あーめあーめ ふーれふーれ かーあさーんがー
じゃーのめーで おーむかーい うーれしーいなー
台湾は日本の曲が好きだと言った。独特の言葉選びが素晴しいと言って良く俺に向かって賞賛した。適当にうんうんと聞き流したりとか真剣に聞いてみたりとかしてみたけど、大抵同じような内容だった。特に雨降りのときの曲が好きらしい。題名は忘れた。だいぶ前の話だ。きっともう誰だって覚えていない。
台湾が国になろうとしたとき、皆は思いっきりとめた。お前にはまだ早い、とか言う言葉が俺には白々しく聞こえた。国になるのに、丁度いい時期なんてあるんだろうか。経済的に成長したとき?それとももっと別のこと?良くわからないからあまり声を大きくして反対したことはない。国になるのは反対だった。まだ早いとかそんなんじゃなくて、国になってしまったら台湾が今までとは180度変わってしまいそうな、そんな感じがした。台湾が今の台湾のようになくなるのは耐え難い。もし変わってしまったら俺は仲良くしていけるのか自信がなかった。
だから、やっぱりまだ台湾は地域のままで、俺は国のままだ。
台湾は俺と会わなくなった。最近は忙しくなったらしい。台湾直営の工場やら何やらを見学しに行ったり指導しに行ったりしているらしい。これは日本から聞いた話なのだが、この話を聞く限りどうやら日本とはまめに会っているようだ。何だよ、俺には会わないくせに。その話を聞いた直後に俺の顔がふくれたらしく、日本にそれを指摘された。それは仕方ないんだぜ、と言うと日本は笑った。そうですね、仕方ないですね、と言って笑った。
会いにいこうにも、邪魔をするようで会いにいけない。行って相手にされないのは嫌だし、無理やり相手をさせるのも嫌だ。台湾が俺をほっとけないのは知っているから、なおさら。ああ、台湾に会いたいなあ。何日、いや何ヶ月会ってないんだ?わからないけど、とりあえず台湾に会いたい。みんなで撮った写真もあるから、忘れることは絶対ないけど、俺の名前を呼ぶ声が聞きたい な。
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かーけまーしょ かーばんーを かーあさーんのー
あーとかーら ゆーこゆーこ かーねがーなるー
今日台湾は雨が降るらしい。
天気予報でそれを見たとき、まず初めに俺のところはこんなに晴れているのに、と思った。かんかんとまではいかないが、晴天。ついでに、日本のところは曇りらしい。雨が降った台湾はどうなるんだろう。最近は露店が流行っていると聞いたけど、それらは閉まっているのだろうか。おいしそうな台湾のかき氷も、今は雨のせいで閉まっているかもしれない。コンクリートで固められた道路には、水溜りができるんだろうか。俺のところは微妙だけど。
急に確かめたくなる。台湾のところまで何時間かかるんだったっけ。でもまあ、何時間でもいい。俺はテレビの電源を消して、立ち上がる。背中の骨がボキッと音を立てた。微妙に痛い。
部屋の中から折り畳み傘を探して鞄の中に入れる。きっと明日の昼頃には帰るんじゃないかな。人事のようにそう思うと、とりあえず上司の携帯に伝言を残した。悪いけど、今日の仕事できない。そんな感じの内容をできるだけ早く伝えた。
あーらあーら あーのこーは ずーぶぬーれだー
やーなぎーの ねーかたーで なーいてーいるー
やっぱり台湾は雨が降っていた。しとしとと降るものだったけど、湿気がひどくて空気を吸うともわっとしたものが肺の中をいっぱいにした。ほんと、すごい湿気。蒸されてる気分になる。とりあえずかき氷が気になったので、それを探してみる。台湾はきっとまだ仕事してるだろうから、夜にでも会いに行ってみよう。きっとそこでも、邪魔しちゃうかもしれないけど。折りたたみ傘を広げるとぱき、と不吉な音がした。長いこと浸かってなかったから。お願いだから、明日帰るときまではもっていてくれよ。
適当に歩いていたら大きいかき氷の看板が出ていた。開いているかどうか気になったので足早に近づく。やった、開いてる。財布の中身を確認する。この前旅行に来たときの硬貨が残っている。良かった、まだ残ってた。
