miu


  猫が死んだ。

  我儘で勝手で気まぐれで猫らしい猫だった。
  とても優しい猫だった。
  彼女そのものが幸せのかたまりだった。
  家の中が急に静かになった。

  足音がするわけでもなく
  必要以上に鳴くわけでもなく
  まして一日の殆どを
  眠って過ごしていたのだから
  彼女がいなくなっても
  静かさは変わらないはずなのに
  彼女の気配のなくなったこの家は
  不思議なほど静かになった。

  彼女がいなくても
  日々は何も変わらずに過ぎていく。

  外の猫は
  今日も変わらずにご飯をねだりに来た。
  向かいの家のTVの音は
  今日も変わらずに大きいし
  新聞配達は今日も変わらずに
  新聞をポストに入れていった。
  私は明日からも変わらずに仕事に行く。
  何も変わっていない。

  他人から見れば
  たかが猫が死んだくらい
  どこにでもあることで
  別にたいした話ではないのかもしれない。

  でも、私達家族にとって
  彼女と過ごした10年間は
  一生忘れられない幸せな時間だった。


2004.7.30 fri