「マクロード、あんたってずるいわよね」
「え、ずるい?僕が?」
 さやかの言葉に、マクロードはへらりと笑みを返して見せた。するとさやかは表情を付けないままでマクロードの顔を指差した。マクロードはきょとんとした顔でその指を見つめる。
「ずるいわよ。そうやって何もできないフリするなんて。あんたがいろいろなことできるってこと、あたし知ってるんだから」
 そう言ってさやかは指差した指をだらりと力無く落とせばマクロードの顔も見ず先ほど自分で頼んだジンジャーエールのコップを掴み口元へと寄せぐびっと飲んだ。勢い良く飲んだからか、きつめの炭酸を油断していたからだろうか。持ち上げたコップをすぐ机の上に置けばさやかは一気に大人しくなった。マクロードはその様を見て軽く笑った。声さえ出さなかったものの俯いていたさやかはマクロードが笑ったことに気付き、きっと睨んだ。笑顔がこわばる。
「あたしの言ったこと、聞いてたの?ずーるーいー、って言ってるの」
「僕はフリなんてしてないと思ったけどね。これが僕の自然体だよ」
 マクロードが自分で頼んだ、珍しく甘いものではないコーヒーカップの取っ手を緩やかに持ちながら言った。コーヒーに映る自分の顔を見ながら、マクロードは言葉を紡いだ。ゆらゆら。
 さやかはそんなマクロードを見て、次はゆっくりとジンジャーエールを口に運びながらぽつりと漏らした。
「……やっぱあんたってずるいわ」
 そっぽを向きながら呟かれた言葉に、マクロードはコーヒーを飲みながらこっそり苦笑した。