目の前の野郎は、へらへらと目障りな割りに大佐まで登り詰めたという男だ。のくせに謙遜だけは人一倍でこちら側がどれだけ褒めてもするりと間を抜けてそこから抜け出す。今だってその例に違わず、嫌味の間を抜けて行くのだ。
「少将は変わりませんね」
「嫌味かマスタング」
「そう聞こえましたか」
「聞こえないと思ったか」
どちらかというとオリヴィエが嫌味にさらされているような気もするのだが、そういうことではない。
オリヴィエは座っているロイを見下げて睨みつけた。
「腹立つな」
「何がです」
「お前のその何も自分に関係ないとでも言っているような目が気に食わん」
座っているロイの顎をくいっと持ち上げてその目を見る。口元はさもおかしそうに歪めているものの、瞳だけはまっすぐオリヴィエを見据えている。本当に気にくわないな、と思う。チッと軽く舌打ちしてオリヴィエはロイの顎から手を離した。もういいんですか、と目元も楽しそうに微笑ませてロイはオリヴィエを見た。
「つまらん」
「そうですか」
椅子に座ったままロイは言った。オリヴィエはロイを軽く睨み付ける。しかしそれもロイはさらりと流してしまった。ただ流すためにそうしているのか上手く自分が傷つくことがないようにしているのか、わからなくなる。
彼はそう多く語らない。だからこそこちら側もそれを勘違いして受け取ったりする。どうにもあいつはかわいらしくないものだ。オリヴィエは廊下を闊歩して考える。それでも足は緩めないし、まさかつまずくなんてことはしない。
(いっそのこと)
泣かせてやろうか。
どうにかしてやろうか、というのがこれしか思い付かなかった。オリヴィエはロイが泣く姿を想像して眉間に皺を寄せた。
(くだらん)
それは本当にくだらないことで、つまらない。それで何も得るものがない。得るものといえば自分の満足感か。しかしそれすら手に入るかは怪しいというのに。