女性らしく食べませんね、と言ったら彼女は顔色も表情も変えずにロイを見た。見るというよりも睨むような、とにかくはいつもと同じような視線だった。
「なぜだ」
「いえ、ただたくさん食べるなあと思いまして」
 少し微笑んで相手を見るも、気に入らないらしく逸らされた。できるだけ相手の目を見て話そうと思うのに、彼女はなかなかそうさせてくれない。
「なら私はお前のまえでは女ではないのだな」
「いえ?私の中で少将はいつでも女の人なのですが」
 オリヴィエは驚いたようにふと視線をあげたが、またもあまり表情に差はなかった。そうか、とぽつりと漏らしてフォークを握った。そして目の前のたくさんの食べ物に手をつけるが、そのゆっくりとした食べ方にロイは育ちの良さを今更ながら感じた。
「育ちがいいのですね」
「今更気づいたか」
 蔑むように睨まれたがまったく嫌なものではなかった。そう思えるのはこの女性の人柄からだろうか。
「そろそろ帰りませんか」
「どうしてだ」
「時間も押していますし」
 ちらりとオリヴィエは時計を見て、それから綺麗に片付けられた食器を見てうむ、と頷いた。
「そうだな」
 そう言われたので早々に席を立って伝票を掴んだ。いくら出費してしまうだろうか。ロイはいつもより多目に入れてきた財布の中身を何回も確認した。



「まあまあ、旨かったな」
 そう一言だけ感想を告げると、オリヴィエは踵を返してゆっくりと反対方向に歩き始めた。少しだけお礼の言葉はないかと期待していたのだが、杞憂だったといえよう。オリヴィエが見ていないことはわかっていたが軽く手のひらをひらめかせ、ロイは帰路へと足を踏み出した。
「おい、マスタング」
 不意に名前を呼ばれ、ロイは振り返る。オリヴィエはこちらを向いている。そこまで距離は離れていないし、辺りもうるさくないのでそれでも声は届く。
「次私を誘うときはもっと安い店にしておけ」
 言われてロイは訳がわからなく暫し呆けたが、ようやく理解すると笑った。嬉しくて頬がゆるむ。
 オリヴィエはそれを見るとふっと笑みを溢してまた踵を返した。それを見届けて、ロイも安い店を考えながら歩いた。