誰もいない生徒会室は珍しくないから、この二人だけがいるということも珍しいことではなかった。だからいつもと同じように職務をこなしていく。しかしそれも底を尽きればつまらないもので、やることがなくなり暇になる。椿はペンを回しながら丹生を見た。相変わらず熱心に書類と格闘している。丹生は書類に目をやったまま口を開く。その目元は微笑に縁取られていた。
「先に帰ってくださってもかまいませんよ、椿くん」
「そういうわけにもいかないだろう、丹生一人だけ残して」
「おやさしいのですね」
瞳を伏せたまま丹生は言った。本当にそう思っているのか怪しいほどその表情は変わらないままだ。
「きっともう誰も来ませんよ。施錠なら私がやりますけど」
「なんだ、お前は帰って欲しいのか」
「そういうわけじゃありませんよ」
ふう、と息をついて丹生は椿を見た。困ったように笑って、丹生は小首を傾げた。椿はそれを見ながら、その奥の空を見た。空はまだ青い。いつ頃から赤くなっていくのだろうか。
「椿くんにわかりますかねぇ」
「何がだ」
そう言えば丹生はまたほんのりと笑った。物悲しそうに椿を見て微笑む。
「……まあ、どうでもいいことですから」
嘘つけ、そんな顔してないくせに。