かき氷を片手に、どこかゆっくり食べられそうなところを探す。傘が不安定に揺れる。適当に歩いていたら公園を見つけた。やっぱり雨だから誰もいない。ベンチを探し出すのには成功したけど、やっぱり雨に濡れていた。仕方ないからタオルで拭いてそこに座る。座れただけでも万々歳だ。タオルは汚れてしまったから、家に帰ったら洗わないと。傘を肩と頭の間に挟む。やっぱり不安定だけど、両手使えるにはこうするしかない。
台湾で有名なかき氷、初めて食べる。上司がなにやら大絶賛していたけど、どれほどのものなんだろう。なんだっけ?なかなか溶けない、だっけ。とりあえず貰ったプラスチックのスプーンで掬う。どれ。
「……おお」
上司が大絶賛するのも、わかる。
とかなんとかやっててスプーンの勢いもどんどん増して、雨の勢いも同じように増したとき、じゃり、と砂を踏む音がした。なんだろう。傘が落ちないようにゆっくりと顔を上げると、そこにはいつものように桃色の民族衣装を着て、赤い傘をさす女のひとの姿が見えた。俺も同じようなものだけど。
「……何やってんのよ」
「台湾見学?」
「そういうことじゃなくって」
来るなら来るって一言でも言いなさいよ、と台湾は独り言のように漏らした。なんか、久しぶりだ。台湾の顔を見るのも、声を聞くのも、ぜんぶ。台湾は一歩一歩丁寧に踏み出してこっちに近寄った。雨水を含んだ砂利は、危険。
「でも台湾も忙しいんだぜー」
「今日はひと段落ついたところなの」
と言って台湾は目の前に立った。赤い傘がちかちかと眩しい。そういえば、俺の傘と同じ色だ。紅色。
「あ、食べてるんだ。おいしいでしょ、それ」
「俺の上司も気に入ってるんだぜ。やっぱりかき氷は、」
ぼん。
続きを言おうとしたときに音がして、頭にぱつぱつと雨の粒が当たる。赤い布が眼前にちらつく。台湾の方を向くと、台湾が口に手を当てているのがわかった。あ、笑ってる。
「あは、な、何それ……!何で傘がはじけるの……!」
「いや、俺にも良くわからな、い」
気づいたら傘は針金と少しの布だけになっていて、雨を防げなくはないけどかっこ悪い。なんだ、今日壊れたか。かき氷に雨が入ってないか心配になったのでそこに目を落とした。
「ほら、入って。どうせホテルも予約してないんでしょ」
「台湾の家に連れてってくれるんだぜ?」
「ばか、上司の家に泊まってもらうのよ」
と言って台湾は歩き出したので、俺は素直に従って台湾の後をついていく。でもやっぱり台湾との身長差は結構あったので、台湾の傘の柄を持つ。
「え、なに」
「俺が持つ」
「あ、ありがと」
台湾が傘の柄から手を離したので、俺はゆっくりと傘を上に持ち上げた。台湾がうらめしそうに身長はやっぱりある方がいいわね、と言った。俺は別に台湾はその身長がいいと思うけどなあ。そういうと台湾は恥ずかしそうにばか、と言った。
……そんなにばかだっただろうか。
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かーあさーん ぼーくのーを かーしまーしょかー
きーみきーみ こーのかーさ さーしたーまえー
なんだか、昔に戻ったみたいだ。昔もこんなことしていたなあ。
誰とだったっけ?日本?兄貴?台湾?
誰だったかは忘れたけど、同じように俺が傘を持っていたなあ。
ぼーくなーら いーいんーだ かーあさーんのー
おーおきーな じゃーのめーに はーいってくー
思い出した、同じくらいの背丈だったときに台湾と同じ傘に入ったんだ。
参加させてくださってありがとうございました!長いのを書くのは久しぶりで、とても楽しかったです。お題を拝見させていただいた時、まず初めに目についたのはこのタイトルでした。すぐ頭に浮かんだのがあめふりの歌だったので、それに沿わせて書かせていただきました。雨降りは好きじゃないですが、あの歌は大好きです。台湾に私と同じ気持ちになってもらいました。イヨは相変わらず捏造が得意です。捏造台湾で失礼しました。
イヨ