鳴らない携帯。







湖の前.......

風がとても心地よくて.....

ずっと此処にいたくなる。

そんな場所でボクは立ちつくしている。

何回この場所に来ただろう。

何回この手を離そうとしただろう。


鳴らない携帯


これを手放すには此処が最適な場所だと思った。

僕とキミが初めて会った場所。

あの時、キミが素敵と言ったこの場所が.......。



いつも手を離そうとして.......

結局手放せず家に戻る。

そしてかすかな期待をもって.....

意味のない期待だと解っているけれど

携帯を手に　待つ。

そんな毎日を繰り返し、また明日が来る。



何回この携帯が鳴るのを待っただろう。

何回キミに電話をしようと思っただろう。

キミが最後に残したメッセージ........


ゴメンネ


この字を見るたび....

何回この携帯を憎んだだろう。

何回この携帯を捨てようと思っただろう。



でも今では、そんな四文字のメッセージも

恋しくて

愛しくて

儚くて

..........この文字だけが、唯一ボクとキミの繋がりのあるものダカラ。



でもいつかはケジメをつけなきゃいけない日がくるって解ってる。

だからその日を今日にしようと思った。

天気は晴天。 風も好調。

湖に映るボクの顔が見える。

今日はきっと一生忘れない特別な日になるよ。

キミが生まれた日。

ボクとキミが出会った日。

そしてボクがケジメをつける日。



ボクは手を離した。

静かに沈んでゆくボクの携帯。

あの日から一回も鳴らなかった携帯。

ボクの想いとともに沈め...............











＋　END　＋