※(たぶん)明治初期パロディの第二段。やってしまいました第二段。嬢と伺見です。相変わらず許せる方はどぞ。
伺見様は父様と話すときも私のことを「嬢様」、そして父様のことは「城主」と呼ぶらしい。父様が古風な男だと笑いながら言っていた。たっぷりの皮肉を込めて父様がそうではなければそれはないのでしょうね、と言えば確かにそうだ、お前の言う通りだと言った。そして皮肉に気づいていないらしくまた笑った。
私は閉口した。
廊下で会うと伺見様は必ず私が通り過ぎるまで頭を下げている。どれだけやめて欲しいと頼んでもやめてもらえない。目上の方に頭を下げるのは当然のことですと言って譲らないのだ。私よりも伺見様は年上なのに。伺見様は私が視界に映らなくなって初めて頭を上げる。だから実質伺見様と話せるのは食事中と寝る前だけなのだ。寝る前は早く寝ろとまくし立てられるだけだからほとんど話せているとは言えない。
食事中と言えば寝込んでいる母様を食卓へ呼んで、伺見様も招く。伺見様はしぶしぶと言った様子で椅子へ座るのだが、しばらく父様と話せばそれに合わせるように饒舌になる。私が口の挟めない金融や政治やらの話をしているからまったくわからないのだけど、母様はそれがわかるらしい。始終微笑みながら話を聞いていて、伺見は本当に良い人だわと言うのだ。どうしてその結論になるのか検討もつかないのだけど。
「嬢様はそれが私でなくとも、同じようにしますか」
同じよう、ということがわからず私が黙ったままでいると伺見様は少しいらついたように急かしながら言った。そんな伺見様を見るのは初めてのことだったので私は驚いてしまった。伺見様はあまり感情を表に出そうとはしないからだ。とは言ったものの嫌悪感は躊躇いもなく表情出すのだが、私はそれを無意識の内と踏んでいる。
「他の者が嬢様に頭を下げても嬢様は止めますか」
わからなかった。もし私が今の伺見様と同じことを他の人がしたら当然だとばかりに無視してしまう気がした。夜ずっと起きているのも知らないふりをしてしまうかもしれない。なぜ私がこんなにも伺見様を気にかけるかと言えばただ伺見様のことが好きだから、 この一言しかないのだから。私が何も言えずにまた黙ったままでいると伺見様はふと寂しそうな表情を浮かべたがそれは見間違いかと思うほど一瞬のことだった。
「やはり、そうですか」
伺見様はそう言ってからすっとどこかへ行ってしまった。