を決定した感じでした。
そうなってくると、20万の楽器と120万の楽器とでは演奏した時に音量に歴然と差が出てきてしまいます。
オマケに私が担当するのは1stなのでメロディーが沈んでしまうのではないかと言う心配事が生じてきました。
ギターを弾く限りはいつかは本場スペインの楽器を手に入れたい(実際はアメリカで作られた楽器)。
でも去年ボーナスをはたいて新しい楽器を買ったばかりだし、
第一、120万円なんて大金をまだ19歳のペーペーの私がどうやって作るの…?
ああ、それでもこれが運命とでも言うのでしょうか。あれこれ考えた挙句、
私はボーナス併用払いの3年ローンを組んでとうとうあの120万円のホセ・オリベを購入してしまうのでした。
成人式に着るはずだった「着物」がギターに化けた瞬間でした。
そして、これがすべての始まりでもありました…!!!
野辺正二製作のギターで
マールボローの主題による変奏(F・ソル)を弾く
ホセ・オリベ 銘器:ホセ・オリベで演奏/トリーハとトゥレガーノ(F・M・トロバ)
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