曇り

曇り
曇り
曇り

雲が覆う空にいるはずの太陽さえも


曇り







「雨、か」
 イギリスは窓に手を当てるとそう自虐的に呟いた。手からは窓のひんやりとした温度が伝わってくる。
 今日も雨だ。イギリスの天気はこのところ1週間ほど雨だった。そろそろ晴れるだろう、と思った先にまた雨であり、イギリスは落胆を隠せなかった。できるだけ自分の書斎に篭り、何故雨が続くのか考えてみる。
 しかし浮かばない。別に自分が不満を持っているわけでもないし、体調も悪くない。それでもきっと何かあるのだろう。雨の日と言うのはやる気を失う。イギリスは読んでいた本を閉じ、机の上に置いたままにする。窓から離れ書斎の椅子に座る。勢い良く座ったからぼふん、と椅子が悲鳴を上げた。雨だとやることが極端に制限される。ガーデンパーティも散歩も、傘をさしてまでやりたくはない。
 こんこん、と書斎が控えめにノックされる。イギリスが入れ、と言うと扉が奥ゆかしくもぎいと音を立てた。
 お客様が参られました。
 告げられた言葉にイギリスはぴくりと眉を動かした。客、なんて誰がいただろうか。
「……連れて来い」
 たっぷりと考える時間を取ってから、返事を待つメイドにそれを伝えた。


 連れてこられたのは中国のところの少女だった。耳元に造花の装飾。見たことがあった。中国の足元にしがみついていた小さな少女だ。どうしてここに、よりも良くここまで来たな、というのがイギリスが最初に抱いた感想だった。そしてそれから、ここに来る理由などないだろうと思った。少女はメイドに案内され、部屋に一歩入ればそこで足を止めた。メイドが部屋を出る。扉の閉まる音がして、そこに音が無くなった。
 イギリスは椅子で足を組みながら、彼女の言葉を待った。
「……阿片、くださいな」
 くっきり開いた彼女の口は赤かった。
「俺のところに来ないでも、そっちにあるだろう。そっちを当たれ」
「ありません。中国は制限をしにかかっていますから。私はこちらにもあると聞きました。ありませんか?」
 彼女の言葉遣いは丁寧でさえあったものの、言葉の端々には狂気が見え隠れした。ここでアヘンをもらえなければ、彼女は自害でもしそうな、危うい雰囲気を纏っていた。イギリスは書斎の引き出しを開けると、袋を目の前にちらつかせる。とたんに彼女は笑顔になり、イギリスの元へと駆け寄ってきた。




 窓を開けて、喫煙する彼女を見ながら、雨が火を消してくれればいいのにとぼんやり考えた。









中国ではアヘンを喫煙して摂取していたそうです。そこから。