マック・マクロードは相変わらず棒付きキャンディを舐めていて、視線をぼうっとどこかをさまよわせていた。さやかはそれをじっと見た後に呆れた顔で あんたはいつも同じことしてるのね、と言った。それを聞いたマクロードは緊張させていた顔をふっと緩まし、お褒めの言葉ありがとうと言った。さやかは褒めたわけじゃないわよ、と言うとぷいっと顔を逸らす。あはは、と声に出して笑ってから、マクロードは立ったまま微動だにせずさやかの行動を見ていた。さやかはソファに寝転がっている。マクロードは無防備だなあと苦笑を漏らすと、不機嫌なさやかの睨みを食らった。
さやかはチュチェが家になかなか帰ってこないから、とマクロードの家に来ていた。あいつが浮気してたら、私も浮気してやるんだからと言うさやかの声は意外にも細くて、マクロードは弱ったなあと思った。心にも無いことするもんじゃないのに。マクロードはそう思ったが快くさやかを家に上げた。断っても変な印象を受けるだろう。マクロードはさやかとの距離をくずしたくなかった。
すわればいいのに、というさやかの声に、マクロードはいいや、と言ってやんわりと断った。変なの、というさやかにマクロードはそうかなあと返した。このやりとりがずっと続いたら――そしてこのやりとりをさやかが心地よいと感じたら、さやかはマクロードを選ぶのだろう。
ありえないな、とマクロードは一喝する。そんなことはありえないのだ。これからもずっと。
無機質に鳴る携帯電話に、さやかはあっと言って反応した。きっとチュチェからなんだろうなとマクロードは予測すると、なんだかもやもやして口から棒を取り出した。少しだけ残っている赤い着色料で色づけされたそれを、マクロードは再び口に入れてがりがりと噛んだ。さやかの話し声が聞こえる。
かしゃ、と携帯を閉じる音が聞こえて、さやかはソファから立ち上がった。マクロードはその一連の動作を見て、さやかと視線を合わせた。さやかはゆっくりと微笑むと鞄を肩にかけた。さやかが玄関に向かったのでマクロードもその後を追う。
「帰るわ。ありがとね、入れてくれて」
「いやーさやかちゃんならいつだって」
「ふふ冗談ばっかり。でもほんとにありがとねーいろいろ」
うん、とマクロードは頷いて、背を向けながらハイヒールを丁寧に履くさやかを見ていた。別に嘘なわけじゃないんだけどな。きっと本意は伝わることは無いんだろう。
さやかは立つと、優雅に振り返ってからマクロードに言った。
「飴噛むと虫歯になっちゃうわよ、マクロード」
そう言ってからさやかはじゃあね、と玄関扉の向こうにいなくなってしまった。マクロードはびっくりしてそのまま扉を見つめた。見ているはずはないと、思っていたのに。
マクロードは飴を取り出すと、折れ曲がってしまった棒を見て笑った。
逃げちまえ!にまで手を出してしまいましたイヨです。マクロードが大好きです。