暖かい雨
雨が降っていた。
ハンガリーは食料品のたくさん入ったレジ袋を揺らして立ち止まる。ちょっと買いすぎたかしら。そんなことを考えながら。
雨が降ることはなんとなくわかっていた。朝から空が白んでいたし、昼頃にはどんよりとした雲が空を覆っていた。それでも雨は降らないだろうと傘を持ってこなかった自分にハンガリーは心底嫌気が差した。
「私って馬鹿なのかな……」
ハンガリーはそう呟いて袋を地面にそっと置く。スーパーの出口にはやはり人は多いが、ハンガリーが邪魔になるほどではないだろう。
ハンガリーはそっと手を伸ばし雨の強さを確かめる。ぼつ、ぼつと大きめの雨粒が手のひらにあたる。ハンガリーは手をひっこめるとついた雨を服で拭った。止むまでまとうか、と思ってもそんなに早く止むとは思えない。走って帰るにも家までの距離は遠すぎる。迎えに来てもらいたくても何も連絡ができない。……本当にどうしようか。候補の中では濡れて帰る、というのが最有力なのだが。
雨が降ってきたのはまだハンガリーが買い物をしていた時なのだろう。それでなければ水溜りが出来るわけがないし、辺りに漂う雨のにおいがこんなにも強いわけがない。
ハンガリーはスーパーの中の時計を見て時間を確認する。二時半。イタちゃんにおやつを作る約束なのに。ハンガリーは濡れて帰る、ことにした。
幸い雨宿りできる場所がところどころにあったから良かったが、なければ家につくまでにぐっしょり濡れていただろう。ハンガリーは小走りで家路へと続く道を行った。
雨が一層強くなってきた。
ぼつぼつと頭を叩かれるような強い雨。これはまずい、と思ったけれど回りに雨宿りできそうな場所は木の下くらいしかない。仕方ないのでハンガリーはそこで雨宿りさせてもらうことにした。家まではまだ半分はあるだろう。ハンガリーは荷物をゆっくりと地面に置くと水で浸った服をぎゅっと絞る。そこからはぼたぼたと雨水が落ち、絞ったところは皺になってしまった。家に帰ったら洗わせてもらわないと。ハンガリーはそこまで考えてからまた荷物を持ち直した。
また歩きはじめる。ぼつぼつと雨が痛い。
「まだ半分もあるのにこんなに雨が強いだなんて。きっと意地悪してるんだわ、誰かが」
「あなたに意地悪を?そんなことするのは誰でしょうね?」
「決まってます。きっとプロイ、」
とそこまで言って雨が止んだことに気づく。ぼつぼつと言う音は自分には届いていない。ハンガリーは傘の主を見上げる。
「お、オーストリアさん、」
「あなたも独り言は言うのですね」
「そ、そりゃあ言いますけど 」
迎えに来てくださったんですか。
そう小さな声で言うとオーストリアはそっと微笑んだ。吐かれるしろい息が寒そうだ。マフラーがいつもより綺麗に巻かれてはいなくて、もしかしたら急いで来てくださったのかしらとハンガリーは考えることが出来た。
「もちろんですよ。風邪を惹いたら困りますからね。……寒かったでしょう」
「……いいえ暖かかったです」
「それは今でしょう」
「今も、ですけど」
ひとつの傘の中、二人で寄り添う。濡れた布越しに伝わるオーストリアの体温はとてもあたたかい。
「帰りましょうか。イタリアが待っていますよ。ハンガリーさんを迎えに行く、と言って聞かなくて大変でしたよ」
オーストリアはそう言って自分の首に巻いていたマフラーを取りハンガリーの首にそっと巻く。
「寒いでしょう。もう少しですからそれで我慢してください」
ずっとこの時間が続けばいいのに、とハンガリーはこっそり思った。
墺洪祭りさまに提出させていただきました。納得のいくものがかけて満足です!ありがとうございました!