※めちゃくちゃの捏造です。本能寺の変があった後で濃姫が甲斐に捕らえられてます。許せる方はスクロールどぞ。












 忌々しい女め、と信玄が吐き捨てるように言った。そしてその畳に濃を残したまま、信玄はそこを逃げ出すように離れた。隣の部屋で怒声を聞いていた幸村はそこへ行こうか行くまいか迷った。ここでのこのこ濃へ会いに行きそれを信玄に見られれば逆鱗に触れてしまう。幸村は悩んだが、放ってはおけないので立ち上がり行くことにした。ずっと座っていたためにぐらりと足元が痺れて立ちにくくよろめいた。
 襖を開け辺りを確認する。お館さまもあのいつも現れる忍びはいない。よし、と意気込み濃のいる部屋の襖に手をかける。だがそこで、今この部屋の中にいる濃がどんな姿でいるのかを想像して身の毛がよだった。顔に傷がついてしまったりなどしていたら、どう向き合って話せばいいのか皆目見当もつかなかった。しかし襖に手をかけた手前、後にひくこともできず、幸村はゆっくりと襖を横に引いた。少し手のひらに汗をかいてしまい腕が震える。
 そこにいた濃は、見知らぬ地へ幽閉まがいのことをされているにも関わらず涼しい顔をしていた。濃は優雅に脚を崩しながら座り、空を仰いでいた。襖が完全に開きぴしゃりと音がすると濃はこちらに気付き幸村を濃紺の瞳で見据えた。なんでもこの瞳で見られるとどうにも逆らえないような気分になる。不可解なことに。
 二人は暫し見詰め合ったが、とうとう恥ずかしくなり幸村は緊張し掠れる声で濃の名を読んだ。濃はそれを聞くと緊張させていた頬をゆるませて幸村を見た。
 真田さん、と濃は言う。ゆっくりと言葉の意味を確かめるように。そこから話は何も続かなかった。話し合うことも何もないままで、幸村は城主が自分の名を呼ぶまでずっと濃のところにいた。
「真田さん、わたくし、あなたと恋愛しに来たわけではございませんわ」
 濃は去り行く幸村に向かいそう言った。幸村はそんなつもりは微塵もないと言おうと思ったが、上手い言葉が見つからずぱくぱくと口を開いただけで終わった。
「いつ帰れるのでしょうね」
 濃がそう言ったのがなぜか気に入らなくて勢いに任せてばしんと襖を閉めた。顔が火照って熱い。さきほどの濃の発言で、どこか敬愛する信玄が貶された気がした。
(お館様には考えがあられるのだ)
 そう考えようともその考えなどは少しも読めず幸村は困惑した。ただ魔王の愛した女性がどんなものかと見定めるためなのかも知れないし、魔王の統一しかけたその手腕の程を聞くためかも知れない。幸村としては後者の方を信じたいが、前者がどうしても心の奥でひっかかる。まさか、とは思いたいのだが、幸村は敬愛する信玄のことを信じていられないようになってしまっているようでむしゃくしゃした。
 この城はあの蝶が来てから確実におかしくなってしまっている。