かたかたと音をたてながら食器を洗っているときだった。慣れない食器洗いだったからどうやって洗うかとか、洗剤の量とかがわからなくてほんのちょっとだけ泣いた。すずめの涙みたいに、ほんとーにちょっとだけ。ぽろりとでてすぐひっこんだけど、なんでこう僕は泣き虫なんだろうと思った。今にはじまったことではないだけに恥ずかしい。もし僕に好きな人とかできたら、そういうのって改善されるのかな。やっぱり努力したりするんだろうな。自分のことなのに客観的に考えた。そして自分が女の子だったら僕を恋人にするかどうかも考えて、ちょっとそれはないなと思った。やっぱり。自分より背が低かったりしたら幻滅するよなあ。これから伸びるかな。朝起きたらロシアさんの身長越してたりとか、そういうのないかな。そしたらバルト三国のなかでも一番背が高くなる。怖いけど。ロシアさんを見下ろすのが怖いけど。
そんなこと考えてたら手が止まっちゃってて水が出しっぱなしになっていた。だめだこんなに出しっぱなしにしてたら怒られちゃうよ!ほんっと僕はひとつのことやってたら他のことに手が回らないんだから! とか、そんなことを考えていたときに。
「……進んでる?」
あまりにも急の出来事で驚いて持っていた食器を落としそうになってしまった。幸いにも僕のお皿だったから良かったけど、これロシアさんのでしかも割っちゃったりとかしたら、……こわい。
「す、進んでますよ!僕これでも一生懸命やってるんですから」
「そう」
ベラルーシさんはそう言って僕の隣に立った。僕は今ベラルーシさんのコップを洗っている。
「あの、どうしたんですか?み、見てこいって言われたんですか?」
「ううん」
そう言ってからベラルーシさんはすこし間を置いた。僕はその言葉の続きが気になって、ベラルーシさんのコップを持ったまま固まった。また水道水は出てるし、コップには泡が付いている。
「この量一人で洗うの、大変でしょう。手伝いにきたの」
意外な言葉だった。確かに連日パーティがってそれをずっと誰も洗わなかったものだからたくさん食器がシンクに重ねてある。リトアニアさんもエストニアさんも出かけているから、必然的に僕一人でやることになってしまっていたのを、ベラルーシさんは気にしてくれていたみたいだ。
「じゃ、あ、僕が洗った食器、拭いてもらえますか?」
そう言って僕はあらかじめ用意しておいた乾いたタオルを渡した。ベラルーシさんはそれを手に取ると何も言わずに食器を拭いてくれた。
洗った食器もたくさん重ねておいてあるから、その食器を元に戻すのも大変だよなあ、と僕は考えた。
だけど二人でやるんだったら早く終わるだろうなあ。