つまらない理由はわかっている。上司が日本さんのところに遊びに行ってしまったからだ。私も付いていきたいって言ったのに。なのにあの人は「台湾はだめ、ここでまってなさい」って。私だって日本さんに会いたいのにいいい。私だって日本さんのこと好きなんだから。
 適当にそこに置いてあった雑誌を手に取り、表紙を捲る。時計の音と雑誌を捲る音が大きく聞こえる。いつも思うけど、時計の音ほど怖いものはないと思う。だっていつも一定で、ほとんど狂うことはないし、それにおんなじ音が続く。一音ずつ変えていってくれたら少し怖くはなくなるかもしれないのに。……いや、変わってても怖いかも。
 捲っていた雑誌を閉じて、時計に目をやる。午後七時。もうすぐ上司が帰ってくるかもしれない。椅子を廻して後ろを振り向くと、硝子張りの壁からは夜景が。
 きれい。
 会議をするときは私を越えて夜景が見えると上司は言っていた。笑いながら。その時はそんなに綺麗なもんでもないだろうと思っていたけど、やっぱり綺麗だった。きらきらして、光が少しぼやけててきれい。これならいつまでも見ていられるかもしれない。
 椅子を廻したまま暗い夜景に見入っていたら、こんこんとドアがノックされる。私は短くはい、と答えると、ドアが開くおとが聞こえた。
「おかえり」
「ただいま、台湾」
 がさがさ音が鳴る。またたくさんお土産買ってきたんだ、この人。いつもいつも日本さんのとこに行ってはたくさんのお土産、例えば木彫りの熊とか東京タワーの模型とか限定商品だとか、を買ってくる。私と行くといつも「持てない!」というけれど、今日は大丈夫だったのかな。
「台湾」
「なに?」
「これ、日本から」
 台湾宛にだってさ。そう言った上司の言葉で私はやっと上司のほうに椅子を廻した。にっこり笑う上司の手には大きくてたくさんの荷物と、手紙。ほら、と言って渡そうとするので私は椅子から立ってそれを受け取りにいく。
「……ありがと」
 上司にそう言うと笑って いいよ、と言ってくれた。ありがと、ほんとに。
 上司はそのまま部屋から出て行って、私は一人で手紙を楽しむことが出来た。手紙に書いてあったのは一文だけ。でもその言葉のひとつひとつで私は一喜一憂できる。日本さんの手紙には私を喜ばせる力があった。

  次は上司の方と台湾さん 二人で来てくださいね。



台湾ばっかり置いてるとか登録時へたなびさんに書いたのにその台湾のやつはプの方ににまわっているというミステリーがとても気になったので書きました。普通の日台が書けました。日本ありえないくらい出てないですけど。上司のことばっか台湾喋ってますけど。上司さんはわからなかったので上司のままです。